2話
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設定の修正により、文章を変更いたしました。
ぶん投げたスマホと俺を見ながら春樹君が絶叫する。
「て、てててテメェこの野郎がぁああああ!! 何してくれてんだぁあああああ!! あの写真バックアップとかしてねぇんだぞぉおおおっ!!!!???? この後も脅して関係続けるつもりだったのにぃいいいい!!!!!!」
「え、なんかごめん……」
俺は超マジギレしている春樹君の様子についつい謝罪してしまう。
てかそういうのって普通バックアップ取ってるもんじゃないのか(困惑)
「もう許さねぇっ! 殺す! ぶっ殺してやる! 死ねやクソがぁあああああああ!!!!」
「ッ!!」
いつの間に履き直したのだろうか。ズボンからカッターを取り出した春樹君が俺に向かって突撃してきた。
——ドン! ……ピチャッ……ピチャッ……
つい前後に「黙れ」と付け足したくなるような効果音の後、水滴が地面を叩くような音が響く。
「……へ、ヘヘッ……ざ、ザマァみやがれ……お前が悪いんだからな……」
激しい耳鳴りの向こうからそんな声がした。
俺はカッターを持って笑っている春樹君の手を握りしめる。
「なん……結……さ……ねぇか……」
「あ、あぁ……? なんだって……?」
俺はこちらに耳を寄せてきた春樹君の肩に顎を乗せるようにして再度口を開いた。
「"なんだよ、結構刺さんじゃねぇか"って言ったんだよ」
そして春樹君の腕を上に上にと持ち上げる。
当然そんな事をすれば俺に刺さっているカッターも持ち上がるわけで……。
"ギチギチギチギチギチギチギチギチ……"
ビチャビチャビチャビチャ
カッターの刃が軋む嫌な音とともに床に落ちる血液の量が多くなる。
「ッ!? う、うわぁあああああっ!? な、何してんだお前!? マジで何してんだお前!!!」
「……ッ……ふぅ……ハァ……おいおい、俺を……殺すんじゃ、なかったのかよ……? まだ死んじゃいないぞ……?」
カッターから手を離し、腰を抜かしたように倒れこんだ春樹君に俺はゆっくり近付いていく。
とりあえずビビらせるためにカッターチキチキでもしとくか(暗黒微笑)
「く、来るんじゃねぇ! クソッ! 肉切った感触が気持ち悪ぃっ! オェッ! や、やめろ! 来んじゃねぇ! 来るんじゃねぇよっ!! うわぁあああああああっ!!!! 気持ち悪ぃいいいいいいい!!!!」
そしてついに春樹君は俺を突き飛ばすようにして何度も転けながら教室から逃げていった。
刺すのは平気なのに切るのは無理なのかよ……。
「……そんなに、気持ち悪いって……言われたら悲しく、なるわ…」
俺は床に倒れこむように座りながら笑う。
「……ふぅ……ふぅ……痛ぅ……」
——終わった。
が、とにかく腹が痛い。
下痢の20倍は痛い(当社比)
……これからどうしようか?
青山さんはあまりのショックに気を失ってるみたいだし……。
このまま帰ってもいいが、もし彼女がこの状態で誰かに見つかったらどうなるだろう。
ただでさえ怖い目にあったのに、未遂とはいえ今日のことが学校中に知れ渡ったうえに彼女が隠したかった"何か"が公になったりしないだろうか?
◇◇◇◇◇◇◇
「……ふぅ……ふぅ……よいしょっと……くっ重い……! あっ、ごめん女の子に重いって言っちゃった……ほんとごめんよ」
俺は勝手な事してごめんね、と謝り青山さんの服を血が付かないよう元通り綺麗に着せた後、背中に背負って教室を後にした。
力む度に出血が酷くなるので出来るだけ早めに下ろしたいところである。
あっ、ちなみに床の血液はベランダに落ちていた雑巾で拭き、そのまま血が垂れないように腹に当てているので安心してほしい。
とはいうものの彼女はどこに運ぼうか?
とりあえず保健室とかに寝かせたら良いのだろうか?
軋む身体でおそるおそる保健室の扉を開け中を覗くが、幸いにも誰かがいる気配はなかった。
静かに青山さんをベッドへと下ろして布団をかける。
「はぁ……ふぅ……よし……ミッション、コンプリートだぜ……」
俺は額の汗を拭い、保健室の救急箱から消毒液と包帯を拝借すると、その足で保健室近くのトイレへと駆け込んだ。
個室に入り、便座にもたれかかるように座ってから尻ポケットを探る。
「……ふぅ……はぁ……針と糸、針と糸……あった……」
——俺という人間からこうした『傷』というものは、切っても切り離せないものだ。
いつでも怪我に備えられるよう、ミニ裁縫セットや絆創膏は常に持ち歩いている。
「ッ! ぐぅ~~っ!! はぁ……はぁ……うぐぅ、あああっ!! ヌッ!!!」
シャツをめくり、パックリと開き血が溢れ出る傷口に消毒液をぶっかけると、燃えるような痛みが俺を襲った。
そして、そのままの勢いで傷口の横の肉部分に糸を通した針をぶっ刺し、反対側の傷口と繋げるように縫っていく。
「……ひー、ひー、ふー……ひー、ひー、ふー……」
もう10割ほど身体から魂が抜けかけたが、歯を食いしばりつつ、なんとか意識を失わないよう耐える。
大体5~6回ほどそれを繰り返し、傷口は歪ではあるが、ある程度閉じたところで糸の端の部分を玉結びして止め、四苦八苦しながらなんとか腹に包帯を巻いた。
「……よし、ふぅ……これで、とりあえず、はなんとか……なったな……よっこい、しょういちっと……」
そうして、壁に手をつきながらフラフラとトイレの個室から出た俺は、保健室に借りていた消毒液と包帯の残りを返してから学校を後にした。