第二十章 キセキ視点 後日談
穏やかに過ぎる
春の終わり
「そうか、『あの子』はもう、去ってしまったのか・・・」
「・・・その反応、もしかして、もっと話がしたかったんですか?」
「えっっ?!!
いやいやいや!!喜ばしい事だなぁーと・・・」
明らかに動揺するサカネイさんは、一気にお茶を飲んだ拍子に、むせ返ってしまう。
庭には、少し傷ついてしまった私の巫女服が、洗濯して干されている。これくらいなら刺繍すれば元に戻る。
今日サカネイさんを此処に呼んだのは、「分け前」を渡す為。今回の報償金は、ウメを見つけてくれたサカネイさんにもある。
「ゴホッ!!!ゴホッ!!!
・・・ふぅー・・・
・・・で、正直どれくらい貰えたんですか?」
「・・・前よりは少なかったかな。」
「それでも相当な額なんじゃ・・・?」
そう言いながら、サカネイさんは私のあげた『新品の猟銃入れ』を撫でていた。
この猟銃入れは、報酬金の分け前。この村で大金が必要になる事はまず無いから、サカネイさんには『物』を渡した方が喜んでくれた。
皮も上物、形もしなやかで、何よりとても丈夫。長い間猟師をしているサカネイさんには、とびっきりの贈り物だと思って即買いした。
店の人にはだいぶ怪しまれたけど、「両親への誕生日に送るんです」と嘘をつけばもう大丈夫。でもその言い訳をサカネイさんに漏らしたら、また咽せた。もうサカネイさんの服もずぶ濡れ状態。
そして、私達二人の話を聞いていた巫女や宮司も、後ろで笑いを堪えるのに必死な様子。私が帰るまで、巫女や宮司のみならず、天野原の皆が心配してくれたから、帰って来た時は盛大に出迎えられた。
久しぶりに炊きたての白いご飯を食べて、久しぶりに皆の顔が見られて、私は嬉しかった。何より、私が村を離れている最中、皆がいつも通り、平穏に無事過ごせた事が嬉しい。
・・・まぁ、何か起こる事なんて滅多に無いんだけど、やっぱり村長として、気になってしまう。