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青空とこんにゃくアイス

目を覚ますとまず最初に目に飛び込んできたのは晴れ渡った青空だった。

魔界の空気は常に魔力を帯びていてどんよりとした紫色の雲に覆われていた。

目の前いっぱいに広がる青い空に思わず「きれいだな…」と、呟いてからはっと我に返った。


「ここは…!い、いてて…」


空間転移魔法の影響か痛む体を抑えつつ、王子は周辺をきょろきょろと見回した。青い空からここが人間族の支配する場所だというのは明らかだった。いつ敵襲があるのか分からない…父上はなぜこんな事を…王子はいつでも戦闘体制に入れるように警戒した。


敵は、現れなかった。

それどころかそもそも動いている生命体がまるでいなかった。目の前の道路を人間族がよく使う車ばかりが行き交っていた。


しばらく敵襲を警戒していた王子だったが、全くヒトの気配を感じないままようやく警戒を解いた。人間族の襲来はひとまず大丈夫そうだ。


ここはいったいどこなんだろうか…。王子は周囲を見渡した。建物が一つある。そこはひどく寂れていた。

いまの魔界では考えられない。

こんなところに誰かいるのだろうか?


風が強く吹いた。

ひとまず王子は建物の中に入って行った。

右手には人間学の教科書で見たことのある風景だった。いわゆる【改札口】だ。移動手段の限られている人間族が開発した電車と呼ばれる公共交通機関である。


どうやらオレは今『駅』と呼ばれるものの中らしかった。しかし、学校の教科書で見た時はもっとこう、人がたくさんいて、商いの店が並び活気があって…。


反対側を見ると店があった。所狭しと商品が陳列されているが、店に客はいなかった。

店先では老婆が1人、商品を並べていた。

どうやらこの土地の土産物などを扱う店のようだったが、申し訳程度に客寄せの旗が立っていた。


「すみません。あの…ここがどこか教えていただけますか?」


王子の声掛けに、老婆はゆっくり振り返ると怪訝そうな顔をした。


その手にはなにか灰色の、黒い斑点のはいった四角いプルプルとしたものを持っている。老婆の震える手の中でプルプルと震えた。


そのあまりの震え方はまるでその灰色のプルプルが生きているのではないかと思わせるほどに。


はっ…!ま、まさかあれはスライムか!?おのれ!老婆と思い油断していた…我が同胞を人質にして、盾とする気かっ!?


王子が体勢を立て直そうと後ろへ下がったその刹那。


「なーにいってるんだんべぇ。ここは群馬さぁ」

「グンマ…?」

「そうさぁ」


王子は聞いたことのない単語を口の中で呟いた。名前を聞いたところでここがどこなのか見当もつかなかった。

グンマ…?一体、どこの国の村なんだろうか。


「…にいちゃんアンタ、観光の人?」


老婆の鋭い眼光に王子はハッと息を呑む。

しまった油断した…!


「これさぁ、食べなねえ。ホラ、ホラ!」


いらないです。大丈夫ですと懸命に断るも老婆に無理やり口の中に突っ込まれる。


得体の知れない長い棒状のもの。


ひんやりとしながらも、液体ではない。アイスの類であって、けしてアイスではない。噛むと程よい弾力とヌルりとした食感。


こ、これは…!


「こんにゃくアイスね。群馬のね、名産品だからね」


老婆はにこりと悪魔的に笑った。

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