令の輪を繋いだ ある日
「わっ!!」
「きゃっ!!」
曲がり角で、突然誰かとぶつかり、私と相手の体がよろめいた。幸い今日は、地面が凍り付いていなかったから良かった。
凍結した地面を滑って転んだら、最悪骨折沙汰だ。私がよろめいた体を近くの壁に支えてもらうと、ぶつかった相手が心配そうに近寄って来る。相手にも怪我が無い様子で安心した。
私とぶつかった相手は、エプロン姿の男性。エプロンは所々汚れているけど、そのエプロンの胸元には
『花鳥』
とプリントされてある。そしてそのエプロンのポケットからは、生花用の鋏が見えた。
男性は頭を下げた際に、ポケットから落ちた鋏を拾い上げて、改めてちゃんと謝罪をする。
「ごめんね!!大丈夫だった?!」
「大丈夫です!
私もちょっとボーッとしてて・・・」
「本当ごめんねー・・・
大物をビルにせっせと持って行くのに手一杯で・・・」
男性が目線を向けた場所には、新しいビルが立っている。オフィスビルなのか商業ビルなのかは分からないけど、かなりの大きさだ。
そしてそのビルのフロントには、いくつもの花が飾られている。フロント内にはスーツを着た人達が、握手をして話し込んでいる様子。どうやら、新しく出来たビルのお祝いをしているのだろう。
そんな事を考えていると、後ろから女性の謝る声が聞こえた。振り返るとそこには、男性と同じエプロンをした女性が、頭を下げている。
「怪我とかしてない?!大丈夫?!」
私は自分がちゃんと無事な事を伝えると、二人はやっと安堵してくれた。女性の後ろを見ると、『花鳥』とプリントされてある、白くて大きなワゴン車が見えた。
その中には、色とりどりの花が、可愛らしいリボンなどで包まれている。その車を見て、私は確信できた。
「もしかして・・・お二人は、
『花屋』さんですか?」
「えぇ、そうよ
元々『旦那』の家業だったんだけど、私も昔から花が好きでね。
意気投合して・・・」
妻である女性は、まるで薔薇の様に頬を赤らめて、旦那である男性も、気恥ずかしそうに頭を掻く。
二人の顔は『昔』と全く変わらないまま、優しくて、明るい顔のまま。私は、すごく嬉しくなった。
こうゆう事を、よく『神様の悪戯』と例えられるけどるけど、今回の場合は、『運命の悪戯』と表現した方がしっくりくる。
二人が此処に居るのも知らなかったし、まさか二人が、『夫婦』になっていた事も、当然知らなかった。私は、二人に抱きつきたいほどの嬉しさを堪えるのに必死だった。
でも私がそんな事を考えていると、二人は私を見て不思議そうな顔をしている。そして顔を見合わせると、もう一度私の顔をじっと見た。