嫌われ者の令嬢と幼馴染み①
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……何かが、おかしい。
部屋に用意された昼食を食べながら、私は違和感の正体を探っていた。
まず、運ばれてくる料理が以前にもまして豪華になった。使用人の態度も変わったような気がする。
その一方、部屋から出ようものなら護衛の騎士が付いて回るようになった。
それ以外にも、連日に渡って公爵から宝石やドレスの類いが届くようになった。お見舞いにしては行き過ぎたプレゼントに、最近は開けるのも止めてしまった。
イザベルは公爵令嬢として貰い慣れているかもしれないが、これまで一度も贈り物という贈り物を受け取ったことがない私は、今の状況に困惑していた。
もちろん、イザベルのことは常に着飾ってあげたいと思っている。
けれど、足元に広がったプレゼントを見ても、私は素直に喜べなかった。
──死んでくれたほうが良かったと、思っていたんじゃないの……?
それなら、これは一体何だろう。
ただ、問題はこれだけではなかった。
公爵の他にも、弟のダミアンや、幼馴染みであるリオネルからも見舞いの品が贈られてきた。
これは貴族あるあるなのか、嫌いな相手でも礼儀は尽くしましょう、というやつだろうかか。 無理して気遣う必要なんかないのに。
私はフルーツが山盛りになったパンケーキを頬張りつつ、リオネルが贈ってきた、赤い薔薇がモチーフの髪飾りを眺めた。
イザベルの記憶では、リオネルはオーティスの親友で、イザベルのことはあまり好きではなかったはずだ。
それでも同じ公爵家という立場から顔を合わせる機会が多く、オーティスを挟んで良く口喧嘩をしていた。
面倒見は良いくせに、イザベルのことだけは毛嫌いしていた嫌な男だ。
私がアキだった頃も、近所に似たような男の子がいたけれど、乱暴で好きになれなかった。
そんなことをぼんやり思い出していると、若い執事がやって来た。
前の執事と違って人柄の良さそうな顔をしている。
そういえば、イザベルを物置部屋に閉じ込めた執事は辞めさせられたという。
同時に、多くの使用人も入れ替えられたようだが、ほぼ毎日部屋の中で過ごしている私には関係のない話だ。
「イザベルお嬢様、ストラッツェ公爵家より使いの者が参りました」
「何の用事かしら」
「リオネル公子様が直接見舞いたいということで、お嬢様とお会いできる日にちを訊ねにいらっしゃいました」
……げっ。
私は思わず漏らしそうになった言葉を呑み込んだが、表情には出てしまっていたようだ。
若い執事に「……お断りしましょうか?」と気を遣われ、慌てて片手を挙げた。
「大丈夫よ。明日の午後には会えると伝えてちょうだい」
「畏まりました。そのようにお伝え致します」
咳払いをしてから伝えると、執事はすぐに頭を下げて出て行った。
私は部屋の扉が閉まるのを確認してから、大きな溜め息をついた。
「……見舞いたいだって? 絶対違う気がする」
私はすっかり食欲を失い、食べ掛けのパンケーキを銀のフォークで突っついた。
この頃、部屋に閉じ籠もっているせいか、息苦しさを感じるようになった。
ただ外に出たくても護衛のことはもちろん、庭に出ればダミアンと鉢合わせることが多くなり、行くのをやめてしまった。
私はダミアンを見かけても、極力視線を合わせないようにしている。
その方が向こうも楽だろうと思ったのだ。
公爵とは、あの日以来夕食に誘われる日が多くなった。
仕事が暇になったのだろうか。
それを毎回断り続け、結局一人になれる部屋で何もせず朝から晩まで過ごしていた。
今まで一人でいることが当たり前だったから、部屋に籠もっていても苦痛を覚えることはなかったのに。
公爵も、ダミアンも、リオネルも嫌いなら放っておいてほしい。
──貴方たちの知るイザベルは、もういないのだから。
私は初めて味わう不快感に顔を顰め、フォークを置いた。





