───やり直したい
「私は───、」
リチュはゆっくりと立ち上がり、心の声に対して一言、告げる。
「───ただ、やり直したい。人間と仲良くなんて、しなくていい。仲間のスライムもどうでもいい。初心も初心。最初の心を取り戻して、ただただ、生き残りたい。」
リチュがそう言うと、突如、リチュの後ろから『モルガナ』が現れる。
「『珍しいですね。復讐するでも協力するでもない選択ですか。』
『面白いじゃねぇか。それじゃあ、少し手伝ってやるよ。』」
『モルガナ』がそう言うと、リチュの目の前に突然、大きな穴が開く。
空間そのものに穴を開けたようなそれに、リチュを押し込む『モルガナ』。
リチュは、空間に押し込まれ、真っ暗な道を落下して、別の穴へと落ちて行った。
──────────
リチュが地面に落下し、目を開けると先程までいた森とは違う森に来ていた。
木の種類や花の種類それが、先程までリチュが森とは違う森に来ていることを示す。
それに何より───
「マナが…。ない…。」
そう。この森ではマナが一切ないのである。
空気中のマナを見ることが出来る、スライムであるリチュにとって、それは今までにないほど異様な光景だった。
「『ここは、君が元居た世界とは別の世界だからね。』
『アンタがやり直したいって言うから、今までいた世界とは別の世界に連れてきてあげたの。』
『ここなら、お前のことを知るやつはいない。好きに生きな!』」
『モルガナ』はそう言うと、リチュの返事も聞かずに空間にできた穴の中に消える。
「別の世界…。」
今までいた世界では、そこら中にマナがあった。しかし、この世界にはマナが無いのかもしれない。
だとしたら、最悪だ。スライムの餌はマナなのだ。そのマナがないとしたら、餓死は免れない。
「お腹が…。空きました…。」
リチュがそう呟いていると、リチュの後ろに2人の人物が現れる。
片方は戦士のような恰好をしていて、もう片方は魔法使いの見た目をしていた。
「おい!見ろよ!なんか人間の姿をしたスライムがいるぞ!!」
戦士が、リチュを指さしてそう言う。
リチュが声のする方を向く。
そして───
「美味しそうです…。」
そんな言葉が、リチュから出る。
戦士と魔法使いの体の中には、大量のマナがあったのだ。
「新種かなんかか?デカい被害が出る前に潰してやる!」
戦士がリチュに向かって剣を振り下ろした。
しかし、今まで何度かあった死を逃げ延びたリチュにとって、そんな剣を避けることなど容易だった。
「ちっ!! 小癪な!!」
戦士が振り返って、剣を振り上げたところで───
「いただきます。」
リチュが戦士を食らってしまう。
リチュの体の中で、戦士が暴れる。
リチュは戦士を体で押さえつけ、ゆっくりずつマナを吸い取る。
空気中のマナを吸い取るように、戦士の息からそれを吸い取っていく。
リチュは体の中で、戦士の胸や腹を刺激する。彼が、沢山、沢山息を吐き出すように。
マナを全て吸い取ったスライムは、戦士を吐き捨てる。
「おい!大丈夫か!?」
魔法使いが、戦士の体を揺らすが、反応がない。
「こ、こいつ。『アイスショック』!!」
魔法使いが、氷の塊を連射する。
しかし、リチュはそれを簡単に避け、左手を魔法使いに向ける。
「こう…。でしょうか。」
リチュは魔法使いの動きを真似して、細かくマナを左手から吐き出す。
氷の塊は勢いよく飛んで行って、魔法使いの頭を射抜く。
「(どうやら、魔法の出し方は、前の世界と変わらないようですね。)」
リチュは魔法使いの死体から、マナを吸い取る。
空気中にマナがない以上、人を狩ってマナを得るしかなさそうだ。
リチュはそう思って、歩き出す。この世界で生き抜くために。
結局、どの世界でも、弱肉強食なのだから。リチュは進み続けるしかなかった。
──────────
それから、リチュは次々と人や他の魔物を襲っては、マナを奪い取っていった。
マナは持ち主の気持ちに影響するのか、回収するマナは持ち主の憎悪によって毒素をおび、リチュの体は毒を持ち始めた。
最初の頃は、その毒によって、リチュは体調不良を起こしたが、それも次第に耐性を持ち始め、むしろその毒を、獲物を狩ることに使い始めた。
リチュの持った毒はかなり強力で、その毒によって多くの町が廃墟と化した。
さらに、リチュは進み続ける。新たなる村へと。
次の獲物を探し求めて…。




