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【幕間】―ダミアン―

 ──姉上が、死ぬ……?


 グラント公爵家の長男であるダミアンにとって、一つ年上の姉は目障りな存在でしかなかった。

 独占欲が強く、我儘で、自分勝手で。

 母親がいなくなっても傲慢な態度は酷くなる一方で、公爵家の評判を落とし続けた。

 いずれ公爵家を継ぐダミアンにとって、自由に振る舞うイザベルが嫌いだった。

 子供の頃、イザベルが幼馴染みである第一王子のオーティスと、ストラッツェ公爵家のリオネルと遊んでいる時、ダミアンが交ざろうとしても仲間に入れてくれなかった。

 遊び相手を弟に奪われるのが嫌だったから──イザベルはそういう性格だ。

 こちらから突っ掛かれば、必ず突き返してくる。


 イザベルは、父親から直接勉強を教わっていたダミアンに嫉妬していた。

 イザベルは、愛するオーティスに婚約者ができたとき悲しくて泣いていた。

 イザベルは、誰よりも愛を求めていた。

 イザベルは、不器用な人間だった。


 そう、この世界で誰よりもイザベルのことを知っているのは自分だけだ。

 どんなに沢山の使用人たちに囲まれていても埋まることのない孤独を、唯一忘れさせてくれるのが嫌いな姉だった。

 イザベルと喧嘩している時、ダミアンは一人ではなかった。

 真っ直ぐに目を見て、相手をしてくれる。

 それがダミアンの知るイザベルだった。

 それなのに……。



『イザベルが亡くなれば、お前は満足か?』


 オーティスの誕生日パーティーで騒ぎを起こしたイザベルが、罰として物置部屋に入れられたと聞いた時、ダミアンは高揚した。

 当然だ。オーティスにしつこく付き纏い、次期王太子妃となる女性に嫌がらせをしてきたのだ。

 ただ、閉じ込められたと言っても、娘に甘い父親のことだから一晩ぐらいだろう。

 それでも父親からの酷い仕打ちに、イザベルが絶望に陥るには十分だ。

 そして、好きだったオーティスからも嫌われ、社交界からも追放されればイザベルは本当に独りぼっちになる。

 そうすれば、イザベルが最後にすがりついてくるのは自分しかいない。

 イザベルと繋がっているのは、もはや弟である自分だけなのだから。


 それなのに、なぜこんなことになったんだ。

 物置部屋に三日も入れられていたなんて知らなかった。

 同じ屋敷で過ごしていたのに、ダミアンは多くの使用人がいなくなるまで気づかなかったのだ。

 普段から一緒に過ごす姉弟だったら、こんなことにはならなかっただろう。

 それだけじゃない。

 なぜか屋敷を抜け出したイザベルは王宮に向かい、大怪我を負って戻ってきた。

 使用人たちは慌ただしく駆け回り、父親はイザベルの手を握りしめて祈りの言葉を口にしていた。


 ──違う。


 父親に訊ねられてダミアンは心の中で叫んでいた。

 こんな結末を望んでいたんじゃない。

 死んでほしいなんて一度も考えたことはない。

 けれど、何も言えずダミアンは部屋に戻ってきた。

 刹那、初めて姉を失うかもしれない現実に手が震えた。

 足が、震えた。

 全身から血の気が引いて、その場にへたり込んだ。


「あね、うえ……っ」


 この歪んだ感情さえなければ、普通の姉弟として一緒にいられただろうか。

 せめて挨拶ぐらいはまともに交わせる姉弟に。

 今にも死にそうな顔で横たわるイザベルの顔を思い出して、ダミアンの両目から大粒の涙が溢れた。


 ……だから、嫌いなんだ。


 どんなに酷い言葉や態度を取られても、本気で嫌いになれるわけがない。

 広い屋敷の中で、傍にいた家族はイザベルだけだったのだから。

 本当は弟の自分をもっと見てほしかった。

 構ってほしかった。

 遊んでほしかった。

 傍にいてほしかった。

 でも、イザベルはそれらを言葉にすることも許してくれなかった。

 自分はこんなにも愛していたのに。

 いつだってイザベルが追い求めていたのは、自分じゃなかった……。

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