ホモテラス様に僕の天野岩戸が狙われている
2019.11.26
「……BLって尊いよね」
僕の部屋でポツリと呟く不可思議な衣装の女性は、どうやら完全に不審者のようだ。
「あの……どちら様で?」
僕の居ぬ間に不当に占拠された僕の部屋は、こっそり食べようと隠していたポテチが封を開けられ更には今日を耐え忍んだ僕へのご褒美であるオレンジジュースが飲み干されていた。誠に遺憾である……。
「申し遅れた。妾は天照大御神と申す」
「お母さーん!! アマテラスさん勝手に僕の部屋に上げたでしょー!?」
僕は階段から母親に向かって大声で母親の不備を申し付けた。
「ごめんねー! だってお母さん女の子のお友達が家に来るの初めてだったからー♪ 後で蜜柑持って行くねー」
「かたじけない!!」
僕より先にアマテラスさんが母親に礼を述べていた。どうやら食べ物に弱いようだ。まぁ、母に悪気は無いようなのであまり強く言うのは止めておこう。
「で、その天照大御神様とやらが僕の部屋に何か御用で御座いますでしょうか?」
寝転がる自称天照大御神の前に座り、陶然たる質問を不躾に飛ばす。返答次第では神と言えども国家権力たる警察沙汰も致し方なしだ。
「其方……BLは好きか?」
「…………どちらかと言えばGLが好きです」
「……BLに興味は無いか?」
「可愛い女の子同士なら興味があります……」
「BL……してみない?」
「いやです」
「(´・ω・`)」
自称天照大御神は眉をひそめポテチを箸で摘まんだ。手を汚さない様に箸で食べる辺りは好感が持てるが、僕はそのポテチを一口も食べていない。しかも後少しで無くなりそうだ。神と言えど許すまじ……。
「其方にBLの呪いを掛けたぞい?」
「はぁ!? いつ!? 何で!? どう言う事!?」
いきなり爆弾発言をぶっかます自称天照大御神。最早神のする事ではなかろう。もしかして貧乏神なのか!?
「3日以内に妾の目の前でBLしないと其方のケツが爆発するのじゃ……」
「何で!? 何でぇぇぇぇ!?」
「妾はBLが見たいのじゃ!」
「蜜柑持ってきたわよー♪」
「母上かたじけないのう♪」
蜜柑の皮を剥き剥きして半分に割り、口に頬張る自称天照大御神なる実質疫病神。蜜柑は美味しそうだが僕はそれどころでは無い。出来ることなら誰も居ない所でケツを確認したいくらいだ!
「お母さん聞こえちゃったんだけど、この子には隣の光義君が似合うんじゃないかしら? あの子サッカー部のキャプテンだから陰キャオタクなこの子にピッタリよ!」
「母上は実に分かっていらっしゃる!!」
ガシッと手を握り合う疫病神と母。僕は蜜柑の皮を潰し、己の目に目潰しをかますもどうやらこれは現実のようだ……。
「何をしておるのじゃお主は……?」
「現実が辛い!」
「出来ることならお母さんも目の前で光義君のBLが見たいわぁ~」
「ふむ。任せたまえ! たった今光義君とやらをBL好きにしてやったぞ?」
「いやいやいやいや、そんな事出来るわけ―――」
──ピンポーン!
「あらあらお客さんね。はーーい♡」
階段を降りていく実に母は嬉しそう。息子がBLしてお家断絶するのがそんなに良いのだろうか?
「噂をすれば光義君が来たわよー♪」
「やあ! 俺とBLするのは何処の誰かな?」
隣の家の光義先輩は部活帰りなのだろうか、サッカーボールを小脇に抱え汗臭そうなユニフォーム姿で僕の目の前に現れた。と言うか家の中でスパイクを履くな! はよ脱げ!
