飛んできた経緯とか
――私は、※※※で生まれて育った。魔法が存在して、魔物が存在して、いろんな人が生きてる※※※っていう世界。そこの小さい街で、私はお母さんもお父さんと暮らしていた。二人は普通の商店の店主で、街でも揃いが良いって評判だった。
平和で、ゆるやかな日々。私は十歳の誕生日に、魔法で動く玩具を仕入れて買ってくれるって約束をしててとっても楽しみだったことを覚えてる。
でも――
私の誕生日の数日前に、魔王が人間に宣戦布告をした。人間を根絶やしにするって。魔物を操り、色んな国を襲うって。でも、誰も本気にしなかった。王様からも、こういう話があるけど不安にならないようにっていうお話が伝わってきただけだった。
だって、街を守ってた兵士の人たちはすごく強くて、街を守る城壁もしっかりしてて。周囲を見渡しても平和で。だから、誰だって想像してなかった。
――私の誕生日、地獄が始まったの
突然現れた、大量の魔物の軍勢は地平線を埋めつくすような大きな群れが突然現れた。誰もそんなの想像して無くて、私は誕生日なのになんでお外にでれないんだろうと不満に思って、でも、不安そうなお父さんとお母さんを見て何も言えなくて……
そうして、戦争が始まった。
必死に追い払うけど、ドンドンと追い詰められて、街から逃げ出そうとして、外で魔物に食べられる人も居て。
――そして、城壁が壊されて……魔物たちが入ってきた。そこからは本当酷くて。
魔物が町の人達を食べて、大好きだった町並みを全部壊していって。そして、私は――生き残った。お父さんとお母さんが必死に隠してくれたから。仕入れてきた、すごく匂いの強い香辛料の入ってた壺に隠して。そのまま、私は見つからないように隠したから……私だけ、生き残った。
私が壺の中から這い出したのは、何の音もしなくなった一日後で……
そうして見た町は変わり果てた場所になっていた。
昨日まで楽しく遊んでいた道は荒れ地になっていた。
仲良くしていた、※※※ちゃんの家は家だった残骸の残る墓場になっていた。
そして、私の大好きなお父さんとお母さんは……お父さんとお母さんだったものを残して居なくなった。
今でも思い出す。あの地獄を。あの絶望を。あの涙を。だから、私は魔族を許さないと。この手で復讐をすると誓った。
そうして、私は生き延びて勇者となった。
魔王を殺すために――
「……ふぅ」
そこで一息ついたユーシャ。
俺たちはその話を聞いてどう判断をするか、未だに悩んでいた。
(……さて、どこまで真実なのか)
『真実だとは思うんだけど……確認出来ないもんねぇ。あの手品というか、実際に何もないところで火を出されたのを見たら信じないってのも無理だし』
(俺の思考を読まないでくれ。まあ、ユーシャの話自体は……はっきり言えば廃棄街の幻覚持ちとかじゃ、出ることがない話だな)
『だーよねぇ。戦争? 宣戦布告? まずそれ自体が妄想でもそうそう出せないもん。廃棄地区の夢見がちな子供だとしても、義体も何も関わらない話なんて出せないって』
妄想や幻覚だとしても、それはある程度自分の認識や認知を元にするはずだ。
廃棄地区生まれなら、まず義体の存在しない世界を想像出来ないはずだ。必死に生き残るのがせいぜいな場所で、そんな概念を考える余裕はない。廃棄地区にわざわざ住んでるような偏屈なクリエイター共もいるが、そういう奴らは反社会的なもっと別の創作をしてる。
つまりだ……
(本当に、この子供の存在自体がイレギュラーってわけで……異世界。異世界なぁ)
「……?」
「ああ、いや。続けてくれ」
「うん」
そうして、ユーシャは現実離れをした話の続きを切り出していく。
――お父さんもお母さんもいなくなって、私は記憶を頼りに歩いて、その道中で兵士の人に保護をされたの。
人類の最後の砦って言われてたお城のある一番大きい街の孤児院で保護をされてしばらくはそこで生活してた。
……でも、それだけだと私は我慢できなかったの。だって、魔王に復讐をするって誓ったから。
だから、お城に志願に行ったの。兵士としての募集はしていて、魔王に対して皆必死だったから、私でも受け入れられた。
でも、最初は後方支援として入隊になりそうだった。抗議をしたら、見たことのない部屋に通されて……そこで、魔法の適性を調べることになった。
魔法は、誰でも使えるわけじゃなくて適正がないと使えないの。普通なら、高いお金を払って調べないとわからないけど特別に志願者には無料で診断してくれて……私は、魔法の適性が誰よりも高いことが分かった。
