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7話

 




「女の匂いがします」






 早朝、俺の家に訪れた青山さんの最初の一言である。


「マジ?」


 女の匂い。

 文字にするとなんて卑猥な響きだろうか。

 大体言葉の最初に「女の~」を付けると卑猥に感じる気がするが多分俺がおかしいだけだ。


 まぁそんな事はなんだってどうだっていい(オーイシ並感)、今大事なのは女の匂いなのだ。


「ギュウィィィーン!!!!! ……ゼェ……ハァ……ゼェ……ハァ……」


 鼻をひくつかせる青山さんの前で⚫️イソン顔負けの吸引をするも、俺には全く分からなかった。

 敗因は途中で吸引力が変わった事であろうか?

 非常に残念な結果である。


「……もしかして、この家に女を連れ込んだりしましたか?」


 そして突然何を言い出すのかと思えば、こんな普通を絵に描いたような男が女を自宅に連れ込む等といった、まるでイケメンみたいな事が出来るわけがないだろう。

 ていうか、あらやだ青山さんの顔がスッゴく怖い。

 なんだか知らないが、地雷は踏まないようにしなければな。


「いや? あー、でもこの前琴音ちゃんがウチに泊まりに来たなぁ」

「は……? 琴音ちゃん、ですか?」


 俺は青山さんに琴音ちゃんの事を教えた。

 もちろん彼女の過去などは伏せて、だが。


「まぁまだ小さいからねぇ、一人っ子みたいだしお兄ちゃんが欲しかったのかもね」

「……」


 なんかまた青山さんの顔が険しい。

 今度はブツブツ言ってるし……俺なんかやっちゃいました?


「あれ? そういや、今さらだけど青山さん今日はどうしたの? もうお礼なら済んだんじゃ?」

「…………ふぇ? 何言ってるんですか? お礼があれ一回で済むわけないじゃないですか。私言いましたよね? "こ、れ、か、ら、よ、ろ、し、く、ね"って」

「……!?」ゾクッ


 なんだろう、今一瞬スゲェ背筋が寒くなったな。


「あ! クーラー付けっぱなしだったわ」ピッ


「という事でお邪魔しますね」

「待て待て待て待て」


 一体何回このくだりをやるのか。

 俺はムーンウォークで家の中に入ろうとする青山さんの前に立ち塞がった後、彼女を押し戻すようにヘッドバンキングをした。が、軽い脳震とうを起こしかけたのですぐさま止める。


「あっ、そういえば聞いてください。今日はお弁当じゃなくて食材を買ってきて、ここで作ろうかなって思ってたんですよ♪」


 確かにそう言う青山さんの手には手提げではなくスーパーの袋がぶら下がっていた。


 ……なるほど、だから今日はこんな早い時間に来たのか……違う、そうじゃない。


「その、青山さんはウチに来る事に抵抗とか無いの? お礼とは言っても一応男の家なわけだし……確か青山さん好きな人いるって言ってたよね? そりゃ俺は嬉しいけどさ」


 そう、青山さんには好きな人がいる。

 それが誰かは知らないが、もし俺の家に来て料理作ってるなんて噂が立って、彼女の恋が実らないなんて事になったら俺は彼女になんて謝れば良いのか分からない。

 とりあえず俺で我慢してください!って言うか。

 言うわけないだろ馬鹿か。


「……あー、えっと……確かに私に好きな人はいますけど……でもそれは関係ないんです! 私は誰になんて言われようとこの"お礼"を止めるつもりはありません!」

「やめて! 俺の家の包丁握ったままこっちに来ないで! 分かった! 是非、是非作ってください!」


 助けて! 出張料理人に襲われています!



 ◇◇◇◇◇




「……えっと、どうですか? お口に合いましたか……?」


 朝イチから命の危機を味わった俺だったが、現在青山さんの作ってくれた肉じゃがを食べていた。

 いやしかし、朝から肉じゃがってどうなんだ……?


「うん、美味いよ。こんな美味しい肉じゃが初めて食べたかも」

「っ!? そ、そんな! 緋色さん大袈裟ですよ!」


 大袈裟じゃないんだよなぁ……。

 というか肉じゃが自体今初めて食べたし、だから嘘はついてない……よな?


「あっ、緋色さん髪にニンジンが付いてますよ……ほら」


 見れば確かに青山さんの手にはニンジンの欠片があった。

 そんな、少女漫画の芋けんぴじゃないんだから。

 ていうか髪にニンジンってどんな食べ方してんだ、犬かよ。

 あ、俺か。


「(パクッ)……えへへ♪ 食べちゃいました♪」


 俺から取ったニンジンを口に含み、なんだか恍惚とした表情の青山さん。

 そんなにニンジンが好きだったのか……(困惑)

 ……なんか目の前で見せつけるように大好きなニンジン食べてて俺が悪いみたいじゃん。

 ……しょうがねぇなぁ、ここは俺が一肌脱いでやるか!


「あー……えっと、青山さんも食べる?」

「えっ? 何でですか? それは緋色君のために作ったもので……」

「ごめん、ちょっと俺ニンジン苦手でさ……ほら、アーン」

「ふぇぇっ!!?!? ちょっ!? アーn!? えっ!? 待っ!? ぐむっ♡(口にニンジンを突っ込まれた音^~※深い意味はない)」


 青山さんはしばらく呆然とニンジンを噛んでいたが、飲みこんだ瞬間「ほぅ……♡」と艶っぽい息を吐いてトロンとした表情で宙を見つめ始めた。


「……」


 俺は、そんな彼女のあまりに蠱惑的過ぎる姿を見て、ゴクリと唾を飲んだ。













 ニンジン好きすぎるだろ……。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ここまで来ると鈍感は罪だわ、犯罪だわ
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