5.オレンジに照らされて
高校2年である梨花の日課は鏡の前で話しかけること。ある日いつものように話しかけていたとき鏡の中の自分、リカにも自我があることに気付く。しかしリカは左右だけでなく性格も梨花とは反対であった。
リカの告白を聞いた梨花は彼女の覚悟に応えようとする。
リカの瞳に溜まったいまにも涙はこぼれ落ちそうで、握りしめた拳にはいまも力が入ったままである。私はその姿を見て彼女の覚悟を感じた。
その覚悟はリカと私は別人ということを改めて認識させた。同時に彼女を羨ましく思った。または彼女になりたいと思った。
「私、協力するよ。何をすればいい?」
梨花は声を振り絞る。この勇気ある友人に力を貸したかった。了承してくれるとは思わなかったのかリカは口を開けながら呆気に取られていた。
「私思うの。リカはもう持っている。大事な気持ちとかコミュ力とか、成功する要素は全部持ってるよ。でもその勇気がないんでしょ?」
勇気。彼女に足りないのはそれだけだった。これだけ陽気な人物が躊躇うのに考えられる理由はこれだけだ。
「え、ちが---」
「失敗とか気にならないようにすればいいってことだよね!それなら任せて!」
私は化粧台の引き出しを力強く引っ張る。その衝撃で化粧道具や小物類が引き出しの中をサァっとそれぞれ同じ位置関係を保ちながら奥に滑っていく。
奥にあったものを前に掻き出しながら目当てのものを漁っていく。久々に引き出しを開けたのでなかなか見つからない。
「あった!」
そうして出したものを鏡の前まで持っていって宝物を掘り出したかのように顔の高さに掲げた。それはカチューシャであった。
「え、まさかそれ付けるの?」
リカが怯えてるのにも理由がある。中学のころは前髪が邪魔でよくカチューシャを使って常におでこを出していた。だがある時に同級生のださいと言われたのを機に付けるのをやめていたのだった。
「ダサくない!可愛い顔を見せてこ!!」
「いや!それだけは恥ずかしいから!てか自分の顔に向かって言う!?」
もう半ばヤケクソだった。嫌がるリカを尻目にカチューシャに手を掛ける。すると私の動きと連動してリカもカチューシャを持ち上げる。これは先ほどやられた細やかな仕返しだった。
「え、うそ!うそうそ!いやぁぁぁ!」
普段は静かな自室はいつもより賑やかで、夕陽でオレンジ色に照らされていた。
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