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アキラが死んだあの日から

作者: 桶満修一

 高校2年の夏、アキラが死んだ。


 宿題を中途半端に終わらせてベッドで寝転んでいた俺にその知らせが届いた。

 最初に浮かんだ感情は「マジか」だった。

 ただ、信じられなかっただけだったんだ。

 身近の人が死んだのは初めてだったから。


 「葬式の準備しておきなさいよ」


 母さんの言葉に「あ、うん」と心のこもっていない返事をしたのを覚えている。


 

 アキラの葬式は近日中に行われた。

 葬式に参加するのも初めてで、世界がモノクロになっているのかと思ったくらいで、柄にもなく緊張していたんだっけ。


 葬式にはいろいろな人がいた。

 遺影の近くでわんわんと泣いている人はアキラのお母さんかな?義務的に焼香をあげている人はそこまで親しくなかった親戚とかかな。俺以外に学校のやつは呼ばれてなかったのは幸いだった。こんなとこで会っても何を話せばいいのか分からないからな。


 だけど、なんで俺は呼ばれたんだろう。自慢じゃないが、俺とアキラはあまり親しくなかったと思うんだが。

 休み時間に話すことはあっても休日に遊びに行くことはなかったし、放課後も一緒に帰りはしたが、夜暗くなるまで遊ぶことは一度としてなかった。


 釈然としない気持ちはありながらも、特に何事もなく式は終わりを迎えた。

 俺の夏休みも1つの陰りを残して終わり、学校は後期が始まった。



 「村上アキラ君は夏休みの間に亡くなりました」


 学校が始まってすぐ担任の先生はそう告げた。

 クラスは一時騒然となったが、その日の内には夏休みに何をしたのかという溢れんばかりの話題にその訃報は押しつぶされた。

 それに言いようもない怒りを感じた。

 人が一人死んでいて、それでいて何も感じないクラスのやつらの無情さに嫌気がさした。

 今だってアキラの机には1軍のやつらが座っている。

 いくらアキラがあんまりクラスでは目立たなかったからって、そんなすぐに忘れてしまうか?

