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嫌われ者の令嬢は、私が愛しましょう。【8/29コミックス③巻発売!】  作者: 暮田呉子
第一章

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嫌われ者令嬢と拗れた恋心③

 馬車がストラッツェ公爵邸に辿り着くと、ダミアンは言い掛けた言葉を呑み込んだ。

 今は何を言っても無駄だと思ったのだろう。彼の姉は、窓から見える屋敷に目を奪われていたのだから。

 グラント公爵家の屋敷も広大な敷地にあったが、ストラッツェ公爵邸も負けてはいない。

 侵入者を阻む大きな門を抜けると、底まで透き通った川が流れ、石畳の橋を渡り終えると、そこには一面青々とした芝生が広がっていた。犬がいたら喜んで走り回っていただろう。

 重厚感ある赤レンガの屋敷までは緩やかな登り坂になっていて、邸宅から見下ろされているような気分になった。まるで「見張っているぞ」と言われているようで、悪いことはできないと震えた。

 私がぶるっと震えると、気づいたダミアンが声を掛けてきた。


「寒いのですか?」

「……違うわ」


 一瞬、ダミアンが心配そうな表情をする。それを気のせいにして、私はすぐに目を逸した。

 乗っていた馬車は坂を上がって、屋敷の前で止まった。

 外から「失礼致します」と声が掛けられると、護衛の騎士が扉を開けてくれた。

 ようやく外へ出られる。

 安堵したのも束の間、一足先に馬車から降りようとすると、私の前に大きな手が差し出された。


「まさか、本当に来るとは思わなかった」

「……帰ったほうがいいならそうするわ」


 視線を向けた先に、悪戯な笑みを浮かべたリオネルがいた。

 パーティーの主役なのだから屋敷の中で待っていればいいのに、わざわざ馬車まで迎えに来たということは、約束をすっぽかされなかったか確かめに来たのだ。

 ストラッツェ公爵家の紋章が入った馬車に、護衛の騎士まで寄越されて、どうやって断ることができるというのか。

 機嫌を損ねたようにイザベルらしく唇を尖らせれば、リオネルは顔を綻ばせた。


「冗談だ、嬉しいに決まってる」

「……っ、あ、そ」


 ──今の笑顔は反則だ。

 噴き出しそうになるのをなんとか堪え、素っ気なく返した。

 これまで怒ったような顔しか見せてこなかったのに、リオネルの急な変化に困惑してしまう。

 オーティスを諦めると言ってから、リオネルの態度は明らかに以前と違っていた。オーティスに執着するイザベルを快く思っていなかったのに、身を引いた途端、人が変わったように優しく接してくれるようになった。

 最初から嫌われていると思ったのに、何か見落としているだろうか。

 馬車から降りた私は、改めてリオネルを見た。

 ──嘘でしょ、なんで?

 リオネルの恰好を目にした瞬間、私の表情が固まった。

 正装に身を包んだリオネルは、パーティーの主役らしく人目を惹く姿だった。しかし、問題は彼の着ている洋服のデザインにあった。

 ──どうして、同じ色なの?

 リオネルは深緑色のズボンに、金糸の刺繍に赤い薔薇が描かれた白いジャケットを羽織り、鮮やかな服装にも関わらずしっかり着こなしていた。

 一方の私も、ニーナが用意してくれた白いドレスを疑いもせず着てきた。

 胸元にはレース生地で作られた赤い薔薇のアプリケが取り付けられ、裾の部分には深緑色の飾り模様が描かれていた。

 まるで、対にでもなっているような装いに、頬が熱くなるのを感じる。

 向こうの世界で言えば、男女がペアルックの服を着ているのと同じことだ。仲の良い友達同士が、同じ物を身につけるのとは訳が違う。

 私は恥ずかしさのあまり、降りてきたばかりの馬車に戻ろうとした。

 けれど、馬車からはダミアンが降りてくるところで、退路が塞がれてしまった。


「どうかしたか?」

「先ほど震えていらっしゃったので、寒いのかもしれません」

「そうか。それじゃ早く中に入って温まった方がいいな」


 違う、そうじゃない。

 自分の代わりに答えるダミアンにムッとしつつ、私は赤く染まる顔を下に向けるしかなかった。

 今からでは引き返せない。ドレスの交換も難しいだろう。


「イザベル、行くぞ」

「────」


 嫌だ、と喉まで出しかけた言葉は、リオネルの弾んだ声で言えなくなってしまった。

 手袋をしていても握られた手が熱い。

 嬉しそうにエスコートするリオネルも、体を気遣ってくるダミアンも、行動が読めなくて違和感だらけだ。

 期待して突き放されるのは、二度と味わいたくないのに。

 イザベルになってから、これまでに感じたことのない不安が押し寄せてくる。

 本当は、イザベルが思っているよりずっと……。

 そう考えたところで止めた。

 もし考えていた通りだとしても、私にできることは何もない。

 今はイザベルの傷付いた体を労り、大切にしてあげることが私の仕事だ。だから、余計なことで悩んでいる場合ではない。

 それなのに、彼らが私の存在を知った時、イザベルの死を嘆き悲しみ、失望に変わる顔を想像すると胸が締め付けられそうになった……。


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★コミックス③巻 2025/8/29発売★
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▲公式サイト
漫画担当:藍原ナツキ先生
配信:講談社マンガアプリPalcy(パルシィ)・pixivコミック
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