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【幕間】―リオネル②―

 イザベルはオーティスに執着し、他には目もくれなかった。

 婚約者候補のリオネルは、意識さえしてもらえなかった。幼馴染みとして傍にいたのは同じだったのに。

 けれど、悔しいと思う反面、オーティスを一途に愛し続けるイザベルから目が離せなくなっていた。

 もし、自分も彼女の金色の瞳に見つめられたら、どうなってしまうだろう。今までのように接することができるだろうか。

 その時から自分もまたイザベルを愛し、深く愛されたいと望むようになっていた。


 だから、手を伸ばせば簡単に手に入れられる親友が羨ましかった。いつだってイザベルに慕われ、独占しようと思えば出来たのだから。

 それなのに、オーティスは心のない優しさで己の庇護欲を満たし、自分だけが愛されているという優越感に浸っていた。

 同時に、周囲から同情されることで被害者の仮面を被り、自分が理想とする女性と婚約した。

 イザベルを諭す機会はいくらでもあったのに──オーティスはそれをしなかった。

 憧れていた親友は、イザベルの好意を長い間弄んでいたのだ。


「違う、リオネル私は!」

「お前にはもう婚約者がいる。今からイザベルと会って、また彼女に不都合な噂が出回ったらどうするつもりだ」

「……っ、どうして急にそんなことを言うんだ。お前がイザベルに何か言ったのか? そうなんだろう? そうでなければ、イザベルが私から離れるなんてことは……!」

「オーティス!」


 追い詰められた様子で喋り続けるオーティスに危うさを感じ、リオネルは彼の両肩を掴んだ。

 強く揺さぶられたオーティスは両目を見開き、ハッと我に返った。しかし、その目には動揺と困惑の色が浮かんでいた。


「……私だって、何度も離れなければと思ったさ。イザベルと婚約すれば公爵家同士の均等が崩れ兼ねない。彼女の性格だけが問題ではなかった……。けれど、イザベルは私を好いてくれた。最初は可愛い妹ぐらいにしか思っていなかったのに」

「オーティス……」

「あの自作自演だって、怯えたイザベルが私から距離を置いてくれると考えたからだ……。ただ、脅かすだけで良かったんだ。実行したメイドは、元々王室の横領に関わっていて死刑は免れなかった」


 それでメイドを焚き付けたのか。

 成功すれば命だけは助けてやると言われたら、メイドだって選択肢はなかったはずだ。

 しかし実際は、オーティスを狙った暗殺は、計画したオーティスですら予想しなかった結果を生むことになった。

 怯えてくれると思ったイザベルが、身を挺してオーティスを助けたのだ。

 イザベルは軽い怪我を負い、捕らえられたメイドは裁判に掛けられることなくすぐに処刑された。おかげで、オーティスの計画が外へ漏れることはなかった。

 ただ、その場にいたリオネルは、オーティスに違和感を覚えていた。

 彼は自分が暗殺者に狙われたことより、イザベルの怪我に酷く動揺していた。まさか、守られるとは思っていなかったようだ。

 だが、その事件がきっかけでイザベルは更にオーティスへ執着するようになり、オーティスもまたイザベルを遠ざけることができなくなってしまった。

 オーティスに同情の目が向けられると、イザベルは社交界の嫌われ者になった。そして孤立したイザベルは、より一層オーティスに心酔していき、止めようのない悪循環が生まれた。

 もし、このままだったらイザベルは遅かれ早かれ破滅の道を辿っていただろう。

 リオネルは苦虫を噛み潰した顔で奥歯を噛んだ。


「わが身を投げ出して守ってくれたイザベルに、女性として惹かれるなというほうが難しい……。どんどん膨れ上がっていく気持ちに、どうしたらいいか分からなくなった。私は王太子という立場があるのに。──リオネル、お前だって分かるだろ? 諦めたくても、諦めきれないこの気持ちが……!」

「俺は、お前とは違う」


 オーティスは幾度となく、イザベルを傷つけて自分から引き離そうと企てた。

 きちんと話し合えば二人で解決できた問題なのに、多くの人を巻き込んだ。

 好きな相手を破滅に導くなど、リオネルには考えられなかった。自分がもっと早く対処できていればと、後悔せずにはいられない。

 鋭い視線で見つめると、オーティスは両腕を掴むリオネルの手を振り払った。


「……そうだな。今のリオネルなら、簡単に彼女を手に入れられるんだから」

「イザベルは物じゃない」


 イザベルはオーティスの欲を満たしてくれる道具じゃない。

 彼女はようやく呪いにも似た縛りから解き放たれ、自分の道を歩もうとしている。

 オーティスを失った悲しみは残っていたが、それは彼女自身が乗り越えなければいけない壁だ。


「イザベルはお前への気持ちに区切りをつけ、これから他のことにも目を向けるようになる。俺はその手伝いをしてやりたいと思っている。だから、もう邪魔をしないでくれ」

「────」


 リオネルは一歩後ろに下がると、オーティスに深く頭を下げた。

 親友として、幼馴染みとして。

 心から願っていることを口にすると、オーティスは拳を握りしめて唇を噛んだ。

 そのまま返事は貰えず残念に思ったが、どこかで断ち切らなければいけない。リオネルは、踵を返して彼から離れようとした。

 刹那、遠くから誰かの叫ぶ声がした。

 嫌な予感がして、リオネルは反射的に駆け出していた。オーティスはその場に留まることに決めたようだ。

 リオネルが噴水の場所まで戻ってくると、そこにはイザベルを抱きかかえながら「誰か来てくれっ!」と叫ぶ、ダミアンの姿があった。

 必死に助けを呼ぶダミアンに、リオネルは駆け寄って状況を確認した。


「何があったんだ!?」

「そ、それが、姉上が突然倒れって……っ! またあのようなことになったら、私は……っ」

「落ち着け、ダミアン。急いでイザベルを医者に診せよう!」


 気が動転しているダミアンを落ち着かせ、リオネルは意識のないイザベルを抱え上げた。

 ──また自分が目を離している間に。

 リオネルは舌打ちして、両腕に抱えたイザベルを急いで屋敷に運んだ。

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