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嫌われ者の令嬢は、私が愛しましょう。【8/29コミックス③巻発売!】  作者: 暮田呉子
第一章

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嫌われ者令嬢と語られる真実⑧

 アキちゃん、いつも一人で可哀想だから一緒にいてあげなさい──そんな風に言われて、嫌々手を差し出してきたのは、近所に住む同級生の男の子だった。

 運動神経抜群な彼はクラスでも人気者で、好意を寄せる女の子も多かった。幼馴染みでなければ一緒に過ごすことはなかっただろう。

 ただ、最初は仕方なく付き合いっていた幼馴染みも、一緒にいる時間が増えれば自然とそれが当たり前になっていた。

 元から面倒見が良かったのか、次第にお節介なほど世話を焼くようになった彼に、面倒臭くなってきたのは私のほうだ。

 けれど、周囲の視線は違った。

 幼馴染みを独り占めする私を、他の同級生は快く思っていなかった。私が嫌がらせを受けるたびに幼馴染みが割って入ってくるのも、気に入らなかったのかもしれない。

 不釣り合いな二人を、同級生たちは引き離したかったようだ。

 幾度となくそれっぽいことは言われたが、一緒にいたくているわけではなかった。すべては行動範囲の広い幼馴染みがいけないのだが、正直に答えたら生意気だと文句を言われた。

 そんな時だった。

 その日はクラブ活動があるから先に帰ってくれと、幼馴染みが知らせにきた。一緒に帰る約束はしていないのに、いつも決まって知らせにやってくる。

 分かったと頷いた私は、一人で学校を出た。しかし、下校の途中で筆箱を教室に忘れてしまったことに気づいた。

 取りに行く必要はなかったが、自分の知らないところでイタズラされるのは嫌だった。筆箱や机の中にゴミ屑を入れられていることなんてことは、日常茶飯事だったから。

 日中の騒がしい校内とは違い、人気のない廊下を歩いて教室に戻る。すると、そこにジャージ姿の男子が数人集まっていた。これからクラブ活動に向かうのだろう。そこには幼馴染みの姿もあった。

 彼らがいなくなってからにしようと思ったとき、空いていたドアから彼らの話し声が聞こえてきた。


「なあ……お前、あの幼馴染みとは付き合ってんの?」

「それ、俺も気になった。本当に好きじゃなかったら、あの子と一緒にいないだろうし」

「いっつもべったりだもんなぁ」


 すぐに自分と幼馴染みのことだと気づいた。今までにも似たようなことはあったから。そのたびに違うと否定してきた。

 見れば、数人の同級生が幼馴染みを取り囲んではやし立てた。お幼馴染みは真っ赤な顔で「違うしっ!」と、声を張り上げていた。

 私だったらもっと冷静に答えていただろう。なのに、明らかに動揺した様子の幼馴染みに、他の男子は口笛を吹いたり、手を叩いたりして盛り上がった。


「アキ? べっ、別に好きじゃねーし! 家が近所っていうだけで、一緒に遊んでただけだし。だいたい、自分よりでかい女、誰が好きになるかよ!」

「──……」


 廊下まで響いてきそうな声で、幼馴染みは言い返していた。

 はっきりと否定する幼馴染みに、他の男子は「うわ、ひでぇ」「もっと大事にしろよな」と笑っていた。悪意はなかったのかもしれない。そこへ居合わせなければ、私と幼馴染みの関係も変わらなかったはずだ。

 でも、私はその会話を耳にしてしまった。

 感情がサーっと冷めていくのを感じながら、皆のいる教室に入って行った。


「あ、アキ……!?」


 何も言わず教室に入っていき、自分の机に向かう。

 突然の本人登場に、気まずそうな空気が流れた。もちろん私本人が現れるなんて、誰も予想していなかっただろう。


「アキ……帰ったんじゃなかったのか……?」

「忘れ物を取りに来たの」


 普段と変わらない態度で答える。

 一方、幼馴染みは激しく狼狽して、ふらふらとした足取りで近づいてきた。周囲にいた男子たちは逃げるようにして教室から出て行った。

 二人きりになったところで、私は机の中から筆箱を取り出し、幼馴染みに視線を向けた。


「もしかして、さっきの……」

「──私なら大丈夫。いまさら何を言われても平気だから」

「ちがっ、アキ!」

「違わないよ。本当のことだから、気にしてない。無理して一緒にいる必要もないし。……それじゃ、私は帰るから」


 また、明日。と、言おうとしたが言葉が出てこなかった。

 私はそのまま踵を返し、急いで教室を出た。後ろから「アキっ!」と呼ばれた気がした。しかし、振り返ることなく駆け出していた。

 ……最初から分かっていたじゃないか。

 期待すればするほど傷つくのは自分の方だって。だから何も期待しないように生きていこうと決めたではないか。

 それなのに、どうして胸が痛むのだろう。

 教室からどうやって学校を出てきたのか、どんな顔で家まで走ってきたのか。

 家の中に入った瞬間涙が一気に溢れ、私は泣きじゃくった。

 許せなかった──少しでも期待してしまった自分が。幼馴染みは他の人とは違うかもしれないと思ってしまった自分が。けれど、彼もまたその他大勢と変わらなかった。

 両親からも見放された自分を、一体誰が好きになってくれるというのだろう……。


 私はその日から以前にも増して心を閉ざし、幼馴染みを徹底的に避けるようになった。

 何度か話しかけてきた幼馴染みに、挨拶を交わすこともなく、顔を合わせることもなく通り過ぎた。

 そのうち自然と距離ができて、また一人ぼっちになった。

 ……それで良いと思った。

 しばらくしてから、幼馴染みが親の都合で遠くの学校へ転校する話が聞こえてきた。

 私はただ安堵した。ようやく離れられると安心したのだ。

 そして、幼馴染みが転校する日。私は見送りの言葉ひとつかけることなく別れた。最後はあっけないものだった。

 でもこれで、もう二度と会うことはないと胸を撫で下ろしていた。


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★コミックス③巻 2025/8/29発売★
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▲公式サイト
漫画担当:藍原ナツキ先生
配信:講談社マンガアプリPalcy(パルシィ)・pixivコミック
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