そういう子供は一箇所に集められた。魔王を倒すための特別な人材として。
私もその中で、王城の中で集められて全員で必死に特訓をしたの。魔法を研究している賢者様や、国で一番の剣士様。他にもいろんな達人の人から直接技術を教わった。泣いても、吐いても止められない訓練漬けの日々だった。でも、それも全て魔王を倒すためで滅びるかどうかだったから諦めなかった。
最初こそは、皆頑張っていたけど……度重なる魔族の襲撃に対して駆り出されて、迎撃をするたびに怪我をしていく。一緒に訓練をして励ましあった友達が明日には死んでいるような日々。何人も諦めて、後方支援だったり国を守るための兵士になっていったり……気づいたら、最終的にはたったの四人だけになっていた。
数年の卒業と共に、私達は魔王を倒すための旅に出た。激化する魔物の襲撃に誰も手を回せなくて、だからこそ私達が最後の希望だったの。
そこから、一年の旅路が続いた。魔物を見つけて倒して、道中の襲われている国を助けて……旅は、とても辛くて大変だった。
助けられない人もたくさんいた。
仲間も、ドンドンと怪我をして。
ときには、こんなときでも人に裏切られることもあった。
それでも励まし合って、協力して――
私達は……魔王を倒すという目的のためにひたすらに進んで――
「そうして、私は魔王と戦ったの」
「……なるほどな」
よく出来た物語だ。作家になると良い。ベストセラーになるかもしれないぞ。そういいたいところだが……
謎の力も、この少女の謎の知識も。扱っている未知の言語も。義体化を一切していない身体も。全てがこの少女をこの世界の人間ではないと信じさせる証拠になっていく。
……いや、まあ。
「それで、どうなったんだ? ユーシャがここにいるってことは勝ったんだろ?」
「……違うの」
「……ん?」
悲痛な顔をするユーシャ。
「私の仲間を犠牲にして、あと一歩まで追い詰めたの。でも、魔王は最後の秘策にある魔法を使った」
「ある魔法?」
「転移魔法っていう、伝説の魔法。これを使ったら、望んだ好きな場所に転移することが出来る。場所さえ知っておけば、距離も何も関係ない魔法」
「ほう……そりゃ死ぬほど便利で危険だな」
「うん。魔物も、これを使って送り込まれてきてたみたいなの」
なるほど……魔王ってのは本気だな。条件はあるんだろうが、無制限な移動というだけで恐ろしい。
恐ろしく効率的で容赦のない手段だ。魔物ってことは動物か。何らかの方法で死を厭わない兵器として使えるなら、それをひたすら一定間隔でも送り続ければいずれ相手は死ぬ。
なにせ、一方的に殴り続けられているわけだからな。古典ファンタジーでみた魔王のような、優しい魔物の配置なんてしてくれないわけだ。
「でも、その魔法には欠点もある。繊細で一定量を超える魔力で暴走してしまう」
「……ほう?」
「魔王は逃げようとして、とっさにその魔法を使おうとした。でも、私は逃がすわけには行かなかった。ここで逃がすと、どこに行くかわからないし……もしも見失えば、先に人類は滅びてしまうから」
「ああ、そうだな。魔物ってのに限界があるかもしれねえが……そういう便利な魔法ってのがあって、使われたら無理だな」
「だから、その魔法に大量の魔力を注いで私も無理矢理ねじ込んだの」
「……そんなの出来るのか?」
「ちょっと難しいけど、感性の高い魔法だからむしろ利用するのは簡単で……ただ、私の魔力のせいで変な動き方を」
『にゅあああああああああ!』
いきなり発狂して叫びだすリナ。なんだなんだ。
……あー、いや。なんとなく理由はわかった。
「わっ!? ……な。なに?」
「ああ、大丈夫だ。リナ、落ち着け」
『ふー、ふー……割り込み処理ぶっ殺す……ハッキングしてタダ乗りとか許さない……』
「おうおう。トラウマ刺激されたな。どうどう」
『ぐううう……ふぅ……ごめん、私としたことが冷静さを失っちゃった……実際にありそうな案件過ぎて……完成度の高いプログラムにタダ乗りしてエラー起こすハッキング野郎……ぐぎぎ』
「落ち着けっての」
リナが発狂したのはプログラムだの、電子妖精の電子戦だのを思い出したんだろう。そう言う意味では、未知の力を使ったプログラムみたいなもんか。
なんだか重くなった空気が軽くなった気がする。意識してリナは……いや、素だろうな。あの叫びは
「……ああ、続きいいぞ」
