第十二章 キセキ 過去編
望まぬ客ほど
面倒くさいものはない
「怪鳥ノ被害拡大
対策トシテ、陰陽師ヲ派遣
ソノ筆頭トシテ任命セシ」
丁寧な書を眺める私。そしてその向かいに座っているのは、汗をタラタラと流す男。机の上には、高価な敷物に包んである札束と、多勢の人間の署名。男は肩を小さくしながら、私の顔色を伺っていた。
でも、私が男の顔を覗き込むと、男の方から目を逸らす。彼がこの国の重役なんだから、苦笑いしかない。
よほど私以外の人間に顔を見られたくないのか、天野原に来る際にも、真っ黒な布を深々と被ったまま神社に来た。
でもこれが、お偉いさんがこの天野原を訪れる時の、いつもの服装。他所から見たら、ただの浮浪者にしか見えないだろう。
何故こんなにも頭を気味の悪いほど下げているのか、それは自分達が高を括っていたから。
「どうせ面倒事をでっち上げて、自分達の金を搾り取る為」
そう思って、何も対処をしなかった結果、取り返しのつかない事態になるんだから。正直その後始末を全て私に丸投げされても困る。
でも、私にしかその後始末ができないのなら、話は変わる。本来、もっと早くに私の元に相談に来れば、ここまで被害が大きくならずに済んだのに・・・。
お偉いさんから『強引に』見せてもらった資料は、どれも悲惨だった。この件で被害に遭った人の数は、百人以上にものぼるだろう。
命を奪われた者、異変の影響で命を絶った者、きっとこの資料の内容以上に、現状は酷い事になっているだろう。
確かに、「『怪鳥』が村の作物を食い荒らした」なんて、普通信じてもらえないのかもしれない。でも、その被害が徐々に拡大すれば、戯言は現実となる。
最初の被害が遭ってから、もう半年は経過しているみたいだけど、被害に遭った村の数は、十箇所を超えていた。
最初は、だいぶ小さな村ばかりが被害に遭っていた。でも月日が経つと共に、範囲も被害も拡大。今では東京方面の大きな町も被害に遭っている。
食い荒らされた食べ物・破壊された家や建造物・食べ物の流通費用、合わせるとかなりの損害額。私が一生働いても貯められないほどの莫大な金額。これでは、お偉いさん方の首が回らなくなるのも頷ける。