未来世界での指針
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土日は8時じゃなくて適当な時間に投稿する予定です。人が多い深夜当たりかな? を目処にしていただければと思います
さて、話を終えてから、飯の時間にするかと言うことになり、この前注文した普通の食事を用意したのだが……
「……これ何?」
「食事だが」
『遠慮せず食べていいよ?』
「……えっと、その……あ、あの……う」
「う?」
「うっ、うぅ……うぇぇ……ぐず……ご、ごめんなさい……私……ごめんなさい……」
いきなり泣き出したユーシャ。しかも本気で泣いている。グスグス言いながら、こらえようとして堪えれないタイプのやつだ。
思わぬ反応に、思わず俺もリナも困惑して思わず慌ててしまう。
「おい、リナ! 今まで何食わせてたんだ!? 注文してたの食ってたんだろ!?」
『無難そうな、固形レーションしかあげてないよ!? ほら、見た目はなんか肉に見えないこともないけど味は虚無のやつ!』
「そんなもん食わせてたのかよ! いや、まあアレはアレで問題はないか……なあ、大丈夫か? なんで謝るんだ?」
「だ、だって……ぐすっ……私が悪いことをしたから……これ、食べろって……うえぇ……言うのかなって……」
「……ん?」
『どういうこと?』
泣いているユーシャだが、俺達は異世界だという人間に出してもそこまで問題はなさそうなものを差し出したはずだ。とりあえず、文化の違いが発動してそうな予感はしている。
「だって……グスッ……スライムは……不味くて、食べれないし……そんなのを出すのは……ぐず……私のこと、嫌いだって……」
「スライムじゃねえよ!?」
『スライムじゃないよ!?』
なんてこといい出すんだコイツ。スライム料理ってなんだよ。
出したのは一般的な経口食でゼリーになっている。完全栄養食で消化もよく味もいいという完全食。見た目も不快感がないように透明度が高く、水に近いようにしている。ゲテモノしか作れない食品メーカーが生み出した奇跡の一品と呼ばれている。
味は何故か100種類以上存在している。まあ、4種類から5種類しか食われてないが。
「てか、スライムって透明なのか?」
「……水洗いしたら……凄い透明になる」
『え? ていうかスライムなんて食べてるの? そういう文化あるの?』
「……こっちにはいないの?」
「いねえよ!」
『また今度、常識のすり合わせしないと……』
「えっと……スライム……凄い不味いの……透明でも、苦いのに、酸っぱくて……噛み切れないのに、柔らかくて……食べてると口の中が痛くなって血が出るの……」
……劇物か何かか?
『……多分だけど、雑食性の強酸生物? 死体を溶かした硫酸みたいなもんでしょ? 食べれるものじゃないって。うわー、ファンタジー謎生物だぁ……』
「いや、というかどういう状況で食うんだよ。そんなの」
「……魔王退治の旅の途中で……食べるものに困った時に」
『……どんだけ限界寸前な旅だったの』
さすがのリナもドン引きしている。スライムを食べる……俺たちもまあ、創作だのゲームだので見たことはあるが……それを食わないと駄目なレベルで追い詰められてるならそれはそれで問題だろ。
しかし、流石にゼリーもスライムに間違われたままでは沽券に関わるだろう。
「大丈夫だ。一口食べてみろ。それはちゃんと美味い」
「え、えっと……その……不安だから食べてくれるなら……人が食べてるのを見たら……」
「……あー、すまん。完全義体だから飯は普通に食えねえ」
『同じく』
「……うぅ……あ、あう……」
本気で泣きながらスプーンでゼリー経口食を掬って口に含む。
二人でじっと見守る。なんだこれ。そのままモニュモニュと食って……
「甘くて、柔らかくてプルプルしてて、美味しい……」
「そうだそうだ。食えるだろ?」
『はぁ、良かったー』
「でも食感とか無理……ごめんなさい……うげぇ……」
「だーー! ここで吐くな! こっちだ! ほら、早く来い!」
まさかの事態に大慌てでユーシャを連れて行く。
……ゼリー食は無理かぁ……逆に気になるな。そこまでトラウマになるスライム。
そして、余っていた固形食を食わせると喜んで食っていた。虚無の味だが、マイナスよりはいいんだろう。
俺は俺で食事ということでソニック社のオイルを飲む。
