第十五章 キセキ 過去編四幕
過去の惨劇は
必ず尾を引く
「封ジ閉ジ 抑エタ記憶ト真ノ姿
黒キ羽生イ 魂啄ム
閉ジモ開キモ 其方次第
処罰ノ行方モ 其方次第」
ウメと旅立つ前、御神鏡に祈祷して浮かんだ言葉は、私の予想通り・・・だったのかもしれない。初めてウメを見た時、私は『再会』の喜びで、口から咄嗟に声が漏れそうになったけど、どうにか抑え込んだ。
ウメのその美しい姿と、勇気ある行動に、私は感心した。そして私は、ウメに何も教えないまま、共に旅を楽しんだのだ。
なるべく余計な事は言わないように、普段通りの、穏やかで楽しい日々をウメに送る。それが私の、『過去』に対しての『穴埋め』。
でも、私との旅を楽しんでいるウメの顔を見ると、嬉しい反面、不安もあった。この異変解決の最中、ふとしたきっかけで、ウメの『過去』が露わになれば、ウメは自暴自棄になっても不思議ではない。
何故ならウメは、過去に『人を陥れていた存在』だったのだから。
もしその事実が、私以外の人間に知られてしまえば、もう村全体の問題ではなく、村以上の大問題に発展する可能性がある。
幸い、サバネが居た村は、、怪鳥の被害を一切受けていない地域だったから、事実が明るみに出る確率は低いと思っていた。
でも、私が封印していた、ウメの怪鳥としての記憶は、突然発見したサバネによって、封は解かれてしまう。
きっと、今まで信頼していた相手、つまり村長に裏切られた衝撃、「サバネを救えなかった」と、自分で決めつけてしまった事がきっかけだろう。
当たり前だ。ウメは精鳥として、ずっと村の為に尽くしていたのに、心の支えを一気に失って、自暴自棄になってもおかしくない。私だってきっと、泣きながら身を投げ出してしまうだろう。
その衝動はウメの封印されていた能力すらも解いてしまい、その力に身を任せた結果、禍々しく変貌してしまったんだ。
ウメがまだ怪鳥として世間を騒がせていた頃、私は見てしまったのだ。怪鳥に食い荒らされてしまった御神木を。
寺の住職に話を聞くと、その御神木は梅の木で、毎年大きくて立派な梅をいくつも実らせていた。でもその全てを怪鳥に取られた事により、住職は相当心を病んでいる様子だった。
実を取られただけでなく、枝を切り取られ、幹もだいぶ傷つけられている御神木は、見ているだけで痛々しかった。