 俺だって仲はよくなかったが、それでも一週間はアキラのことが頭から離れなかったぞ。




 アキラが死んだのを色濃く感じたのは皮肉にもそんな学校でのひと時だった。

 授業が終わり次の授業が始まるまでの10分休み、俺はいつも通り面白くもない本のページをめくっていた。

 周りの喧騒で集中できない本をめくる理由は他の人から話しかけられないようにするためだ。

 本を読んでいて話しかけてくる人なんてそうそういない。

 まあ、話しかけてくる人はいるんだけど…………。


 「あ…………」


 いや、もういないんだった。

 空気を読まず話しかけてくるアキラは既にこの世には影も形もないんだった。

 アキラがいたあの時を思い出せば周りの喧騒は気にしていなかった。



 「お、何読んでんの?」


 「はぁ、普通話しかけるか?ただのラノベだよ。今話題で来月にはアニメ化されるんだけどいまいちかな。平々凡々で何百回も見た主人公最強系だよ」


 「めっちゃ辛口やん。俺もなんか読みたいんだけどオススメのやつある?」


 「だったら、コレなんてどうだ?結構面白いぞ」


 「じゃあそれ今度一緒に買いに行こうぜ」


 「やだよ、めんどくさい。一人で行け」


 毎時間の終わりにうるさいくらいに話しかけてきたあの頃が懐かしい。

 そうか、もうあの声を聞けないのか。



 「それじゃあ今日は終わりです。さようなら」


 先生がさようならと言うが早いか、荷物をまとめて帰路に就く。

 高校生にもなってどうして「さようなら」なんて言われないといけないんだよ。

 クラスメイトは仲間同士集まって意味の伴わない会話をしていて、いつまでたっても返る雰囲気になっていない。

 早く帰った方が良い決まっているのに、愚か過ぎて乾いた笑いしか出てこない。



 「そう思わないか?アキラ」


 「そう言うなよ。俺たちは家で遊ぶのが好きだけど、クラスのやつらは仲間同士で話したりどっかに行くのが好きなだけだろ?俺たちとは価値観が違うだけだよ」


 「そういうもんか。俺にはまったく分からないわ」


 「じゃあ、これから一緒にカラオケでも行くか?意外と楽しいかもよ」


 「冗談だろ?歌うよりは家でYouTubeで聞いた方が良いに決まってんだろ」



 あれ、アキラの声ってどんなんだったっけ。

 低くて、それでいて気持ちのいい声だったけど、思い出せない…………。




 「もうお昼だよ!そろそろ起きなさい!」


 うるさいなぁ、起きてるよ。

 ベッドで寝転んでYouTubeの動画を見漁りいつの間にか昼になっていたのか。

 もう見るものもないのに延々とスクロールで動画を探すこんな休日が過ごしたいんじゃないんだけど、遊ぶ友達もいないのが悲しいところだよな。

 誰も誘ってくれないし、自分から誘うほどの友達も…………。


 「もしもし、今から遊びに行かない?」


 「あ?どこ行くんだよ」


 「夏服買いたい」


 「今日はベッドから出る気ないから、また今度な」


 こんな感じで誘われるだけでいいんだけど…………。

 ……………………

 ……………………


 「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」


 俺の中でアキラの存在がやたらと主張するのに嫌気がさす。


 もう分かったよ!!!

 もう俺の中から出てってくれ!!

 こんな気持ちを抱きたいわけじゃない、事あるごとに思い出して「アキラがいたら」って思い出して、こんな女々しい気持ち、こんな平凡な人間が抱くような気持ちなんていらないんだ!!



 もう分かってるんだよ。

 俺とアキラが親しくなかったのなんて全部俺のせいだってことは。

 アキラはいつだって俺を誘ってくれてた。

 「遊びに行こうぜ」って「カラオケ行かないか」って耳に胼胝ができるくらいに俺を誘ってくれてたよ。それを全部断って一線を引いてきたのは俺だったんだ。

 それも別に「靡かない俺」っていう自分で作った「かっこいい俺」を演じるためにやった最悪にカッコ悪いことだったんだ。

 愚かだったのは、俺だったんだ。


 「また今度」があるって「また明日」が来るって思って、いつも通りがあるって思って全力で楽しまなかった俺が一番愚かだったんだ。



 意識してからはよりアキラが頭の中で主張してきた。

 

 登校の時も。

授業を受けているときも。

ふいに目を向けた花瓶の置いてある机を見た時も。

アキラの顔がおぼろげに浮かんでくる。


 そう、おぼろげなんだ。もうずっと。

 声はとっくの昔に、顔だって何となくでしか思い出せず、肩をたたいたときの感触も空を切るだけで思い出せない。

 死ぬとは、こういうことなのか。


 アキラの存在は夏休みに取り残されて、残された俺たちだけが思い出の中のアイツを追っている異様な感覚。

 その思い出だって正しいかどうかも答え合わせ出来ないでいて、アイツの顔も、声も、感触も、においも、何もかもがおぼろげでいる。

 そのままで俺たちは生きていくしかないのかもな。





 アキラが死んでから10年が経ち、俺ももう社会人になった。

 高校を卒業した後も死んだアキラのことは何度も思い出して、その度にあの頃の自分を呪った。


「どうして生きているときにもっと遊ばなかったのか」


 と。

 当たり前が続くとは思わない方がいい。

 誰もがどっかで聞いたことのある、陳腐でお行儀のいい言葉。

 だけど、この言葉があの時の俺をもう少し叱ってくれればよかったのにと何度も思う。


 あの頃の悲劇を経験した今でも俺は学ばず、いくつもの当たり前を砕かれ、その度に悲しんで悔いている。

 人がそう簡単に変われるわけはないとは思うが、それでも少しづつ変わっていかなければならない。

 もう変われないアイツ等に報いるために。


何となくで書いてみました。

アキラ側も書きたいって思ってますので、いつか書きます。

面倒くさくなったら書きません。

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