第十七章 サバネ視点 全力を振り絞って・・・
自分の言葉に反応してくれたのか、『あの子』は顔を俺に向ける。でも直後に、『あの子』は急降下して、巨木の根元へ逃げてしまう。
恐らく、自分の哀れな姿を見せたくないんだろう。そしてその直後、ウネウネと動いていた巨木の動きが急に止まる。木の穴から少し出ている黒い羽は、ビクビクと震えている様子だった。
自分はゆっくりと巨木に駆け寄りながら、震えている『あの子』の羽を、優しく撫でる。『あの子』は顔を手で塞ぎながら、「見ないで・・・見ないで・・・」と、小さな声で呟いていた。
でもその黒い羽は、とても綺麗で美しいと思う。よく、カラスが嫌いない人とそうでない人がいる話と同じだ。
村長さんの奥さんや娘さんは、カラスがあまり好きではないらしい。でも、自分はそう思わない。カラスって、よく見ると凛々しい顔立ちをしているし、きちんと羽の手入れも欠かさずしている。
農家の人もよく、「カラスに畑を荒らされた!!」と、怒っている時もある。でも、対策さえすればカラスはやって来ない。それに畑を荒らすのは、カラスだけとは限らない。
自分は『あの子』との生活を経て、自然の美しさ・摂理を学び、共に四季折々を楽しんでいた。そんな生活に、一日でも早く戻りたい、それが自分の願い。
その為なら、『あの子』がどんな姿に変わり果てていようとも、全く構わない。
この村に起こった異変の罰を、死ぬまで背負い続けても構わない。ただ、時間を忘れるほど美しく、穏やかで明るい木漏れ日の差し込む場所で、また『あの子』と共に、自然に浸りたい。
そんな思いを胸に詰め込み、自分は艶やかな黒い羽を撫で続ける。すると、木の穴から聞こえる泣き声が、少しずつ消えていた。そして穴の中で光る『あの子』の瞳を見て、俺は咄嗟に手を伸ばす。
『あの子』は少し戸惑いながらも、ゆっくりと自分の手を掴んでくれた。そして自分が腕に力を入れて、『あの子』を穴の中から引き引き摺り出す。
最初はだいぶ嫌がっていた『あの子』だけど、手を握っているうちに観念したのか、渋々外へ出て来てくれた。
自分は、優しく『あの子』を抱きしめながら、小さな背中を撫でてあげる。すると、『あの子』は大泣きしながら、自分の肩に顔を押し込みながら、全体重を自分に預ける。
相当辛かったんだろう、相当悲しかったんだろう。体がすっかり冷えてしまった『精鳥』は、まるであの時、山で救われた自分の様だった。
救いの手をしっかり離さず、『生きたい』という心を相手に伝えている。
あの時、自分を助けてくれた『精鳥』は、あまりにも眩しくて、光り輝いている存在に見えた。消えかけていた感情な体温が一気に戻り、心の底から安心できた、あの大きな優しさ。
その時の様に、自分にも『精鳥』が助けられるのなら、自分はそれでもう十分すぎるくらい満足だ。『精鳥』から伝わる、悲しく切ない感情に、自分も涙が出そうだったけど、瞼を強く閉じて必死に我慢する。
「大丈夫だよ、自分がいるから
自分は君と、ずっとずっと一緒にいるから
だからもう、寂しくないよ
・・・よく頑張ったね、
ありがとう」
自分がそう言った途端、『精鳥』の体が急に眩く光り始め、自分は咄嗟に目を瞑った。
「せめて
自分の選択や行動に、『意味』を持たせたい」