第十六章 キセキ視点 制止の声
全てを忘れる事は
幸せなのか
それとも・・・
あの時見たウメの姿は、今私の前の前で、狂った様に泣き叫んでいる姿と、全く同じだ。
両手に漆黒の翼を生やし、目は怪しく光り、足からは鋭い鉤爪が生えていた。髪を振り乱しながら、ウメは歯を擦り合わせて、ギシギシと音を立てながら私を威嚇している。
そしてウメは、飛び立って私に鉤爪を向けた。私はそれをかわしながら、ウメに呼びかける。
「貴女っ!!!
自分の罪を忘れたの?!!」
「忘レルワケナイサ!!!
今モ昔モ、ズット罪ヲ背負イナガラ生キテイタノダカラ!!!」
ウメの声は、まるで鉄を擦り合わせた様な、醜い声色になっていた。私に楽しそうに話しかけてくれた、あの優しくて柔らかい声色とは、完全にかけ離れている。
ウメは涎を垂らしながら、私に噛みつこうとしていた。途中で巨木に歯が刺さってもお構い無し。巨木ごと食いちぎったウメは、疾風を飛ばしながら私を挑発している様子だった。
その顔に理性は見当たらない。『空腹』という本能のまま、ただひたすらにその飢えに耐えている様子だった。
私は巨木の枝を飛び越えながら、ウメの攻撃を避ける。でもその最中、私は気づいてしまった。木の枝が、まるで骨だらけになった人間の手の様に、何かを掴んでいた事を。
ウメの攻撃をかわしながら枝の先を凝視すると、そこには丸々太っている男が、白目を向きながら失神していた。
口から泡を出しながら、私に何かを訴えようとしている。そして別の枝にも目を配ると、今度は痩せ細った人々が枝に絡まっていた。
太っている男は、身なりがしっかりしていたけど、痩せ細っている人は粗末な服ばかり着ている。痩せ細っている人々は、抵抗する気も失ってしまったのか、枝に絡まったまま動こうとはしなかった。
私は持っていた刀で枝を切り落とすと、切った枝先からまた再生された枝が生え、私に掴みかかって来る。
これ以上枝を不用意に切る事は危険だとは思うけど、まず人命救助を優先したい。私は一旦地面に降り立ち、私に襲いかかって来るウメと対峙する。そして私は戦っている間際、ウメに色々と質問した。
「この巨木はウメの能力なの?!!」
「アァ、ソウサ
私二マダ宿ッテイタ『精鳥』トシテノ能力ヲ使ッテナ」
「私はこんな使い方をさせる為に、貴女に力を宿したわけではない!!!」
「黙レ!!!
オ前ハ私ノ正体ヲ知ッタウエデ、私ト旅ヲシテイタノカ?!!」
「あぁ、知ってたさ!!!
貴女がしっかり更生している事を喜びながら!!!」
「オ前ガ私ヲコノ世二縛ッタ『張本人』ダロウガ!!!」
そう言いながら、ウメは足で私の腕を掴み、凄い力で引っ張る。私はその足を切ろうとするけど、あまりにも硬く、傷一つつけられない。
『以前』より、格段に強くなっている事がすぐに分かった。だがその強さは、『恨み』や『苦しみ』を力に変えている、自身でも制御ができないほどの強さ。
私はウメの体を蹴り、腕にしがみついているウメの足を解こうとした。しかしそれよりも先に、ウメが私を巨木に向けて投げつける。
幸い、葉が生茂る場所に落ちたから、骨は折れずにすんだ。でも、巨木から伸びる蔦が私に迫って来る。私はどうにか立ち上がろうとしたけど、飛ばされた衝撃でうまく体に力が入らない。