第十章 ウメ視点 冷たい現実が 銃口を向ける
でも村長さんは、自分を哀れな目で見る娘さんが目にはいった途端、動きを止める。その表情は、『冷酷』そのものだった。自分の娘にも関わらず、まるで罪人や悪人を見る様な冷ややかな目線。
その空気に脅されたサバネと村長さんの奥さん。そして村長さんが刀を振り上げたと思ったら、その刀は娘さんに向かって迷い無く振り下ろされる。
でもその動きに一瞬早く動けた奥さんが娘を庇う。振り下ろされた刀は、奥さんの肩を切りつけた。
奥さんは絶叫の様な悲鳴を上げていても、娘を庇う体制を崩さない。その勇敢な行動を見た村長さんの手は、再び振り上がった。
サバネは一旦私を懐に入れて、荒れ狂う村長さんを羽交い締めにする。そして屋敷の騒ぎを聞きつけたのか、壁の向こうで大勢のざわめきが聞こた。
私はサバネの懐から顔を覗かせると、遠くで『木と鉄の棒』をサバネに向けている二人が見えた。嫌な予感がした私は、まだ痛む体を震わせながら、二人に向かって飛び付いた。
その動きに驚いた一人が金具を引いた瞬間、とてつもなく大きな音が響いて、同時に壁の向こうから悲鳴が聞こえる。その音に意識が飛びそうになったけど、なんとか堪えてサバネの元へ戻った。
壁の方を見ると、さっきまではなかった壁の傷があった。壁の傷からは煙が立ち込め、よく見るとその壁の中に何かが埋め込まれている。
それを見た私は、二人が持っている『木と鉄の棒』の正体が分かった。
あれは『銃』だ。
でも、いつも山に来る猟師さんが持っている様な大きさではなく、とても小さくて変な形をしている。まるで『鎌』の様な。
つい最近まで、あんな武器は村に無かった筈。アレを一発私が受ければ、即死は確実。私は一気に怖くなって、再びサバネの懐に潜り込んだ。そして村長さんは奥さんの傷ついた肩を蹴り続けていた。
混乱していた私とサバネの元に雀達が寄って来て、逃げる様に促す。サバネは動物や鳥の言葉は理解できないけど、勘で察したサバネは屋敷から飛び出した。
野次馬をかき分け、山の方へ全速力で走る。後ろからは野次馬の悲鳴と共に、サバネを呼び止める村長さんの声も聞こえた。村中が大パニックになり、玄関前で震えている人や、その場に蹲っている人も。
中にはサバネと一緒に山へ駆け上る人もいる。しかし後ろから聞こえる爆発音が、どんどん近づいている事が分かった。そして、サバネと一緒に逃げていた村民の一人が、木に登って身を隠そうとする。
しかしその直後、大きな爆発音と共に木から落ちる村民。その村民は、真っ赤になった脇腹を抱えて、サバネ達に大声で「逃げてくれ!!!」と言った。
でもサバネの息は、その時からすでに切れていた。彼は山にはよく登っているけど、走って山を登った事なんてない。
サバネは何度も、木の根や岩に足をぶつけて倒れる。それでも彼は、私を守る手を離さなかった。私は苦しくて苦しくてしかたなかった。それは体の痛みじゃなくて、心の痛み。
サバネだって、いつ村長さん達に捕まってもおかしくないのに、それでも彼は私を必死になって守ってくれる。
申し訳なくて、自分の不甲斐なさが心を締め付けていた。