第三章 キセキ視点 少女の目的
その言葉を聞いた瞬間、少女は私に抱きついてきた。さっきまで安堵していた少女の表情が、一気に青白くなった。
多分、何か思い出したくない記憶を思い出してしまったんだろう。私は優しく少女の頭を撫でた。ガタガタと震える少女の肩。その姿を見た巫女の一人が、少女に布団を被せてあげる。
でも、少女は『寒さ』で震えているわけではなく、『恐怖』で震えている。私はそこに居た巫女に、「この子の朝ごはんを持って来てくれる?」お願いする。
もう出来上がっている事ぐらい、台所から漂う炊き立てのご飯の匂いですぐに分かった。私が、「何日食べてないの?」と少女に聞くと、少女はただ首を横に振る事しかできない様子だった。
恐らく、一週間以上は山の中を空腹状態で歩き回ったんだろう。途中で空腹感覚が麻痺して、思考力を失い気絶してしまったんだ。
巫女が持って来た朝ごはんを見た少女は、すぐに私の元から離れて、温かいご飯にかぶりついていた。
私もお腹が空いていたから、台所に行って自分の分の食事を持って、少女と一緒に食べた。
よほど美味しかったのか、ご飯も味噌汁もおかわりする。それを見越して、沢山材料を用意しておいた甲斐があった。私は少女の頬に付いたご飯粒を拭き取りながら、いつもより少し賑やかな食事を楽しんだ。
庭では、冬を超えた鳥達の賑やかな歌声が聞こえ、花びらが風に乗って部屋までヒラヒラと落ちてきた。
桃色の花が真っ白なご飯の上に落ちると、私はつい箸を止めて、季節の変わり目をしみじみと感じる。
春の暖かい風は、少女の冷えてしまった心や体を優しく包み込む。そして村の方からは、子供達が元気よく遊ぶ声が聞こえる。草木は子供の立派な遊び道具。草を紡いで綱引きをしたり、木登りをしたり。
私も仕事に隙間があったら、よく村の子供達と遊んでいる。子供の遊びは一見簡単そうに見えるけど、大人でも子供に負ける事がある。木登りにしても、少し油断すれば字面に真っ逆さま。
かくれんぼにしても、子供の小柄な体と斬新な隠れ方で、私がいくら探しても見つからない時もある。
それでも子供達は、私と一緒に遊びとすごく喜んでくれる。だから仕事に合間がある度に、私はつい外に出てしまう。
子供達だけではなく、村人の仕事を手伝う時もある。特にこの季節の初め頃は、種植えに勤しんでいる時期。
今日も、もし用事がなければ村の方へ足を伸ばそうと思っていた。けれど、やっぱり少女の事が心配だから、今日は彼女につきっきりで看病する事に。
それに、村の仕事を手伝うのは私だけではない。今頃他の巫女の何人かが、村で皆の仕事を手伝っている頃だろう。
「あの・・・すみません
色々と・・・」
「いいのいいの
どうせ仕事も無くて暇だったから
・・・あぁ、そういえば
貴女の名前をまだ聞いてなかった」
「私は、梅と申します」
「でも
今回も『一筋縄』では行けそうにない・・・」




