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未来世界での襲撃者たち

「――命中! よし、これで大儲けだ!」

「やったね、兄ちゃん!」

「ああ。便利屋の事務所に対装甲列車ミサイルを打ち込む簡単な仕事だったな。まあ、前に他の殺し屋が襲撃したのかもしれないが」

「いや、兄ちゃんの腕だよ! この距離で、あの小さい建物に当てるんだもん!」

「ありがとな。しかし、なかなか煙が晴れねえな……まあ、壁自体が脆かったのかもしれないが」

「そうだね。どうする? 先に連絡しちゃう?」

「いや、ちゃんとログを出さねえと――」


 と、そこまでリナの傍受した会話を聞いて俺はブチ切れて事務所から飛び出す。


「ふ、ざ、け、ん、じゃ、ねえええええええええ!! 人の! 事務所を! 家を! 何だと思ってんだあああああああああ!!」

『いやー。良かったねぇ。対策に電磁シャッターを高いお金かけて設置して。ちゃんとジャマーも機能してるし』

「本当になぁ! ただでさえ最近は赤字だってたのによぉ!! それに壁の内側だから壁は壊れてんだよなぁ!」

『まあ、頑張って稼ごうね? まあ、あの二人とっ捕まえても一銭にもならないけど』

「そうだよなぁ!」


 リナの本気で同情した声に流れもしないはずの涙が流れそうだ。

 わざわざ設置した電磁シャッター。これは焦土ミサイルでも防護するという触れ込みのかなり頑丈な装備だ。さらに、電磁ジャマーも付属していて攻撃されてしばらくの間は襲撃者を撹乱できるという優れものだ。

 欠点は俺の事務所の貯金の八割が消し飛ぶくらいにお高い装備だということだ。これで趣味のソニック社おもしろ兵器シリーズも買えない。あらゆる理不尽と怒りを奴らにぶつけるつもりで走る。走る。走る。


「位置情報!」

『はいはーい』


 距離としては数kmは離れている。だが、問題などはない。マニピュレーター起動。走行の際に機械に補助をさせることで一気に出力を上げる。

 人間の限界を超えた車両のような速度で走る。地面を蹴り飛翔。まるで足場のようにビルの壁や天上を蹴り一気に距離を詰める。デュエットの奴らの声を聞くが、気づかずに二人で雑談しているようだ。


『あの二人は最近名を挙げてるスナイパー兄弟だね。通り名はデュエット。超遠距離スナイパーだから、下手な相手は一瞬でどかーん! って感じ』

「なるほど。それで、俺とどっちが強い?」

『あはは、それを聞くの?』


 そういって、俺にメッセージを送る。

 たった一言。『私達が最強』という言葉。


「ああ、愚問だったな!」


 そうして、更に出力を上げ接近。

 そこで、ようやく気づいたようだ。慌てたような観測手。そして、狙撃手は一瞬でこちらに照準を合わせる。

 なるほど、いい反応だ。そして、発射される弾頭。

 直撃して、二人は歓声をあげる。


「よしっ! くそっ、あれで無事だなんてどうなってんだ!」

「やばかったね、兄ちゃん」

「ああ。全身義体だなんてヤバい奴だ。接近戦は死ぬほどやりたくねえな」


「――そうかいそうかい。なら、接近戦に付き合ってもらおうか」


 爆風の中から二人の目の前へと着地する。

 土煙を巻き上げてやってきた俺をみて、二人は目を見開く。


「なぁ!? どうして爆発を受けて!?」

「何の対策も無く受けるわけがねえだろうが」


 とはいえ、やったことはシンプルすぎるほどだ。

 ソニック社製、防爆シールド。爆発を防ぐことに特化したアホみたいな防御用パーツ。ちなみに使い捨て。しかも、直撃しか防げず腕に限定装備という誰が買うんだというパーツ。使ったことで腕から外れてガランという小気味のいい音を立てる。

 一目惚れして買ったのだが、ここで使えて正直ちょっと満足感がある。


「くそっ! バケモノが! 対装甲列車ミサイルだぞ!?」

「兄ちゃん!」

「ああ!」


 二人が声を掛け合った後に、一瞬で二手に分かれる。打ち合わせなしでこの判断の速さは見事だ。思わず敵ながら関心してしまう。

 さて、どちらを追うか……ん?

