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スーナの笛  作者: 白モン
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序章 動き出した世界

「おい。エリック待て。もう少し様子を見てからにしよう。レベッカはあいつのレベル何だと思う。」

「カイルッ。いつまでもここに隠れてるわけにはいかないだろう。早く倒さないとあいつが援軍を呼ぶかもしれないだろ。」

「あのトリブード。正面からじゃないと判断できないけど、多分レベル1か2よ。もしあいつがレベル2だったら即刻撤退ね。」


常に厚い雲に覆われてる寒々とした空。生命を感じない木々一つもない荒野。ガシャンガシャンと無機質な金属音を響かせながら歩くゴーレムのような大型のロボット。装甲の奥にある目のような青い光。周囲をキョロキョロと捜索している。大きな片腕についている機関銃でより戦慄が増す。


 カイル、エリック、レベッカの三人は銃を抱えながらじっと大きな岩の後ろに隠れている。

彼らの皮膚は金属ような光沢をもち、片腕や足、部位の所々が剝き出しの銀色。彼らは人造人間。自身たちをスーナと称する。身体のすべてが金属でできている。

 三人は大型ロボット、別名トリブードの調査任務をスーナの軍から預かった。危険度レベル1であれば、討伐して部品を持ち帰る手筈だ。


カイルは目じりの切れた大きな瞳を細め、様子を伺う。目標は背を向け、こちらに気づく気配はない。


「よし。今ならいける。二人ともいけるか。」

「いつでもいけるぜ。こいつをコアにぶっ放してやる。」

「私も大丈夫。援護は任せて。」


カイルは真剣な面もちで二人と目を合わせた。そしてコクッと頷く。

 

「3・・・2・・・1・・・。GO。」


三人はトリブードに向かって全力で走り出した。先に抜け出したのはカイル。俊敏な動きで側面に回る。ダダダダダッ!とマシンガンをお見舞いする。食らえばハチの巣になる勢いだ。


トリブードがカイルに向かう。寒き色で重量感のある手を振り下ろす。ガギンッと金属同士がぶつかる音。カイルは両腕をクロスさせ、攻撃を受け止めた。身体がギシギシと嫌な音を奏でる。


「カイルから離れなさい!このでくの坊!」


レベッカは少しあどけなさの残る顔を銃に近づける。パンッ!パンッ!パンッ!とリズムよくライフルを打つ。すべてトリブードの頭部に命中した。


カイル、レベッカは互いに攻撃を続けた。目標の金属ボディに火花が舞う。


「二人とも!そのままそいつを足止めしておいてくれ!」


エリックはトリブードに向かって低い姿勢で走った。羊のようなふわふわした金髪が揺れる。

身体ほどある大きなライフルを抱え、エネルギーを溜める。目標の股下をスライディング。そしてガチャッと銃口を向け、スコープを覗く。


「あばよ。」


ドン!と心臓に響くほどの大きな射撃音。それがトリブードの胸にある青い玉、コアに命中。胸に大きな穴。ガッ。ガガッと故障する機械の音。そして、目標はドンッと前から地面に崩れ落ちた。


