じゃんけん大会で勝ったら賞金百億円負けたら死ぬ
今ここは、じゃんけん大会の決勝だ。
日本のざっと半分が参加していて、最後に勝つと百億円もらえる。ただし最後で負けると死ぬ。
ざっと半分というのは、二人一ペアでじゃんけんして、ちょうど26回勝つと100億円で、25回勝って次で負けると死ぬように人数整理の抽選が行われているからだ。
それで、俺は25回良くも悪くも勝ち続けたんだ。
決勝なだけあって注目度は十分すぎる。多分全部のテレビ局やらなんやらが集まっている。どっちが勝つかの予想なんかも行われているみたいだ。
もっと大事な話題もあるだろうに。
顔はもちろん名前も知られてる。25戦の出した手の傾向も知られてる。こんな形で無駄に有名になるなんて。
相手の人は何が何でも100億円を手に入れようとしているようだ。つまりやる気は十分ってわけだ。何なら負けて万が一死ななくても自殺さえするような気迫さえ感じる。何なら今すぐにでも殺しにかかってきそうだ。
俺は実際こんなところに来る気はなかった。6000万だか7000万だかのうちの2人のうち片方になるなんて、思ってもいなかった。
そりゃ最初はもしかしたら100億かもよ、なんてふざけあっていたけど、今では会う人合う人、今生の別れかと感情的な奴とか、やたら関わってきたり恩を売ろうとしてきたりする奴ばかりだ。みんな100億のおこぼれを期待しているんだ。
セミナーやらなんやらの招待が山ほどくるし、顔も名前も知らない親戚が来る。気が休まる暇もない。
もし勝っても更に地獄だろう。顔も名前も知られている、100億円を無防備に持っている人になるんだ。いい鴨だ。
ネットなんて見てられないし、ちょっとした行動にも周囲の目がやってくるだろう。
もういっそこの決勝に来る前に、ユニセフだか何とか基金だかに連絡して、100億寄付する約束を取り付けて、決勝が終わったその場で寄付するなんてできていれば、こんな悩みはしないだろうが、もはや後の祭りだ。
いっそ負けたほうが文字通りの天国に逝けるかもしれないな。
俺にだって夢はあったんだ。そのために勉強して、いい大学だって入れた。もっと親孝行もしなきゃだし、可愛い彼女や一生の親友だってそうだ。やっぱり負けるには惜しい。
ああ、もうじゃんけんが始まる。本当に嫌だ。死にたくない。生きたくない。