 何やら時計のような音が聞こえる。


『あ、爆弾』

「は?」


 衝撃、爆発。そのまま俺は建物の下に落下する。くそ、流石に売出し中のハンターコンビというわけか。あの一瞬で爆弾の置き土産までするとは。

 落ちた先はどうやら無人の建物だったらしい。まあ、不幸中の幸いだ。


『警告! 警告! ここは私有地です! 今すぐ退去しなさい!』

「おっと、悪かった。すぐに出る」


 室内で警備していたロボに警告されて慌てて逃げる。変にごねてブラックリスト入りして通報はされたくないからな。

 無人のビルやらは全てAI管理されている。安心安全。融通がきかない機械相手なので侵入者は警告を聞かなければあっという間に通報されて指名手配されるというのだから、恐ろしいことだ。

 ……と、そこでリナからの連絡。


『ドウズ~、元気?』

「ぶちのめす気力はバッチリだ。それで?」

『はい、マーカー。逃げたのは兄の方は第一地区方面。弟は第四地区方面。ただ、どうにも動きが怪しいね。なんか、こっちの追尾を混乱させようとしてる感じ。だから、地区を跨がずにこの第五地区でなにかするんじゃない?』

「なるほど。なら下手に深追いすると罠に掛かる可能性もあるか。なら、先に潰すべきは……兄の方だな」


 俺から逃げる瞬間、弟は兄に向かって確認の声をあげた。観測手であることも考えれば、あのコンビでの決定権を握っているのは兄のほうだ。

 ならば、先にそちらを潰すことで判断力を削るべきだろう。傍受した会話からも弟は精神的な柱を兄に置いている。上手くいけば、兄をぶっ倒して降伏させることも可能かもしれない。


「よし、兄を狙う」

『はいはーい、それじゃマッピングを兄に絞るね。じゃ、ドウズ! ゴーゴー!』


 とんでもなく楽しそうな笑顔を浮かべて、そう言って何故かマネージャー服にアバターを変えるリナ……楽しそうだな、お前。

 そんなふうに思いながら、マニピュレーター起動。もう一度ダッシュで走る。

 ビルの群れを飛び跳ねていく。市民がこっちを見るが、驚いた顔をしても特に干渉されることはない。サイボーグ同士の捕物というのは珍しくもないからだ。

 身体も温まってきた。更に速度を上げていく。

 ビルを飛び、地面を蹴り、たまに車の上を蹴り――


「追いついたぞ!」

「げっ!」


 必死に走る奴の上を飛び越えるように跳躍。そのまま兄の前方を遮るように着地する。

 必死に逃げていたようだが、マッピングをしている俺たちが足の義体化をしてない奴相手に最速ルートで追いかければ当然ながら追いつく。そして目の前を塞がれれば、威圧されて動きも悪くなるという演出も出来る。


「ひいいいい!? ば、バケモノかよ!?」

「失敬な野郎だ。ただの全身義体だろうが」

「クソっ! 全身義体なんて半分バケモノみてえなもんじゃねえか! やってやる!」

「お?」


 懐から取り出したのは小型の銃。口径は小さいが、恐らく義体に対して何かしらの作用を持つ弾丸を準備しているだろう。

 狙撃手だというのに、良い気迫だ――


「うおおおっ!」


 そして……その銃は義体化している俺が目視すら出来ないほどの速度で引き金を引かれる。音すらも置き去りにして弾丸は発射された。

 弾丸は俺の認識を超えて発射されて、そして――


「――悪いが、当たらねえよ」


 だが、俺はギリギリを掠めながら銃弾を回避。接敵。ゼロ距離に詰め寄り、腕を取って捻り上げる。


「うがああああっ!? な、なんでっ!」

「ほお、お前さんの腕の義体はテンドウ社モデルか。いい奴使ってんな、お前」


 なかなか高価な義体だ。反応速度特化で、確かに早打ちなら負けることはないだろう。

 関節を完全に抑えて動けなくなり、喚くことしか出来ないようだ。


「な、なんで! あの早打ちを避けれるはずが……!」

「生憎だが、慣れてんだよ。お前みたいな義体の相手は」

「慣れ……!?」

「大抵のハンドガン持ちは速射機構を装備してるからな。あれ系はモデルになるスタイルが同じだから予兆も見やすいんだよ」


 速射機構は、理想的な銃の射撃を義体にオートで行わせるシステムだ。発射するぞとスイッチを入れればどんな射撃下手でも神域のガンマンになれる反則装備。

 だが、義体には癖がある。特に、人間の脳の限界を超えるような挙動をする義体はオートマチックに作動するため、同じような動きになる。

 つまり、回避するにはそれぞれに対応した避け方を覚える必要がないということだ。


「――どうだ、理解したか?」

「アホか! 補正機能がついてんだぞ! 雑に避けようとしても無理に決まってる! 引き金を引いた瞬間に回避行動を取らねえと……」

「そう、だからそれを実践したわけだ」


 その言葉にそんなバカなと言いたげな顔をされる。

 ……まあ、たしかに痛い目を何度も見て、それでも諦めずに避け続けて出来るようになったからな。馬鹿なことはしていると思うが、応用の必要がない分楽な部類だろう。

 さて、弟の方は――


『……あ、ごめんドウズ』

「ん? なんだリナ?」

『あはは……完全にリソースこっちに割いて忘れてたんだよね……事務所漁られてる』

「……何やってんだ」


 まあ、問題はない。漁られても盗難対策はしている。観測手で、斥候的な役目も弟にさせてたのだろう。だが、今事務所にそんな取られたりして困るものは……

 あ、いや……待てよ?


