第十九章 キセキ視点 衝撃
その方面には、ウメとサバネが暮らしていた村がある筈。なのにそこにあったのは、大きな巨木。しかもその巨木は、ウネウネと動きながら成長を続けている様子だった。
苦しみに悶える様に成長している巨木からは、妙な音が聞こえる。まるで、女性の悲鳴の様な、甲高い音。しかしその声は苦しんでいる様子ではなく、逆に喜んでいる様子だった。
そう、狂気を帯びた笑い声だ。私の全身から鳥肌が立ち、一瞬木の枝から落ちそうにもなる。何故なら感じるのは、その異様な光景や声だけではなく、全身で感じ取れた、異常な程強い妖力。
その揚力の影響を一番に受けているのは私ではなく、周りの木々だった。枝に付いていた葉が急に枯れ始め、細い枝は瞬時に朽ちて地面に落ちている。
私はこの場所に居続けるのは危険と思い、サバネの立っている木まで飛び移り、彼を抱えながら地面に着地する。
サバネは顔面蒼白のまま、ただ口をパクパクと動かすしかできない様子だった。そして、先程までは何も異常はなかった筈の地面も、まるで火山近くの様に熱くなっていた。
私はサバネを抱えたまま、近くにあった大きな岩石に飛び乗る。私はすぐにその巨木へ向かいたかったけど、サバネを連れては行けなそう。
だから私は、一旦サバネを岩石の上に置いてから、岩肌を伝って村へ向かおうとする。しかし、ようやく正気を取り戻したサバネは、「俺も行く!!」と言って、私の手を引っ張った。
でも、妖気に耐性の無い人が、これ以上この場所に居続けると、体に支障が出るのも時間の問題になる。最悪、命に関わる事態にもなりかねない。そう私が説得したが、サバネは聞く耳を持たず、
「俺、昔から丈夫なんです!!
あの崖から落ちても平気だったんですから!!」
と、よく分からない言い訳をする。
でも、何故か私は彼の言葉に妙に納得してしまい。二人で村に向かう事に。
岩肌に咲いている花も、妖気の影響で枯れ始めていた。辺りには虫がウヨウヨと飛び回り、私達に体当たりをする。私達は必死に虫を避けながら、山を転げ落ちる様に急いで村へ向かう。
でも巨木の成長は止まる事はなく、私達の足場である岩肌にも根を伸ばし始める。巻きつかれると身動きが取れなくなるから、私はサバネに持って来た短刀を渡す。
そして、もし根に巻き付かれても、短刀で根を切るように指示した。立ち止まっていたらすぐさま根の餌食になる、だから私とサバネはとにかく動き続けた。
転げながら、走りながら、村があった筈であろう巨木の幹に向かう。




