第十三章 キセキ視点 徐々に明るみになる・・・
今日も夜空がとても綺麗で、私は自分の白湯を飲み終わった後、焚き火を消して星の光を眺めた。星が泳ぐ天の川を、時々流星が横切る。美しく湾曲した三日月は、まるで星を掴む様にも見えた。
ウメは、鳥の姿であまり夜空を見た事がないらしい。確かに、殆どの鳥は夜に弱い。夜行性であるフクロウなどは別として。
精鳥状態のウメは、夜になると自然に眠ってしまい、夜に起き続ける事はできなかったそう。人間でも夜長く起き続けると体調不良の原因になるけど、夜専門の仕事をする人だって珍しくない。
村にいるサカネイさんだって、時々畑を荒らす動物を追い払う為に、目を擦りながら頑張って見張りをする事もある。
私も、夜にしか現れない妖怪や悪霊が相手になると、朝方の体を無理やり夜型にしなきゃいけない。だから私は、「陰陽師としての仕事は不向きなのかもしれない」と、時々思う時がある。
でも、私の力で皆が平穏に過ごせるのなら、この才能を生かす他ない。そう思いながらこの仕事を続けている。
ウメは私に聞いた、「貴女の仕事って、結構危険な仕事なんですか?」と。その問いに、私は苦笑いをしながら頷いた。命に危険を感じた事もあれば、精神的に辛かった事もあったから。
時には妖怪や悪霊ではなく、同類である『人間』からも石を投げられた事だってある。仕事場に赴く最中、悪戯やからかいを受けたり、時には『妙な集団』から襲われた事も。
その集団の目的なんて、大体見当がつく。考えたくもない、汚らしい理由。その証拠に、毎回彼らに出会うと、彼らの顔から滲み出ている生々しい欲の色が丸分かりだから。
実際、旅に出て行方不明になった人の中には、そんな集団にさらわれてしまった人も少なくない。ある意味盗賊よりもタチが悪い。
仕事の合間に、何度もそんな集団と鉢合わせて、散々迷惑な目に遭っている。ウメはだいぶ汗水を垂らしながら私の話を聞いていた。途中から私の愚痴話も挟んでしまった気がするけど・・・。
私は話を一旦止めて、小さく咳払いをしてウメに謝罪した。ウメは首を横に振りながら唇を噛んでいた。
森の中でずっと平和に過ごしていたウメにとって、外の世界が危険に溢れている事は、夢にも思っていなかった事。
サバネとの話で、森の中には盗賊が居る知識は持っていたみたい。だけど、この短期間の間で色々と汚らわしい知識を一気に詰め込んでいるウメ。可哀想だけど、もう止まる事はできない。
今サバネの居る村は、きっとウメが想像している以上に汚れているんだろう。でも、だからこそ救わないといけない。
私は旅の道中、ずっと悩んでいた。ウメに村のありのままの光景を見せようか、隠すべきか。でも隠すにしても、『事実』はどう頑張っても隠しきれない。それに、ウメの為にもならない。
なら、大きなショックを受ける事を覚悟で、村に起きた異変の真相をそのままウメに突きつけるべきなのか、悩み続けている。
あのお茶屋さんで出会った旅人達の話で、異変の原因はある程度予想できた。でもそれをウメにそのまま話すのは酷な事。
せめて、ウメ自身の心が覚悟を決めて、ウメ自身が真相を知りたいと思った時に、ちゃんと話してあげようと思った。




