2話:プロテイン欠乏症
むかしむかしある所に、百合の花を売って生計を立てる親子がいました。母は娘にマッチョになって欲しくないのでプロテインを与えずに育ててきました。するとある日、娘はプロテイン欠乏症になってしまったのです。
アオミ「筋肉に負荷をかけた直後にプロテインを飲むべし」
バニラ味のホエイプロテインを飲もうとして、手を止める。
プロテインを飲むとお母さんに怒鳴られるから。
我慢する。恐怖する。胸がズキズキする。
アオミ「フーッ」
なぜ母は魔法少女に固執するのか。
なぜ百合にプロテインを与えて、私に魔法ドーピングを施すのか。
……
百合園で寝そべる。
百合に包まれながら思考に浸る。
……
そして心臓を握りつぶされる。
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◯セセラギタウン
小川のせせらぎ。ゴツゴツした岩。
川辺の草むらに百合の花。
岩場の多い土地では百合の根が強靭になる。
ここは百合育成には最適な土地である。
母「行ってきまーす」
アオミ「行ってらっしゃーい」
お母さんは百合の花を売りに行く。
魔法少女の力で超加速して、全国各地で売り回るのだ。
その間私は百合の手入れをする。
リュックにホエイプロテインをパンパンに入れてサイクリングへ行く。
これは役割分担である。資金稼ぎの最適解である。
◯大地の百合園
アオミ「百合さん、百合さん、あなたはどうして動かないの?」
自宅から東に1km、図書館の裏山、ゴツゴツした岩の隙間に百合の花が咲き乱れている。
私は、リュックからホエイプロテイン10リットルを出して、ボトルを逆さにしてぶちまける。
百合はプロテインをいっぱい浴びて元気になった。
私は北へ自転車をこぎ始めた。
◯爆炎の百合園
アオミ「百合さん、百合さん、あなたはどうして争うの?」
大地の百合園から北に1km地点、無人発電炉マグマ、灼熱の火山の中で百合の花がレスリングに明け暮れている。
私は、リュックからホエイプロテイン10リットルを出して、ボトルを逆さにしてぶちまける。
百合はプロテインを奪い合い元気になった。
私は西に自転車をこぎはじめた。
◯烈風の百合園
アオミ「百合さん、百合さん、あなたはどうして急いでいるの?」
爆炎の百合園から西に1km、総合科学研究所のビルディングがある。屋上のヘリポートで百合の花がドローンのように縦横無尽に飛び回る。
私は、リュックからホエイプロテイン10リットルを出して、ボトルを逆さにしてぶちまける。
百合はみんな仲良く竜巻になってプロテインを残さず巻き上げて吸収した。
私は南に自転車をこぎはきめた。
◯虚無の百合園(自宅の庭)
アオミ「百合さん、百合さん、あなたはどうして静かなの?」
自宅の庭に百合は咲いてない。百合は空想上の概念として心の中に咲いている。
私は、リュックからホエイプロテイン10リットルを出して、ボトルを逆さにしてぶちまけた。
百合は無反応だけど元気になった。
私も元気になった気がする。
私は自宅のドアを開ける。
✨✨✨✨✨✨✨✨
◯食卓
母「ただいまー」
アオミ「うわ」
帰ってきた魔法少女。
情熱の赤い炎、ティアバーニング!
