第十九章 キセキ視点 後始末
残された課題は山積みだが・・・
「それじゃあ、離れていてください」
「分かりました」
サバネは、皆を村の外に向かわせる。私は村に残り、そびえ立つ巨木の処理をする。もう村人全員が巨木の枝から脱出しているけど、『一人だけ』、巨木に取り残されていた。
それは、この村自体を私情により乱した元凶、『村長』だ。
枝に巻きつかれた村長は、大声で私に助けを求めていたけど、その声はもう既に枯れていた。まるで、吊し上げられた獣の様な姿に、村人達は今の村長を見てクスクスと笑っている様子。
今まで村長に味方していた用心棒達も、この騒動ですっかり丸くなって、村民一人一人に謝罪していた。
そこで私は、その用心棒達に協力を求めた。助けた村長が逃げない様に、村の外を囲って見張ってほしいと。
用心棒達は全員承諾して、山の中腹から私に合図を送る。これで下準備ができたから、次は私の出番。
もし、ウメが正気を取り戻せなかった時は、この残桜で両断する結末も考えていた。
けど、サバネの協力もあって、血生臭い終結を迎えなくてよかった。それに、村長にこの刀を使うのは、あまりにも勿体無い。
村人数人に、都への連絡を任せているから、もうすぐ此処に大勢の人が押し寄せる。今回の件は、奇跡的に明るみにはならなかったけど、きっとお偉いさんは、この事実を確実に隠蔽するだろう。
それは、村長の汚職を問題視しているのではなく、この摩訶不思議な事態を、周囲に悟られない為。
きっとサバネ達にも『口止め料』が送られるんだろうけど、それは『今後の生活資金』として誤魔化されるんだろう。
巨木は相当大きく、深く根を張っているから、この巨木を全て消し去ったとしても、この村が元どおりになるかは難しいのかもしれない。
村に住んでいた人々は、当然別の場所へ移住する形となる。だから、『今後の生活資金』が都から出される事は、サバネ達にとっては有難い事。
私は『口止め料』と分かっていても、しっかり受け取る主義だから。
そして、今回『負の遺産』を全て受け持つのは、村長であろう。都に隠れて私服を肥やし、罪も無い人々を苦しめ、挙げ句の果てに自分の村を全壊させてしまったんだから。
この村は、都にも近い事もあって、損害は計り知れない。それに、ウメの暮らしていた『生メル森』もその被害を受けた。
村に向かう最中、その場所を通り過ぎたけど、木は枯れ果て、草は一本も生えていない、完全に荒地と化していた。
精鳥だったウメが森を管理していたから良かったけど、村長はきっと、『生メル森』にも手を出したのだろう。
森に動物達が戻って来るかも、だいぶ怪しい。一度壊れてしまった自然は、元に戻すのに相当な時間と努力が必要になる。
一体何匹もの動物が住処を失ったのか、どれだけの自然の命が潰えてしまったのかも、予想できない。
その埋め合わせが、村長のみで済むとも考え難い。でも、何故だか「大丈夫だろう」と、根拠の無い自信が、私やサバネ達にはあった。