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嫌われ者の令嬢は、私が愛しましょう。【8/29コミックス③巻発売!】  作者: 暮田呉子
第一章

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27/53

嫌われ者令嬢と語られる真実⑤

 別荘での暮らしは、私にとって快適だった。

 うっかり寝過ごしても、誰も起こしに来ない。

 身支度は自分一人で整え、一人暮らしだった頃の気楽さが蘇る。クローゼットに用意された洋服は、どれも一人で着替えられるものばかりで助かった。

 部屋から出ても監視役の護衛はおらず、使用人と出くわすことも少なかった。


「起きてきたか、イザベル」

「……おはよう。朝から元気ね」

「サボると腕が鈍るからな」


 別荘の中庭では、リオネルが剣術の訓練をしていた。

 こうして毎朝、彼のところへ挨拶に行くのが私の日課になっていた。

 リオネルは私が起きてきたタイミングで訓練を止め、朝食を共にする。その日によって昼食になることもあるが、一度として文句を言われたことはない。


「少し早いが昼食にするか」

「……寝坊して悪かったわ」

「何が悪いんだ? 良く眠れたってことだろ?」


 ここへ来てからリオネルの態度は、ますます変わった。

 イザベルが我が家のように過ごしていると、自分のことのように喜ぶ。優しさと気遣いは、こちらが恥ずかしくなるほど甘いものになっていた。向けられる視線も、蕩けそうな表情も。

 自分がイザベルであることを忘れてしまいそうになる。


「先に食堂へ行っていてくれ。俺も着替えてからすぐに向かう」

「分かったわ」


 リオネルはシャツの胸元を掴んで顎の汗をぬぐい、剣とタオルを持って自室に引き上げて行った。

 彼もまた別荘では、使用人を傍に置かなかった。自分でできることは一人で済ませ、貴族らしからぬ生活を満喫しているように見えた。

 食堂で待っていると昼食が運ばれてきた。野菜や魚の載ったワンプレートだ。

 公爵家にいたときは食べきれないほどの料理が運ばれてきたが、ここでは余計な気遣いをする必要がなかった。

 軽く汗を流してきたリオネルも遅れて現れ、私の斜め横に腰を下ろす。十人掛けのダイニングテーブルだが、使われるのはほんの一部だ。


「明日はユヒ湖に行ってみないか?」

「いいわよ」


 てっきり隠れて過ごさなければいけないかと思ったのに、リオネルの行動は驚くほど正反対だった。

 毎日のようにイザベルを外へ連れ出そうと誘ってきた。とくに人が多く集まる場所へ案内され、わざと人目に付くような言動を取ることがある。

 これでは尾行してきた相手に居場所がバレてしまうと思ったが、今のところそんな様子はない。

 次第に危機感も薄れて自然に承諾すると、リオネルは控えていたメイドを呼んだ。


「明日、二人分の弁当を用意してくれ。パンに、野菜や肉を挟んだものを作るように。──ああ、それから片方には玉ねぎを入れずに頼む」

「畏まりました。飲み物なども準備するように伝えておきます」


 昼食を終えてからでも十分間に合うのに、リオネルは待ちきれないといった様子で、メイドにあれこれ注文していた。

 まるで、遠足にはしゃぐ子供ではないか。

 私は恥ずかしくなって食事に集中した。

 メイドは終始笑顔でリオネルの対応にあたり、受けた指示を伝えるために一旦退出していった。面倒くさい主人を持って大変そうだ。

 私は食後のデザートに手を伸ばした時、ふと気になって視線を持ち上げた。


「そういえば、リオネルって玉ねぎ嫌いなの?」


 食事に関しては出された食事はすべて平らげるイメージがあっただけに、メイドへの細かい注文は意外だった。イザベルの記憶を見ても、そのような情報はなかった。

 すると、リオネルは思い出したように食事を再開させ、空腹を満たしつつ視線だけを向けてきた。


「何、言ってるんだ。食べられないのはお前の方だろ?」


 不思議そうな目で見つめられ、私は「……そう、だったわね」と返すのが精一杯だった。嘘や冗談を口にしているようには見えなかった。

 けれど、一つひとつと増えていく違和感に、私は胸騒ぎを覚えた。


『今度はお前の傍にいるから。一人で抱え込むな、お前の悪い癖だぞ』


 イザベルは、美容のために野菜は何でも食べていた。それから彼女は、一人で悩みを抱え込むようなタイプではなかった。むしろ周りに喚き散らす性格だ。

 リオネルの記憶するイザベルとは、どれも異なっていた。

 むしろ、それはイザベルの方ではなく……。

 親しみのある別荘の内装といい、外壁のペイントといい、増えていく情報から疑いは確信に変わっていく。

 ──リオネルはイザベルを通して、一体誰を見ているのだろう。

 話したいことがあると言ったきり、何も言ってこないリオネルに、私は言いようのない不安を募らせていった。


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★コミックス③巻 2025/8/29発売★
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▲公式サイト
漫画担当:藍原ナツキ先生
配信:講談社マンガアプリPalcy(パルシィ)・pixivコミック
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