第十三章 キセキ 過去編二幕
ただ断ち切り
ただ薙ぎ払え
私と共に戦ってくれる巫女や宮司にも、様々な戦い方がある。相手の長所や短所を考えた上で、私は人選している。今回の場合、空を自由自在に飛び回る怪鳥の『群れ』が相手。
そうなると、弓や呪文を扱う人を優先的に前に出し、刀などを持つ人は援護に回した。
私は昔から、木に登ったり神社の屋根に登っては遊んでいたから、戦う場が空中であろうと地上であろうと関係無い。
もちろん、神社の屋根に登った日にはこっぴどく叱られた。母は顔を真っ赤にしながらギャンギャン怒っていたけど、その顔は今思えば可愛いと思えた。
多分、怒りたくてもうまく説明できず、頭が混乱していたんだと思う。
でも今も、時々屋根に登って景色などを楽しんでいる。屋根の方が空が鮮明に見えるし、山から来る風が気持ちいいから。
時々屋根の上でも剣術の稽古をしているけど、これは私だけの内緒。絶対周りから止められるから。
屋根の上だと緊張感も保てるし、体の平均感覚も養える。でも、あまり屋根の上で熱心に稽古をすると、瓦がすぐに痛んでしまう。
神社で働いている巫女や宮司も、よく一緒に術の稽古をしている。でも彼らの場合は剣術ではなく、個々の持つ特殊能力の稽古。
上手く操れるようになれば、周りに迷惑なんてかからないし、むしろ皆の助けとなる。私の元で巫女や宮司をしている人は、その能力で周りから厄介者にされてしまった人が多い。
そこで私が、能力を自分で操作できるように特訓させているうちに、いつの間にか巫女や宮司という役職に就いていた。
天野原に住んでいる人全員が能力持ちというわけではないけど、私は社会から逸脱してしまった人々の請負人としての役目もある。
そして天野原に住んでいる人々も、その事情を承知の上で此処に住み、私と一緒に特訓のサポートをしてくれている。
そんな中、「妖怪・悪霊退治の仕事も手伝いたい!!」と、巫女や宮司が言い出した。
私は、能力を『戦闘』の為ではなく、『支え』として生かして欲しかった。だけど、私一人だけでは立ち回りのできない依頼も増えていた。試しに、一人二人と戦闘の助手を増やした。
すると、仕事が以前よりも早く終わるようになった。能力の特訓にもなって、結果的に一石二鳥。
でも今回は、私一人のみで戦わなくてはいけない。久しぶりの単独戦闘に、少し武者震いがする。最近になって分かったのだが、私は単独よりも複数人での戦闘に向いている事に。
だったら仲間を引き連れて来ればいいと、誰もが思うかもしれない。
しかし、そうもいかない事情が色々とあった。今回の件に妖怪などが絡んでいないとあれば、神社の関係者を引き連れても意味がない。
人の強欲が、巫女や宮司の力によって抑えられるなら、話は別になると思うけど。
強欲というのは、厄介な事に本人以外の誰も見る事はできないし、止めるきっかけを作る事さえも難しい。
例え私達の様な能力を持つ人であっても、お金や権力を持っている人であっても、他人の欲は簡単に抑えられない。私も、今回の件を丸く収められるか、自信がなかった。
妖怪・悪霊退治には慣れているけど、身分の高い人への交渉なんて、正直やりたくない。退治依頼よりも作戦を練らなくちゃいけないし、何かと難癖をつけられると後々めんどくさい事になる。
なら尚更、仲間を引き連れて行けば心強くなったのかもしれない。説得や交渉に多数で乗り込むのは、良い作戦でもあるから。その方が心強いし、言い負かされる心配も少ない。
ただ、神社で働いている巫女や宮司に、そんな面倒事を押し付けたくなかった。
それに今回は、どうしても一人で完遂しなければいけない『事情』があった。
『私』一人だけで事を済ませたい、真実を知るのは、『私』一人だけ十分。だって全ては、『私』から始まった事だから。