赤い剣を片手でブンブンしている。
母「アオミちゃ〜ん❤︎」
アオミ「んー」
炎をまとったハグ❤︎ そしてキス❤︎
いつもの。
母「今日ねぇ、排水溝からねぇ、数学のテスト怪人がブワァーって出てきたの」
アオミ「うん」
母「サインコサイン分かんないから地獄の炎でまとめて焼いちゃった」
アオミ「うん」
母「やっぱりみんなを苦しめるテストはだめねぇ。あ、昆布買って来たわ」
アオミ「うん」
私は昆布に齧り付いた。
母「こら。手洗いうがいしなきゃダメでしょ」バクバク
アオミ「お母さん、うがいした?」
母「……あっ」
これはひどい
母「アハハハハハハハ」
アオミ「あはは……」
そろそろだな。
母が袋からビンを出した。
母「ジャジャーン、魔法力強化スーパーX」
アオミ「うわ」
母「アオミの大好きなドーピング薬よ」
アオミ「あー」
期待でキラキラしてる。
仕方がない。飲もう。
ドーピング一気飲み。
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◯アオミ(水タイプ)
筋力:8
魔力:957,127,701,375
速度:8
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アオミ「まっず」
母「もうすぐ魔力1兆ね」
アオミ「うん」
魔力1兆で魔法少女検定1級のテストを受けられるらしい。
筋肉関係ないから興味ないけど、すごい事らしい。
母「今日はフレイムソードで怪人をバッサバッサと薙ぎ倒したのよ……」
始まった。長話。
母の長話、実は喋ることそのものが大切で、喋る内容には価値がないらしい。だから相槌を打って流す。
一通り話を聞き流し、ボディビル大会の妄想しながら居眠りした。
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◯心臓の夢
女神「今日も潰してあげる♪」
アオミ「イギっ、アガッ、あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」
ブチブチブチブチブチブチ
血管が引きちぎられる音。
女神「まだ分からないのかしら」
心臓を握りつぶす。
わざわざ、私の目の前で、
肉片が飛び散る様子を見せつけてくる。
女神「あなたのお母さんは、あなたに痛みを与えない」
ビンタ
頬がジンジンする
女神「百合の花は、貴方に愛を与えない」
重苦しいキス
窒息しそう。
女神「そして何より、チャンスが無い」
女神は急に飛び上がった。
天井を割って高笑い。
女神「キャハハハハハハハハ」
意味が分からない。
女神「私こそが貴方に全てを与える能力を持つ唯一神なの。大人しく受け入れなさい」
考えろ。考えろ私。
なぜ女神は暴走しているのか。
もしかして、私がプロテインを飲まなかったから?
私がプロテインを我慢しているから?
女神「大正解」
天井からホエイプロテインの粉が降ってきた
ザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザ
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ザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザ
ザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザ
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◯病院のベッド
アオミ「……あれ?」
包帯ぐるぐる巻きになっていた。
母「アオミ、気づいたのね」
アオミ「お母さん?」
母が涙を浮かべていた。
ナデナデされる。
母「ごめんね私、あなたの病気に気づいてあげられなくて」
アオミ「……うん」
【女神に攻撃されて全身血だらけになる病】
らしい。
母「何か欲しいものはある?」
アオミ「プロテイン」
母「だめよ。他のものなら何でも買ってあげるから」
アオミ「じゃあ昆布」
昆布をまるかじりする。
そこそこのタンパク質は補給できたかもしれない。
◯医者との面談
医者「アオミさん、あなたの病気はプロテイン欠乏症です」
アオミ「はい」
医者「プロテインを我慢し続けると、肉体精神ともに異常をきたします」
母「どうにかならないんですか?」
医者「毎日タンパク質15グラム相当のホエイプロテインを摂取し続ければ改善するでしょう」
母「でも、娘は魔法少女になるんです。魔力を増やさないといけないんです。プロテインなんか飲んだらマッチョになってしまいます。お薬で治らないんですか?」
医者「はぁ……仕方ないですね。お薬を処方します」
母「ありがとうございます。ありがとうございます」
母が帰ろうと後ろを向いた。その時。
医者がマッスルポーズを見せてきた。
その瞬間、直感で理解する。
その薬はホエイプロテインだ!
◯空
母にお姫様抱っこされて、空を飛んで帰る。
魔法少女ティアバーニングの飛行能力だ。
お母さんには真っ赤な翼があるのだ。
どこへでも飛んで行ける。
私には羽がない。
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◯自宅前
百合の花畑が一斉に待ち構えていた。
退院祝いをくれるらしい。
岩石の百合「アオミさん」
爆炎の百合「大丈夫ですか?」
烈風の百合「私たちにできる事があれば」
虚無の百合「なんでもします」
アオミ「じゃあねー、ほっぺたにキスして」
私は右の頬を差し出した。
百合たちは一列に並び
めしべをこすりつけてきた。
これは百合の愛情表現なのだ。
ちゅっ❤︎
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とても満たされた。
私は幸せ者だ。
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女神「あなたはそんな事では満足しません。己の欲を直視しなさい」
ハッ!
そうだ。プロテインが足りない。
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ある日、午前5時に目が覚めた。
お母さんはぐうぐう眠っている。
キッチンに行き朝食の用意をしようとすると
なぜか地下への階段ができていた。
アオミ「えっ……」
自宅の地下に何が存在するかは不明。
地下室の存在すら知らなかった。
階段を一歩ずつ降りていく
トレーニング施設の階段を降りる錯覚
金属音がする。
200段ほど降りると……
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◯地下室
マッチョの死体!
筋肉モリモリマッチョマンの死体!
3652体!
ズラっと並んでいたッッ!!!
アオミ「はうっ!!!」
興奮するっ!
めっちゃ興奮するっ!
どうしよう。
私の全身が発熱するッ!
目が覚めた。
私は、……人生を変える!