表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
嫌われ者の令嬢は、私が愛しましょう。【8/29コミックス③巻発売!】  作者: 暮田呉子
外伝【拗らせ男子は、私が愛しましょう。】

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

43/53

外伝③

『いや……、やだ、リオネル……っ、リオネル、いやあぁあぁっ! ダメ、こんなの……私を、ここで一人にしないでっ、リオネル……っ』


 イザベルの甲高い悲鳴が響いた時、オーティスは首を傾げた。

 親友の血で赤く染まった剣は、両手から落ちて床に転がっていた。


「……イザ、ベル? ……リオネル……」



 二人はオーティスの馴染みだった。

 子供の頃は、同じ時間を一緒に過ごせるだけで良かった。

 広い王城の中で感じる寂寥感や、後継者教育の厳しさに逃げ出しそうになっても、彼らと遊んでいるとそんなことも忘れてしまうぐらい楽しかった。

 しかし、無敵だと感じていた関係も、砂上の楼閣だったのかもしれない。

 目の前にある繋がりを大切にしたいと思う一方、成長していくにつれ、それだけでは満足できなくなっていった。

 相手を傷つけてまで想いを偽ることも、真逆の態度をとって己の気持ちをひた隠しすることも、もはや限界だった。

 壊れることを恐れず、手に入らないと知った時点で完全に突き放していれば、今回のようなことは起こらなかったのに……。

 ──それでも、最後の最後まで諦めきれなかった。



「ストラッツェ公爵家の公子様と、グラント公爵家の公女様の婚約が決まったようです」


 王城の一角。

 貴族裁判でリオネルを刺したオーティスは、王命によって自室で軟禁されていた。

 普段は廊下で立っている護衛の騎士が、今は部屋の中に必ず二名、交代しながら一日中見張りに立っている。王太子自ら命を絶つような真似を、未然に防ぐためだろう。

 国王夫妻の子供は、オーティスただ一人だ。

 そのため両親はもちろん、周囲の期待は彼だけに向けられてきた。王位継承者として絶対の立場にいたからこそ、出来て当たり前だと見られることも多く、頼れる者は誰もいなかった。

 けれど、イザベルだけは違った。


「オーティスは抜けているところもあるし、絵も可哀想なぐらい下手だけど、それでも私には完璧な王子様よ」


 どんなに失敗して無様な姿をさらしても、イザベルはそれすら受け入れてくれた。彼女の前だけは、物語に出てくるような王子様でいられたのだ。

 イザベルがいれば、つらい教育も耐えられた。出来て当たり前だと思われることも、彼女だけは目を輝かせて凄いと褒めてくれたから。

 これまで歯を食いしばって過ごしたことも無駄ではなかったと、目頭が熱くなったのを覚えている──。

 従者から報告を受けたオーティスは、窓辺に座って頭を抱えた。


「私だって、イザベルが好きだった。リオネルに負けないほど、愛していたんだ……」


 それなのに、どこで間違ってしまったのか。

 ──今なら、イザベルの気持ちが痛いほどよく分かる。

 あの時、イザベルは必死の思いで会いに来てくれた。世界のすべてを敵に回しても良いと。彼女の瞳には自分オーティスしか映っていなかった。

 なのに、イザベルとは違って自身に課せられた責務や立場を捨てきれず、彼女を拒んでしまった。

 あれが最後の選択だと知っていれば、突き放すことはしなかった。次に会った時、まるで別人のように変わってしまったイザベルに、体の芯まで凍り付くようだった。

 もし、イザベルの気持ちに応えられていたら、すべてを投げ出して彼女の手を取っていたら、こうして何もかも失うことはなかっただろう。

 少なくとも、心から愛する人だけは腕の中に閉じ込めておけたはずだ。

 ──今からでも、イザベルに本当の気持ちを伝えたい。

 リオネルではなく、自分を選んでほしいと。愛していると告白して、抱きしめたい。傷つけるような真似をしてすまなかったと謝りたい。

 閉じ込められた部屋の中で、考えることはイザベルのことばかりだ。

 夢の中まで彼女の幻影を追いかけて、頭がおかしくなりそうだ。食事は喉を通らず、ゆっくり眠りにつくこともできない。

 辛うじて保っている理性は、罪悪感と後悔で押しつぶされそうになっていた。

 今すぐこの苦しみから解放されるなら、悪魔にもなんでも身を委ねてしまうだろう。


 ──……誰でもいい。


 この悪夢から救ってくれるなら何でもいいと、オーティスは窓に映る己の変わり果てた顔を見て顔を歪ませた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
★コミックス③巻 2025/8/29発売★
4iz54oe73fokebn5e5f7blq4m6to_cd9_8c_bv_6l4l.png
▲公式サイト
漫画担当:藍原ナツキ先生
配信:講談社マンガアプリPalcy(パルシィ)・pixivコミック
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