「うん。それで……魔力の暴走で目的地が恐らく変わったの」
「……ふむ」
「私と魔王の魔力。それが一気に注ぎ込まれて暴走して……多分、違う世界の扉が開いてしまったの」
「それでここに飛ばされてきたと」
「うん」
さて、ここまで聞き終わって判断材料はこの少女の言葉のみ。
だが、もう疑う気はない……とはいえ、だ。
「それで、何を目的にするんだ? 元の世界に帰ることか?」
「ううん……それは後でいい。もしもダメなら諦める」
「……いいのか? というか、後でいいっていうことは目的は何だ?」
「――私と一緒に、魔王もこの世界に来ているはずなの」
……ああ、そうか。同時に飛ばされたならその可能性が高いか。
つまり、今この瞬間にも魔王とやらはどこかに潜伏していると。汚染された大気の中でも生きているユーシャを見れば、同じ謎の魔法パワーが使えるなら死んでるということはなさそうだ。
「だから、私は魔王に止めを刺す。それが死んでいった人たちへのけじめだと思うから」
「……ガキにそんな重たい役目を背負わせるってのは褒められたもんじゃねえと思うが」
「私が好きでやってる。だから――」
しかし、その先を言わせないように頭を撫でる。
「まあ、なんだ。それでもお前の人生を賭けたことだ。結果が出るまでやらせるのも大人の役目ってもんだ」
『ほんとお人好し~』
「うるせぇ」
「あの……それじゃあ」
「止めねえよ。まあ、無茶をしないように見守ってやるくらいはしてやる」
俺が憧れたカッコイイ大人になるために。
俺が、自分に誇れるために。
――だから、このユーシャと言う少女を見守ることに決めた。
「ありがとう……ドウズさ――」
「ああ、だが報酬はもらうぞ?」
「……お金?」
「まあ、こっちの世界の金は持ってないだろうから現物でいいぞ」
「……取るの?」
えっ? なんで? と言いたそうな表情。まあ、流れ的に気分はわかる。でもだ――
「取るぞ」
『当たり前じゃん』
それとこれとは別だ。報酬がない仕事には熱が入らない。というかこっちも生活がある。
あと、ガキに善意で渡ることを覚えさせるのも良くない。なので当然ながら報酬は要求する。言うなら契約だ。口約束なんかよりも、ちゃんと報酬の絡んだ契約でないと信用はできない。というかするな。それは教訓で生きる上で必要なことだ。
安売りをした技術も善意も、価値がなくなる。
「……え、えっと……なら、これで……」
懐から出したのは、金貨と銀貨。……すげえな。ファンタジー的な物品を本物を始めてみた。電子マネーでしか決済されないからな。現代社会。
と、そこでリナが機器を使って硬貨をスキャンして首を横に振る。
『あー、ダメダメ。純度カスカス。メッキのほうがマシじゃない? 未知の鉱石って訳でもなさそう。多分そこら変の石ころレベル』
「えっ、こ、これ、全財産……」
『そういうときは、ここになさそうなものを出すの』
リナが親切に教える。ここで生きるならクズどもに渡り合うために処世術を覚えなければならない。
義体を持っていない生身の人間なぞ、どこぞの研究所に売れば貴重な検体だと相当な金になるからな。対応できるのだとしても、そこから話が広まれば終わり無く襲撃されていく。だからここで教えて学習してもらうのだ。
『高く売れそうなギリギリのラインを攻める。これ重要ね?』
「ギリギリのライン……」
『全く未知のものを知らないやつに出したら、それこそ価値がわからず捨てられるか逆に価値を知ってる奴に騙されて……気づいたら腑分けになって標本にされることだってあるの。だから、どういうものがあって、どういうものがないのか。そして、相手が信用できるなら、どの程度のものを出せばいいのか。それを考えろってことね?』
「え、えっと……うん」
『……旅してたんだよね? 良くやっていけたね? 商売人とかに騙されてない?』
「他の仲間がそういうのはしてくれて……」
「……甘やかすなよ仲間」
「……私はそういうことはするなって言われて……」
「……まあ、ここで覚えてけ」
まあ、旅も大変だと言ってたから余裕がないからこその適材適所だったんだろうが。
しかし、本当に放っておいたらヤバいところに顔を出してうっかり事件に巻き込まれそうだな。ある意味で保護ができてよかったと考えるべきか。
「えっと、それじゃあ……これでいい?」
そういうと、服の下からポーチだの何だのを出していく。どこにしまってたんだと思いつつも視線をそらして時間を待つ。
