嫌われ者令嬢と語られる真実①
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子供の頃は両親の愛情を求めた。
けれど、いつも決まって「忙しいから」と避けられた。
仕事で忙しかった両親は、結婚当初から子供は望んでいなかったようだ。そんな両親に「運悪く」できてしまったのが「アキ」だった。
母親は産休だけ取って私を産むと、さっさと自分の母親に預けて仕事に復帰した。私には母方の祖母になるが、記憶は殆ど残っていない。それでも死なずに済んだのは祖母のおかげだ。
小学校に通うようになってからは祖母と会うこともなくなり、両親のどちらかが帰ってくるまで、家では一人ぼっちで待つことが日課になった。
お腹が空けば用意された菓子パンを食べ、外で雷が鳴っていても、床を突き破るような地震が起きても、慰めてくれる人は誰もいなかった。体を丸めて震えながら恐怖をやり過ごし、気づけば眠りについていた。
そうやって生活していく内に何かに期待する気持ちも薄れ、自然と諦めることを覚えていった。
自分自身が壊れないための自己防衛だったのかもしれない。
深い孤独の中でひっそりと生きてきた。
だから、私にとって愛は想像の世界でしか存在しなかった。
自分には一生知ることがない感情だと思っていた。
しかし、死んだと思ったのに運命のイタズラなのか、気づくと別世界の少女に憑依していた。
これまでの現実とは異なり、取り巻く環境も立場も私の時とは全く違っていた。
それでも、孤独なことに変わりはなかった。
──違う、同じじゃない……。
イザベルもまた誰にも愛されず、愛を知らない少女だと思っていた。
皆から嫌われているイザベルを理解してあげられるのは自分だけ──そう思って、自分だけは愛してあげようとした。
しかし、彼女は私と違って「愛」に貪欲だった。
憑依したときに残っていたイザベルの心念は、孤独しか知らない私を激しく揺さぶった。
彼女は好きな人に執着し、愛されることを強く求めていた。それは私が知らないもの──否、忘れかけていたものだった。
「私が、もっとワガママだったら……。もっと二人を求めていたら、お父さんもお母さんも私を、愛してくれたのかな……?」
イザベルのようにもっと求めていたら?
愛してほしいと伝えていたら?
私はここにいると叫んでいたら──「アキ」の人生は違っていただろうか。
もう両親に会うことができなくなってしまった今、心残りと後悔ばかりが積み重なっていく。
愛されなかったけれど、それでも自分は「愛していた」と伝えたい──。
その時、手に温もりを感じた。優しく握り締められて、自然と涙が零れた。
誰かにこうやって慰めてほしかった。
存在を認めてほしかった。
ここにいてもいいよって言ってほしかった。
私は誰か分からない手を握り返して唇を薄く開いた。
ただ感謝の言葉は、深い睡魔に襲われて伝えることができなかった……。