1.リカとの出会い
高校2年である梨花の日課は鏡の前で話しかけること。ある日いつものように話しかけていたとき鏡の中の自分、リカにも自我があることに気付く。しかしリカは左右だけでなく性格も梨花とは反対であった。
人付き合いが苦手な彼女にとって鏡の中の彼女は次第によき相談相手となっていく。
「前髪、伸びたかな」
目に掛かった前髪を手櫛で横に流しながら呟いた。毛の束が指をくすぐりながらその間を抜けていく。
やがて毛先まで到達すると指という支えを失った髪は自重によって下に落ちてゆく。癖のないストレートな髪はここが指定地であるかのようにさらさらと元あった目の高さにきれいに戻っていった。
次にこめかみから後頭部にかけて掻き上げると肩まで伸びた髪はウェーブを描き、さながら黒い蛇が移動をしているようだ。
「そろそろ髪切りに行こうかな」
梨花は再度問いかける。とは言っても返答は返ってこない。
彼女はいま自宅の洗面台で1人で身支度をしている。隣のリビングでは母が娘への弁当を作っているのだがその母に向けているわけでもない。
「似合わなかったらどうしよう」
目の前の人物に語りかけているのだ。一目惚れして進学した学校の制服に身を包む女子高生。髪を短くしたいけど似合うか心配になっている女の子。
なりたい自分を探している自分。
鏡の中の梨花、私。
つい下を向いてしまう。いつからか自分に自信が持てなかった。なにかするにしてもまず初めに周りの目が気になってしまう。学校には友人がいる。
しかし、相談するにもこれが原因ですることができないので唯一の相手である自分にに語り掛けることが日課になっていた。
もし変われるとしたら変わりたい。おでこを前髪から出さないで活発に。人の前でも喜怒哀楽を堂々と。これが私だって言えるようになりたい。だから。
「…短くしてみたいな」
「してみなよ。似合うよ、絶対」
思いもしない返答に驚き顔をあげると爽やかな笑みともに腕を組んでいる私がいた。
戸惑う私にニカッと歯を見せる。
これがリカとの出会いだった。
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