「……美味しい?」
「ん? まあオイルもこの体になったら美味しく感じるようになったな。お前は飲むなよ? 死ぬぞ」
「それ、お酒を飲む大人が……」
「ちげえからな!? 種族から違うんだよ!」
……ユーシャのやつ、なんだろうな。そういう動物っぽく感じる。見た目はまだ幼いガキだが、中身が相応に成長してない感じもする。
見てる分には面白いが相手をするとハラハラするな。
『ドウズ、ドウズ』
「ん?」
『多分ユーシャちゃん、生活とか色々アンバランスで助けられてたんだと思うよ。だから私達でカバーしたほうがいいかも』
「……あー、まあ確かに。聞いた情報ではそんな感じだな。了解した」
まあ、幼い頃に両親と死別して軍隊のような場所で魔王とやらを殺すために特訓をし続けて、まだガキのうちに仲間と魔王を暗殺するために突貫の旅に出る。
歪な育ち方もするよな……
「……? どうしたの?」
「いや、なんでもない。まあ食事は終わったし先のことを話すか。さて、まずは……ユーシャの話だな。その魔王とやらを探すのは……リナに頼みたいところだが」
『いや、無理じゃない?』
「だよなー」
「……ダメなの? 探しものは得意だって言ってたけど……」
ユーシャの疑問。電子妖精は人探しに強い。電子の繋がる場所なら無敵に近く、端末をハッキングして位置情報まで割り出せる存在が無理だという理由。
「リナは見ての通り肉体がない。まあ、お前さんにわかりやすく言うと俺達と違う世界で生きている」
「うん。それは分かる」
『まあ、そっちでいう魔法のスペシャリストみたいなものだよー。その代わり、魔法関係でしか関われない……みたいな感じ?』
「……なんとなく分かった」
オフラインになると、最弱と言っていいほど弱くなるのが電子妖精だ。インフラの整っていない廃棄地区当たりで単独で情報を掴むのは不可能に近い。
案外人探しも、ネットやらに繋がっていない場所に行かれるだけで撒けてしまう。便利に見えて不便なことのほうが多いそうだ。
「ま、そんなわけでリナは魔王探しには役に立てないだろうな。魔王が義体化してるってんなら話は別だがそんなわけもないだろう」
『ということで、地道に人に聞いたり探したりかなー。そういうのは私にはあんまり出来ないことでさー。電子妖精仲間は基本的にそんなこと興味ないし、人に聞くとしても電子妖精は嫌がられるんだよね。まあ、掲示板で情報を漁って見つけるのもありかなぁ……ねえ、魔王の特徴ってある? 見た目で』
「見た目……魔王は、その……」
言葉を聞く。よほど特徴があるなら探しやすい。
なんなら、角があるとか目が3つだとかそういう感じだと恐らく数日で……
「真っ黒でもやもやしてて……あまり大きくはない。私よりも高いけど、ドウズさんより小さいくらい」
「……なあ、探す気あるか? 流石に真っ黒なモヤモヤはなくねえか?」
『ドウズ、そういう種族なんじゃない?』
「ああ、なるほど。そういう人間じゃない……」
「ち、違うの……認識阻害の魔法を使って、認識できなくしてるの。だから、見た目の特徴はわからない……」
「……そんなのあるのか?」
「うん……魔力の濃い場所だと、別人に成り済ませる魔法……だから、この世界だと見た目は完全に違うかも……でも、私が直接見れば分かる。魔法を使ってるのは私と魔王くらいだろうから」
「ああ、なるほど。魔法の力みたいなのが見えるのか」
「うん」
それなら分かりやすいな。なんというか、あれだな。敵はステルス迷彩を使えるが、こっちは赤外線ゴーグルをつけているみたいなもんか。
納得した後に、情報の整理をする。見つける手段はあるが目視のみと。
「つまり、定期的に見回りみたいなのをして魔王を捜索するしかないか。ユーシャしか判別できないしな。ユーシャもそれでいいか?」
「うん。私が一人で……」
「危ねえっていうか不安だから一人はしばらく無しだ。俺が良いと言うまで、付き添いなしで外に行くなよ。分かったな?」
「えー……」
「わかったな?」
「う、うん……ドウズさん、こわい……」
怯えたユーシャにそう言われながら納得させる。
……本当に子守だな。まあ、ユーシャの気持ちはわかるが。あの年頃で大人の付き添いで外に出るのは忌避感あるからな。
「まあ、我慢してくれ。こっちも心配なんだ。……さて、次はこっちの問題だ」
