station attendant
ある夏の日、会社終わりに居酒屋で飲んでいたところ、私の隣に座っていた男性と打ち解け、酒を酌み交わしているとこんな興味深い話をきくことができた。
「普段何されてるんですか」
「この近くの駅で駅員をやってまして」
「この近くの駅って○○駅ですか」
「そうですそうです」
「あそこって自殺多いですよね。会社行くときに○○駅通るんですけど、人身事故で遅れること多くて。ほんと困りますよね。駅員さんたちも大変でしょう」
「まぁそうですね。警察が来るまでは私たちが事後処理しますので」
「えぇ、そうなんですか。事後処理っていうと死体を回収するってことですか」
「そうなんです。人間の体って意外と簡単にバラバラになっちゃうんですよ。だから線路に散らばった部位をひとつひとつ集めなきゃいけなくて」
「げぇ…グロいですね。精神的に大丈夫なんですか」
「新人の子は吐いちゃうことが多いけど、ベテラン勢はもう慣れちゃってるよね。いつものことだし」
「慣れるもんなんですか」
「何回もやってたらだんだん何も感じなくなるよ。中には事後処理があった日に焼肉食いに行ってたやつもいたし」
「そうなんですか…私だったら絶対無理ですね。人の死体を見た後に肉なんて到底食えたもんじゃない」
「そう?意外といけるよ。逆にちょっと癖になるぐらい」
「えっっ……?」
「あぁごめんごめん。さっき言った焼肉食いに行ったやつって私のことなんですよ」
「・・・・・」
「ごめんなさいね、気分悪くさせてしまって。そうだ、お詫びにこれあげますよ。いいお肉が手に入ったんですよ」
そう言って彼はおもむろにバックから何かを取り出し私の前にそれを突き出した。
「何ですか……これ……」
彼が差し出したそれは赤黒い塊だった。彼の言う通り何かの肉のようだった。
「お肉ですよ、お肉。いい色でしょう」
「はぁ………」
「さぁ、どうぞどうぞ」
グイグイとそれを私に押し付けてくる
それをよく見てみると赤黒い中に白い何かがあることが分かった
さらによく見ると分かったのは、白い球体に黒い丸
眼球だった
「ひぃっっ!」
彼の差し出していたものが人の顔半分の肉塊であることに気づいたとき、私は椅子から転げ落ちていた。
「どうしたんですか!これを受け取れないってことですか!こんなにいいお肉なのに!」
彼は物凄い剣幕で声を荒らげた、先ほどまでの物腰柔らかな彼とは別人だった
「こんなにきれいに形が残っていることはないから、今朝持って帰ってしまったのに!あなたはいらないんですね!もういいです」
彼はテーブルにお代を置くと店を出て行った。
私は彼を追いかけ店をすぐに出たがもうどこにも彼の姿はなかった。
あくまでも、私個人の意見だが、彼は最初からおかしかったわけではないと思う。自殺が積み重なり、たまっていった負の“ナニカ”に侵され、次第に壊れてしまったのではないだろうか。
私がこの出来事以降しばらく肉が食えなかったのは言うまでもない