トリブードを倒す方法はただ一つ。胸にある青色の玉。コアを破壊する。それが壊れれば活動停止となる。


「二人とも。お疲れさん。」


カイルはエリックとレベッカにはハイタッチ。三人とも大仕事をやり遂げた後のような清々しい表情。光沢のある肌や、銀色が剥き出しの腕や足を見なければ人間のようだ。


「いや~。今回も楽勝楽勝。俺様のチャージライフルで一発だぜ。」

「何言ってんの。そもそもあんたのエイムが壊滅的だからこういう作戦をとるしかないんじゃないの。 カイルもなんとか言ってやったら?」

「まぁ。カイルの火力はすごいからな。それぞれの持ち味を生かせばいいんだよ。」


三人は互いに目を合わせた。この廃れた世界。トリブードに震える世界。いつの日かこの奪われた世界を取り返せる。そう感じていた。


「さてさて。さっさとこれ持って帰って副司令官殿に渡そうぜ。遅くなるとうるさいんだよな。あのおばさん。」

「あんた・・・。あたしたちの身体には通信機が入ってるの忘れたの・・・。あーあ。私しーらない。」

「・・・まじ!?そんなこと言ってたっけ?・・・カイル?」

「頑張れ!ルシアさんはきっと可愛がってくれるはず!」


カイルはニコッと歯を見せて笑い、グッドポーズ。ボリュームのある黒髪が軽く揺れる。

丸い目の奥に動揺を隠しきれないエリックは、青ざめながらトリブードの解体を始めたその時。


ドカン!ッと何かが上空から落ちてきた。周囲には土煙が舞い、前が見えない。三人ともせき込む。目を細め、煙の中にいる物体を見つめる。見上げるほど大きな物体。


すると煙の奥から急に大きな腕がカイルに伸びる。


「あぶねぇ!」


と言う声だけが聞こえ、重い身体が突き飛ばされた。目を向けると、さっきよりも巨大なトリブードにエリックが捕まっている。グゥッと顔を大きく歪め、身体がギシギシと悲鳴を上げる。


「エリック!待ってろ!今助けるから!レベッカ!」

「わかってる!このでかぶつ。エリックを離しなさい!」


分厚いトリブードの身体に弾丸が弾かれる。


「お前ら!逃げろ!こいつはだめだ!レベル3だ!コアがでかすぎる!」

「何言ってんだ!お前を残して逃げられるか!」


二人は大きなコアに向かって攻撃を続けるが、トリブードは凶暴な腕でそれを防ぐ。エリックは歯を食いしばり、ライフルを掲げた。


「畜生。お前ら言うことを聞きやがれ!最大チャージ!」

「なにしてんだ・・・。おい。エリック。」


カイルの声、そして瞳が弱弱しく震える。エリックは大きな口をニヤッとさせ、


「あとは任せた!生き延びろよ!」


まばゆい閃光。エリックは地面に向かって最大限の溜めたライフルを放った。カイルたちはその衝撃で大きく後ろに吹き飛ばされた。


「いてぇ・・・。レベッカいるか?」

「うん・・・。大丈夫。」


同じところに飛んだのは幸い。まだ連携が取れる。戦える。カイルがそう思っていると、大気から嫌な音が伝わる。バキッ。ゴキッ。ガリッ。目の前で起きていることが信じられない。


エリックはトリブートに捕食されていた。


「エリック!!!」


カイルは必死に手を伸ばし、叫んだ。しかし、エリックは食い尽くされた。

そしてそれはカイルたちに背を向け、歩き出した。


「てめぇ。よくも・・・。殺してやる!今からお前を!ぶっ殺してやる!」

「カイル。待って。」

「お前も!見ただろ!あいつがエリックを!レベッカ。援護しろ。あいつは今ここで殺さないといけないんだ!」

「待って。」

「何を待つんだ!エリックをあいつは食い殺したんだぞ!」

「待って!お願い!」

「だから・・・。」


勢いよく後ろを振り向く。そこには片腕と顔の一部が欠けたレベッカがいた。いつもの凛とした姿ではなく、初めて見る戦闘不能な姿。カイルはすぐに駆け寄った。


「レベッカ!おい・・・。顔と腕が・・・。」

「幸いにも全損は避けれたみたいね。基地にパーツがあるからひとまず大丈夫よ。それよりもあのバカ。派手にやってくれたわね。戻りましょう。エリックが助けてくれた命を無駄にしちゃいけないわ。」

「畜生。またかよ・・・。また俺たちは・・・負けたのか・・・。」


カイルは悔しさでいっぱいになり、金属の腕で地面を叩いた。砂の粒子が大気を舞う。彼はトリブードの背中が見えなくなるまで憎しみと憎悪のこもった目で睨み続けた。


 同時刻。人造人間スーナたちが集まる基地エスペトから少し離れたところ。岩に囲われた遺跡のような場所にまばゆい光が集まる。光の輝きが落ち着くと、様々な機械が取り付けられた楕円体のカプセルが姿を見せた。プシューッと音を立て、楕円体の一部が開く。その中から白いワンピースを着た少女。弱弱しく歩き、地面に足をつけるが、やがてパタンと倒れこんでしまった。生ぬるい風が吹き、少女の絹のように細い金髪がなびく。しばらくして彼女は首から下げていた笛を咥えた。そして、それをピーっと鳴らす。なにかを訴えかけるように笛の音はこの世界に響き渡った

 

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