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花ノ鳥 儚キ鳥 背負ウ鳥  作者: 秋の鶯
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第十七章 村の子供視点 絶望にのしかかったのは・・・ 

そのおやつの味さえも、今は思い出せない。冷たい米と地面の味が染み込んだ舌は、完全におかしくなっている。

手も足も、以前よりだいぶ硬くなってしまった。沢山の農具で、たくさんの畑の手入れをしなきゃいけないから、いつの間にか自分の足や手が、自分のものではなくなった様に感じる。

俺達は完全に、村長の「所有物」に成り果ててしまう。それは俺達自らが願った事ではなく、無理やりそう認識させられた。

最初は俺だって拒んだ、だから何度も脱走の計画を立てていた。けど、失敗した人達を目の前で見せられると、その気は一瞬で壊されてしまう。

前は、壊されてもまた『心』は芽生えていた。でも、毎日毎日続くこの状況は、まだ芽生えたばかりの『心』さえもむしり取る。

そんな事の繰り返しをしているうちに、俺の根本的なモノは全て枯れ果ててしまった。人間としての生活も、自由も、夢も。全て何も残らない。

今だって、まるで積み上げられた荷物の様に、俺達は狭い蔵の中で寝かされている。布団なんて与えてもらえず、ただ一緒に寄り添う事でしか暖を取れない。

蔵はあちこち隙間だらけ、だから倉にある布や道具で穴を塞ぐけど、天井近くの高い穴などは、どう頑張っても塞げない。

夏は蚊に刺されて眠れない、冬は寒すぎて寝られない。だから俺達は、毎日寝不足状態。そんな状態でまともに仕事なんてできず、眠気や疲労が限界で倒れても、無理やり仕事をさせられる。

今だって俺は、恐怖や不安で眠る事ができず、ただただ天井から少し見える夜空を眺めていた。日に日に、夜眠れない子はどんどん増えて、蔵の中の子供はどんどん減っている。

もう誰がいついなくなったかも思い出せない。友達を心配する心の余裕も、いつの間にか消えていた。

自分が生き延びることだけでも精一杯なこの状況。中には、他人に自分の失態をなすり付けた人もいるとか。

でもこんな状況じゃ、そんな事が起きても全く動揺なんてしない。むしろ、「そうだよな」と、卑怯な行動をした人間に同情してしまう。もう俺も、人としての道徳はこれっぽっちも無いのかもしれない。

今だって、自分から脱走しようとはせずに、殆ど他人任せ。その結果、俺は色んな人を見殺しにしてしまったんだ。

でももう、悲しい感情は湧き上がらない。涙ももう出てこない。それは、自分の心が壊れているのか、この過酷な環境に慣れてしまったのかは、自分でも分からない。

自分が何故こんな場所で、何故こんな扱いを受けているのかも、もう考える事すらできない。


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