ゴトゴトと身につけていた道具を並べて……並べて……並べ……おいおい。音に目を向けると机の上が凄いことになっていた。
「なあ、どこにしまってたんだそんなに」
「えっと、色々と隠して……?」
「魔法か? 魔法使ったのか?」
「こんなので使わない……」
「俺から見たら手品にしか見えねえよ。というか、よくこんなに重量のあるのを隠してたな」
机の上いっぱいになった荷物。
古風な剣やら、良くわからん飲み物。硬そうな干し肉。他にも色々。
……流石に文化が違いすぎて、価値があるのかもわからん。リナに目配せをする。
『はいはーい。じゃ、査定するねー』
「お願いします……」
身が軽くなって落ち着かないのか、そわそわしているユーシャ。
まあ、俺が私物をまじまじと見るわけにも行かない。子供とは言え女の子だ。そのくらいの気遣いは出来ないとな。出来てないとか言われたら否定はできねえが
『……剣だの、鉄の鎧とか道具とか。まあ面白いんだけど趣味で作ってるレベル以下だねぇ……多分技術的な問題なんだろうけど。好事家なら面白がって買いそうだけど、それでも冗談みたいな値段だろうし』
「……うぅ」
『干し肉とかの保存食は……まあ売れないよねー。それだったら通販の食事を取るだろうし。珍しいけど買い手はいないかなぁ。調べたらめっちゃ塩分濃度高いから多分普通に食える人のほうが少ないんじゃない?』
「……あうう……」
「リナ、ユーシャがどんどん凹んでるぞ」
『だって事実だし仕方ないと思うんだけど。ん? これ何? 宝石?』
「あ、それは※※……えっと、魔法のエネルギーを込めれる石」
『……あ、ほんとだ。なんか良くわからない構成物質混じってる。んー、でもなぁ……利用できないなら意味ないしなぁ』
「す、すごい貴重なの……」
『それこそ、物の価値の違いだよね。私達にとっては使い道のない石ころだし。んー、他には……』
と、そこでリナの動きが止まる。この止まり方は相当に困惑した時だ。
そして俺を見る。表情は驚きとキラキラした目を向ける。
『ど、ドウズ! ドウズ!! これ! これ!!』
「どうした?」
「え、な、なにかあった……?」
『これ! これ何!?』
そうして、リナが見せつけたのは……
「……うおっ!? マジか!?」
『ユーシャちゃん! これ! これの説明!』
「え……? それ、花の種だけど……貰い物の」
『わーーーー! 凄い凄い!』
「普通の花だよ……?」
困惑するユーシャに俺から説明する。
「こういう、花みたいな自然物は重要な文化資材ってことで中央管理の温室で育てている……らしい。らしいってのは、相当な立場を持ってねえと見ることすら出来ねえからだ。そんで、咲いた花を見たことはあっても種を見たことがあるやつなんてそれこそいないだろう。つまり、そんなレベルの貴重な物なんだよ」
「え、ええ……ただの花の種なのに……」
「それが価値の違いってやつだ。しかし、どうするかね……」
「えっと、それじゃあダメ……?」
「ダメじゃねえが……」
『貴重すぎて価値どうつければいいのかなって感じなんだよね……』
……とはいえだ。
「なら、それで……手伝ってくれる? 魔王を探すのを」
「むしろ貰いすぎになるくらいだな。だから、まあ報酬分くらいは手伝って面倒を見てやるよ」
『じゃあ、それ以外は返すね。これだけで十分だしぶっちゃけ処分する手間を考えると邪魔だから』
「邪魔……」
ちょっと寂しそうな表情を浮かべてユーシャはしまっていく。
……どうやって仕舞うんだ? 気になってみていると、目の前が急にブラックアウトする。
「うおっ!? リナか!? 視界ジャックすんな!」
『スケベ。女の子の着替えを見るなんて』
「ちげえよ! どうやってしまうのか気になって……視界返せ! 真っ暗で見えねえだろうが!」
『ダメでーす! ほら今のうちに着替えて――』
「……ふ、あはは……」
ユーシャが思わず漏れ出たように笑う。
「どうした?」
「その、なんだか楽しかった時を思い出して……」
『……ん、まあ笑えるのはいいことだよ』
色々とあったんだろう。
どこまでこの子の言うことを信用していいのかもわからない。だが……
せめて、ユーシャが笑顔で笑えるようにしてやるのが俺たちにしてやれることか。
『それじゃあなにか美味しいものでも食べようか!』
「美味しいもの……」
「……ところで、早く視界返してくれ」
ユーシャがどんな顔をしてるのかも見れてねえんだけど。俺。