「此奴です」
「息子です」
二人で僕を指差すと、光義先輩は嬉しそうにサッカーボールを床に置いた。
「俺のPKに耐えきれるかな?」
「いやいやいやいや先輩彼女いましたよね? 同じクラスの学校一の美少女と付き合ってますよね!? ね!?」
「あの女はカモフラージュならぬ【ホモフラージュ】だ。気にするな」
先輩の目は虚ろで、どう見ても怪しい術か何かで正気を失っている様にしか見えなかった。
「その気の無い人を無理矢理どうにかするのは神様的にどうなの!? 倫理や道徳的にどうなの!?」
僕が疫病神の方を向くと、当の本人は何食わぬ顔でポテチの欠片を口に流し込んでいた。
「流石に妾と言えど0を100には出来ぬ。最も、其奴は18くらいはその気があった様じゃがのぅ? ケケケ……ちょいとその欲望を膨らませただけじゃ」
「大丈夫よ。人類皆兄弟じゃない! 兄弟同士愛することは何も悪いことないわよ!?」
妖怪染みた笑いを飛ばす疫病神と、完全に腐っているウチの母親。そしていつの間にか裸にユニフォーム姿の先輩。だからスパイクは脱げ!
「俺は下のサッカーボールの扱いも当代随一さ。俺のリフティングに酔いしれな!」
右手をワキワキさせる先輩。どうやら夜のサッカーはハンドOKのようだ……あ、先輩キーパーか。
「どんなカテナチオも俺のオフェンスにかかればハットトリックさ♪」
ムカつく八重歯をキラリとさせ、先輩は僕へと一歩近付く。
「……ふんっ!!」
──ドゴォ!!
「ぺれすっ……!!」
僕は先輩の小さなサッカーボールを思い切り蹴り上げ、高天原にクリアした。先輩は内股のまま手で股間を押さえ泡を吹き倒れ込む……ごめん先輩。貴方に罪は無いです。
「ほぅ……其方自分のケツがどうなっても良いようじゃな?」
蜜柑を頬張り謎の威圧感を放ち出す自称天照大御神。その隣では母親が倒れた先輩の裸体を懸命に写真に納めている。止めてあげてよぉ……。
「どっちにしろケツがどうこうなるなら、僕はコッチを選ぶ! それに僕のケツが爆発したらどちらにせよBL出来なくなるぞ!?」
「ククク……ならば其方に『攻め』に回ってもらおうか!! それもまた良し! 本当はイカンのじゃが、ホモ気皆無の貴様に無理矢理ホモパワァを送り込んでやるわい!」
もはや自称天照大御神ならぬ唯の犯罪者が僕を指差すと、僕の意識が急に混濁し目眩に似た何かに襲われた!
「あ……ああ……」
頭の中にアニキやらホモやらBLやら、この世のありとあらゆる薔薇の花が咲き誇り、僕の脳内が一瞬で薔薇園と化した!
(こ、このままでは……!!)
僕は朦朧とする意識の中、フラフラと本棚へしがみつくと下から2段目の奥に隠した秘蔵のお宝写真集を取り出した!
「ほほぅ? ソレで妾に対抗する気かえ?」
「あらやだお母さんどっちを応援したら良いのかしら?」
「僕は……負けない!!」
手にした【海原くるみ2nd写真集 くるみアゲイン】をペラペラとめくり、くるみちゃんがおっぱいを両腕で寄せ、水着の紐が外れて富士山の7合目辺りまで見えてしまっているお気に入りのページを開く!
「くるみインストール!!!!」
密林の如く生い茂る薔薇のジャングルに一滴のくるみワクチンが投下され、次々にBLウイルスを素股ブラスターで駆逐していく。
脳内で繰り広げられる第三次世界大戦!
アルマゲドンならぬ【アナルマゲドン】が齎す終焉!
戦争は悲しみしか生まず僕の脳内に咲いた薔薇園は悉くその輝きを失っていく……!!
それでも尚、意志を貫こうとするBLウイルス!
孤軍奮闘するくるみワクチンだが次第に疲れの色が見え始める!!
互いに終わりの見えぬ戦争! そしてついに両者は和解の道を選んだ!!
「「両刀使いで良いんじゃね?」」
平和条約が交わされ、ついに戦争は終わりを告げた―――
「…………はは」
「お? 何だか此奴の様子が変だが?」
「ははははは!!」
「大丈夫? 蜜柑食べる?」
「ラブ&ピース!!」
僕は勢い良く服を脱ぎ捨てると、気絶した光義先輩と自称天照大御神を両脇にそれぞれ抱え『ホテル 三種の神器』へと走り出した!!
「何をするか! 偉大なる神である天照大御神な妾に何をするつもりじゃ!?」
「ラヴ!! エーーーーンドゥッッ!! ピース!!!!!」
僕はその日、神を超えた。