第十一章 キセキ視点 旅立ちと約束
旅に行くには
捨てるモノがある
「それで、どうにか山を抜けた私は、人間に化けて色々と情報収集しました
1ヶ月ほどかかって、ようやく貴女の居る場所を突き止めて、いざ出発したんです
でも、知らない山の中だったので、道に迷って・・・」
「・・・なら良かった、村近くの山で盗賊被害は聞いた事ないけど、やっぱり山は危険と隣り合わせだか
ら。特に、山に関する知識が浅い人とか、初めて登る山とか
この村は山に囲まれてるから、見つけるのに苦労したでしょ」
「人の目の届かない場所に行っては変化を解いて、空からも探してたんです
変化するにも体力が必要なのに、一日に何回も何回も変化したから、体力が持たなくて」
「でも、貴女変化を解いた姿も十分可愛いよ」
私の掌には、可愛らしい小鳥が翼で顔を隠して、まるで照れ隠しをしている様だった。頭を人差し指で撫でると喜んだり、羽毛を整える姿は、普通の鳥と変わりない。
こんな小さな鳥が、ずっと私を求めて彷徨い続けていたと思うと、少し心が痛んでしまう。それに、ウメが此処に来た理由も、また心を痛める。人間である私でも聞き苦しい内容だった。
でもウメは弱くはない、大切な人を守り、大切な人との約束を懸命に果たそうとする、勇敢な子だ。
それに、ウメは事件の全容を全て自分の口で語ってくれた。苦しい言葉が連続する話を語るのは、誰だって辛い筈。
ウメの気持ちが早まる事は分かるけど、焦りや混乱は失敗の原因になる事が多い。まずはウメの気持ちを落ち着かせて、万全の状態で仕事に挑む事が大切。
とりあえず私は、押し入れの中から着物を一着取り出し、それをウメに着せてあげた。布地は薄いけど、動きやすくて山の中でも疲れにくい物。作っておいた物をしまっておいて良かった。
私は暇さえあれば裁縫をして、継ぎ接ぎをしたり布地を作っている。でもどれも売りには出さない。いつも押し入れの肥やしにするばかり。でもその方が良い。
だって私の作った服を着て、喜んでくれる人の顔を間近で見る事ができるんだから。誰かに売ってしまえば、買った人がどんな感想を持っているか聞き出せないし、着た姿を確認する事だってできない。
私の作った着物を着て、嬉しそうに部屋をクルクル回っているウメを見ると、私の趣味も悪くないと、心の底から思える。