第六章 ウメ視点 『救い』という名の『出会い』
青年の事情が分かったのは、彼が声を発せられるようになってからだった。
「サバネ」と自分を名乗り、山の中で気を失う以前の事も、しっかり覚えていたらしい。サバネはつい最近まで、旅商人として両親と一緒に、いろいろな地を渡り歩いていた。
でもその道中、盗賊に出くわしてしまって、サバネだけはどうにか逃げられたけど、両親とは逸れてしまった。何も持たずに山の中を彷徨っていたから、空腹が限界になって、その場に倒れてしまう。
それからサバネは、医師のおじさんから貰った食事を、涙を流しながら口にかき入れていたんだ。
そして医師のおじさんは、山の中で瀕死状態になっているサバネを助けたのは、『精鳥』の私である事を伝えた。
サバネは私に対して、きちんと頭を下げて感謝してくれた。もう冬が近かったのに、身体中が急に熱くなった事を覚えている。
それからサバネは、時間が開くと山に入り、私の元へ来てくれるようになった。旅商人として、すべての道具や商品を失ってしまったサバネは、この村の村長の家で働かせてもらっている。
そして彼は、私に余ったお米や野菜をくれた。山にある餌だけでも十分お腹は満たせるけど、やっぱりたまには美味しい物が食べたい。
サバネの炊いたお米はとても甘くて、食べやすい柔らかさ。そのお礼として、私も山で咲いていた花を彼にあげていた。
そしていつしか私は、サバネが山に入るのをいつも楽しみにする生活になり、同時に冬がとても辛くなってしまう。
冬は寒いしお腹も徐々にに空いてくる。でも何より、サバネと長い間会えない悲しみに耐える冬となった。
でもサバネは、春の訪れと同時に山に入って、私に毎年冬越しのお祝いをしてくれる。寒い冬の仕事は大変だったのか、冬を越したサバネの手は少し痛んでいる気がする。
でも、どんなに手が荒れていても、久しぶりに感じるサバネの温もりは、春の朗らかな太陽と同じくらい、待ち望んでいた。
『不幸』あっての『幸福』か
『幸福』あっての・・・