忘れそうになるが……テンドウ社からの刺客を忘れたわけじゃない。
あのガラクとか言う変態野郎の裏付けだが……
「リナ、調べてくれてるか? あの殺し屋からの情報」
『調べたよー。まー、あの殺し屋の言う通りなんか変な動きしてたね。電磁ロッドもそっちの技師に頼んで調べてもらったらテンドウ社の癖があるって』
「つまり、黒か? ……何が理由だ?」
テンドウ社。大手シェアを握る義体メーカーにして兵器メーカー。
義体の5割がテンドウ社製品。テンドウ社のパーツを使っていない商品は二割程度といえばその影響力が分かるだろう。
そんなところに睨まれる理由……
「やっぱり俺がソニック……」
『株価操作してソニック社潰してその話出来なくしようか?』
「やめろ、冗談だ! ……まあ、わかりやすく考えれば磁場異常地帯を狙ってたんだろうな。テンドウ社は」
わざわざスラムの人間を使ったのも関わってほしくないからだろう。そりゃあ、あの場所に来る人間は磁場異常地帯の調査くらいだ。それを狙えば良く、武器も支給されるとなればメリットしかない。詳しい事情について廃棄地区の人間が興味を抱くことなんてないしな。それよりも自分が生き延びること、そして義体を手に入れることのほうが重要だ。
しかし……磁場異常事態は狙って起こしたわけじゃないだろう。なら、あんな目立つような場所にしない。人為的にするなら雑すぎる。自然発生の場所を確保したということだ。
「……なにかの実験か? もしくは……」
「……ん?」
話についていけずに、固形食をネズミみたいにコリコリと食べているユーシャを見る。
「リナ、もしも『転移してくる人間』を確保してる可能性はどのくらいある?」
『んー、1割ない』
「そんなにか? まあ、俺も妄想はいってる気はしてるが」
『だってさ。メリットがないもん。例えばだけど異世界から来た人間が定期的にいるとして……何が手に入るの? ユーシャみたいな安定しないし、何よりも中央に睨まれるじゃん。それに、確保した技術をどう使うのかもあるでしょ? テンドウ社がやるメリットがないよね。ここより進化した技術が来る可能性を考えるなら同じお金でアカデミーでも建設したほうがマシでしょ?』
「そうなんだよな……メリットがない。それにつきる」
人の確保はありえない……しかし、それだとなぜテンドウ社が? という疑問は尽きない。
ううむ……
『……あ、物? そっちならあるかもよ?』
「……物っていうのは?」
『ユーシャちゃんが飛ばされてきて……でもさ、本来今回のこれはイレギュラーだと考えるの。その場合、本来は何かしらの物質が転移してくるんじゃない? 例えば、植物の種。例えば、異世界の鉱石。例えば……レアメタル』
「……なるほど、資源の確保か! なら理由になる」
『そっちならありえそうだよね。私も試算してみたけど、コストで考えるとゲロ安いよ』
それならテンドウ社が動くのも分かる。資源の確保というのは難しい。資源は目減りしていくものでリサイクル技術とAIによる割り振りによって必要量は手に入る。だが、それ以上を手に入れるとなると非常に高価になりコストが見合わない。
さらには、需要と供給次第では金でも手に入らないものの増えていく。それを考えれば、ハズレでも余剰資材というだけでメリットしかない。使えるかわからない異世界の知識よりも、もっと即物的なものならテンドウ社という大手でも動く理由になり得る。
そして……
「それを黙って利用していることをバラしたら、中央は見逃さない……俺たちからタカられる可能性もあると」
『そうそう。それなら殺し屋も差し向けるよね。ひゃー! なんか軽い依頼でとんでもないことになってきたねー!』
本当だ。テンドウ社が狙ってくる理由もわかった。くそ、中央絡みの依頼はもう金輪際受けねぇ。厄ネタ案件しかねえのかよ。
たとえ、俺たちが意図しなかったと弁明するとしよう。だとしても最終手段として、テンドウ社をひっくり返せる知識を持っていること。これ自体が向こうからすれば驚異なのだ。
つまりだ……
「なあ、そうなると」
『そうだねー。テンドウ社とはどっかで手打ちしないと、また……』
と、なにか音が聞こえ窓の外を見て。
「……はぁ!? ロケット弾の弾頭!?」
飛来してくるそれが窓いっぱいに映り――
閃光。
爆発
そして、俺の事務所の壁が吹き飛んだ。