第三章 キセキ視点 少女の目的
「今年は仕事始めが早かったな」
翌日、まだ太陽が半分山に隠れている頃。
ガタンッ!!!
と、大きな音が庭の方で聞こえた。朝ご飯の米をといでいた私は、急いで庭へ走る。そこで見たのは、昨日見つけた少女が軒下で倒れている姿。
私は慌てて少女に駆け寄ると、眠っている間は気づかなかった少女の顔を、しっかり見る事ができた。
髪は紅く、目は鮮やかな緑色をしている。その細くて小さな体は、小刻みに震えていた。
私は、とりあえず少女を落ち着かせる為に、再び布団に戻した。
少女の話によると、どうやら起きた瞬間知らない場所に眠っていたから、焦って襖を開けて駆け出した。
そして渡り廊下で躓いて、そのまま庭に転げ落ちてしまったそうだ。まだ傷の治療が完全に終わっていないのに、全身を強く打ち付けてしまっては、取り返しのつかない事態にもなりかねない。
少女は体の傷跡を何度もさすりながら、だいぶ痛そうにしている。一応私が再び診たけど、どこも異常は見られなかった。
そうしている間に巫女の一人が、温かいお茶を入れてくれた。そのお茶を飲んだ少女の目から、涙が溢れている。
よっぽど夜の山中が寒かったんだろう。春になったとはいえ、まだ夜は寒い。足の裏にあった炎症は、恐らく溶けずに残った雪を踏んだ跡。今は薬を塗って包帯を巻いているから、ゆっくりなら動ける筈。
なのに、急な動きをして少女の体が驚いてしまったんだろう。でも再び出血しなかっただけでも幸いだった。
少女が色々と聞きたそうな顔で私を見ていたから、まず私は少女を見つけた経緯を話す。
そして、話が一通り終わった後、私は少女に一つ目の質問をする。
「何故、貴方はなんな場所で倒れていたの?
荷物を何も持っていない・・・という事は、土地を巡る旅商人ではないよね」
「・・・・・
・・・・・会いたい人がいたんです」
「会いたい人?」
少女の声はとても透き通っていて、高く心地良い響きだった。よほど喉が乾いていたのか、急須の中にもお茶はもう残っていない
「その人を探して、ずっとずっと山の中を彷徨ってたんです」
「・・・もしかして、山の中で家族とはぐれてしまったとか?」
「いいえ、違うんです
『噂』程度でしか知らない人だったから、とにかく闇雲でも歩き続けるしかなかったんです」
「その人の名前は?」
「・・・大神 喜世姫
さんです」
「・・・・・
良かったね、無事見つける事ができて」
「??
・・・・・っ!!
もしかして・・・貴女が?!!」
「そう、私がこの天野原の村長であり、この神社の巫女長の、おおがみ きせきです」