「兄ちゃんを離せ!」

『あちゃー……』


 その声に、俺は振り向く。すると……


「動くな! このガキがどうなってもいいのか!」

「……えっと、ドウズさん」


 ……ユーシャが捕まって弟の方の人質にされていた。

 そうだ。忘れてた。いくらセキリュティをかけても、事情も何も知らないユーシャはちゃんと保護しないとダメだった。


「……ユーシャ、何してんだ」

「この人がついてこいって言うし……ドウズさん達に何かあったのかと思って」


 ……もうちょっと疑ってほしいが、俺も怒りで忘れて突っ込んだしなぁ……


「動くなって言ってんだろ! ガキが死ぬところが見たいか! お前も何普通に喋ってんだ!」

(さて、兄はしゃべれないように拘束を強くして……)

「ぐげっ……」


 しかし、分断したのはこれのためか。俺が追いかけている間に、もう片方が人質か何かを取ることを目的に動くと。

 弟を追いかければ、兄が狙撃をするという可能性もあるのか。売出し中という看板に偽りはないようだな。

 だが、弟は慣れてないのか相当に動揺している。俺はあまり動かないほうがいいだろう。逆上して何をするかわからない。


「兄ちゃんを開放して下がれ!」

「まあ、まて。こっちもその子の安全を……」

「ドウズさん、その、この人は悪い人でいいの?」

「何落ち着いてんだお前!? まあいい! 兄ちゃんを開放しねえとこのガキを殺すからな!」

「落ち着け! 危害を加えたらこっちも考えがあるからな!」


 弟の方は指が震えている。銃の引き金を何かの間違いで引きそうで怖いくらいだ。

 くそ、厄介だな。依存している兄がこうしてやられて相当に混乱している。ここでリナに義体をハックして無力化は出来ないか視線を向ける。


(リナ)

『……ごめん、ドウズ。私でもあんなに混乱してると無理。義体率もそこまで高くないし、ハックはちょっと……』


 参ったな。このまま硬直状態だ……このままだとユーシャの身の安全が――


「あの、悪い人なんだよね?」

「あ?」

「は?」

『えぇ……』

「うごご……」


 この状況になっても場違いな気の抜けた言葉に全員の視線がユーシャに向く。

 その言葉に、思わず弟の手の震えも止まってしまっている。


「これ、撃たれたら多分……痛いのかな?」

「何だこのガキ……廃棄地区生まれか? これはなぁ! お前を殺す武器だよ! 分かったか!」

「殺す……」

「怖いだろ!? なら大人しくしてろ! お前と兄ちゃんを交換して――」

「ならいいよね」


 その一言と共に、ユーシャを拘束してる弟の方からなにか聞き覚えのない音がする。

 メキメキというか、ゴリゴリというか……まるで、工場などで解体されてるときの機械のような……


「あぎゃああああ!? うぎいいいいい!?」

「……硬い」


 ……おい、ちょっと待て。


『え? えっ!?』

「あががががが! ……あ、ちょ、ちょっとまって……うぎゃああああ! お、おれ、つうかく、きってな……」

「んんっ……! もっと、力を込めて……」

「……おいおい」


 俺と兄の方とリナの三人はその光景に呆気に取られる。思わず拘束を緩めているのに、兄は逃げることも忘れている。でも、仕方ないだろう。

 リナが弟の義体の部分を、素手で掴んでメリメリと破壊しているのだ。

 ……そういえば、そうだ。完全に忘れていた。ユーシャは魔法みたいな力を使っていたが、その前に俺の腕を跳ね飛ばして……

 つまりだ。


「えっと、この鉄の部分は治るから……」

「うぎいいいいいいっ!!!!」

「せーの……えいっ!」


 気の抜ける掛け声と共に、まるでペンでもへし折るような音がして弟の腕がもげた。


「あぎゃああああああ!? お、俺の腕があああああ! 兄ちゃん! 兄ちゃ……」

「えっと、こっちも鉄だ……せーの」

「おぎゃああああ!?」


 悲鳴を上げて片腕を抑えてうずくまる弟へ、容赦なくもう片方の腕も義体だったのでモギリとった。弟は涙とかいろんな液を顔面から垂れ流してぐちゃぐちゃになっている。下敷きにしている兄の方もう「やめてくれー!」とか必死に叫んでいる。

 ……えげつねえ、異世界の勇者。


「よし……」

「……変に怒らせないようにするか、ユーシャのこと」

『うん……うわぁ、あれ、相当ひどいことをしたんだけど……無自覚なのが怖いよね』


 多分、武装解除くらいのつもりなんだろうが……痛覚のある腕をちぎられたようなもんだからな。あの弟。

 特に誇るわけでもなくトテトテと俺たちの方へ戻ってくるユーシャを見て、リナと二人でちょっとだけ情操教育をしないとだめかもしれないと思うのだった。

残酷っぽいですが血は出てません。オイルと機械と涙とかが溢れてるくらいです。多分セーフ

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