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花ノ鳥 儚キ鳥 背負ウ鳥  作者: 秋の鶯
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第十七章 サバネ視点 全力を振り絞って・・・

でも、キセキさんが俺の目を覚ましてくれたから、そこで自分にも、村にも、『挽回』のチャンスが訪れた気がした。

キセキさんの話で、『あの子』が一体どれだけの苦労や葛藤を重ねて此処まで辿り着いたのか聞いた。

その話を聞くと、何故か自分にも勇気が湧く。『あの子』がこれだけの事を成し遂げたのなら、自分にも、できる事は必ずある筈。

そしてキセキさんの勇敢な姿を見ると、その背中を追い求めずにはいられなかった。刀なんて一度も持った事が無かった自分。キセキさんから小刀を渡された時、正直震えを抑える事に必死だった。

でもその度に、『あの子』やキセキさんの顔を思い浮かべると、不思議と震えは収まる。

そして逆に、どんな事があっても前へ進みたくなった。自分がさっきまで傷だらけだった事も忘れて、自分は無我夢中で村を目指す。

体の痛みが何故か消えていたから、岩から転げ落ちてもあまり痛みを感じなかった。

村にあった家の残骸を飛び越え、村長の家にあった壁を渡り歩きながら、自分は空中に浮いている、『黒いナニか』を目指す。

その『黒いナニか』の正体は、さっぱり分からない。でも自分の本能が、直接自分に向けて助言をしていた。あの『黒いナニか』こそが、自分自身を失ってしまった『あの子』であると。

悲しみや悔やみ(黒)に染まってしまった『あの子』は今、自分でも分からないほど、言い様のない苦しみに悶えている。

自分にもその苦しみが、痛いほど分かる。自分だって、体はあまり痛くないのに、心は潰れそうなほど痛い。

『あの子』の苦しみに比べると、自分の苦しみなんて少しにも満たないと思う。それでも、『あの子』の心が唯一救われる方法、それが、自分にしかできない、自分の役目。

そして『あの子』は今、その悲しみや悔やみを、キセキさんにぶつけている。俊敏な動きと執拗に攻めにより、キセキさんは巨木の中に吹き飛ばされてしまった。

でも自分は、『あの子』に一瞬でも、「酷い」とは言えないし、思わない。むしろ、『あの子』の禍々しくなった姿を見ると、自分自身に「酷い男だ!!!」と叫びたくなった。

崖から落ちた自分を救ってくれたキセキにも、何もしてあげられない自分が悔しくて、哀れに思えたから。

でも今は、自分の非を嘆いている暇なんてない。何処まで近づけるかは全く分からない、でも俺は、腹の中から声を張り上げた。




「待ってくれー!!!」

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