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義体ファイトクラブ

「おう! アルト! そっちが例のか?」

「ああ、そうだ。こっちの全身義体の方だ」

「ガハハ! 分かってるさ! そっちの小せえガキが出ても別の客しか満足しねえよ!」


 俺たちを見つけるなり近寄ってきて豪快に笑うのは、巨大な義体を身に着けた大男だ。

 工業用の、巨大な出力優先したモデル。まあ、あまり市街地区でも中央でも見ない特殊な義体だ。

 というか、デュエット兄の方はアルトって名前なのか。まあどうでもいいんだが。


「おい、詳しく説明してくれ」

「ああ。分かった。ここはファイトクラブ……まあ、義体同士の殴り合いが好きな奴らが集まって賭けをしながら殴り合いを見て楽しむって趣向の場所だ」

「それは説明でわかる。なんで俺が参加することになるんだ。あと、レッドの縄張りっていったが……こういう催しがあるのか?」


 ファイトクラブの需要自体は理解できる。というのも、中央はこういった興行を禁止しているからだ。娯楽に関しては制限が多い。

 確かリナに聞いた話では、利権やら殴り合いという行為自体が中央側にとって不都合だとかいろいろと言っていたが……まあ、要は中央様は快く思っていないから禁止ということだ。

 だからこそ、こういった中央の目の届かない場所で殴り合いの場があれば観客やらがやってくるのはわかる。


「殴り合いの好きな人間が紹介されてやってくる会員制の場所だ。ここは中央の企業に通じていてな……そこそこのお偉いさんもいる場所だ。だから公平性はある」

「八百長はないっていいたいのか?」

「はっはっは! おいおい、八百長? 馬鹿言っちゃいけねえ! 金目的ならさっさと中央共にチクられて終わりだ! そうじゃねえ、ここでは本物の殴り合いが楽しめる!」


 そういいながら大男が割り込んでくる。

 義体をバシバシと叩かれる。やめろ、微妙に痛いんだよ。


「だから、お前さんみたいな全身義体の人間がステージに上がれば……なんと、大盛り上がりだ!」

「はぁ? むしろ義体率の少ない人間が殴り合って楽しむもんじゃねえのか?」

「はは! だから面白いんじゃねえか! ……それにな、殴れる義体野郎ってのは少ねえんだ」


 そう、小声で言う大男にそういえばと俺も思い至る。

 ……普通に全身義体ならば、殴り合いなどはしない。武器を使い効率的に倒す。肉体のスペックを無理やり義体で底上げして、殴り合いなんて泥臭い行為は切り捨てる。

 そういう意味では、面白いというのも納得できる。


「……どのくらい拘束されるんだ?」

「おお、話が早いじゃねえか! そうだな……お前さんの要求はここを通るだけなんだろう?」

「ああ」

「なら、三試合だけ通行税には十分だ。ちょうど、空いているマッチがある。そこに捩じ込めば文句は出ねえ」

「適当だな。わざと負けたら?」

「わざと負けるなら、クズ鉄にするまでだ」


 それが出来ると凶暴な表情を浮かべる。

 ……まあ、流石にそれを許す場所でもないか。


「流石にそんなことはしねえよ。だが、全身義体なんかが出て文句は出ないのか?」

「ガハハ! ここの奴らは飢えてるからな。だからお前みたいな飛び入りを捩じ込んでも文句は出ねえよ」

「飢えてる?」

「ああ、そうさ。一方的な戦いなんてのは、日常で見飽きてる。ここで観客共が見たいのはな……血湧き肉躍る、殴り合いだ。その華を添えるやつなら、地下のネズミでも歓迎だ!」



 無骨な金網に囲まれた、地下というのに広いその空間に設置されたリング。そこに俺は立っていた。

 どこからともなく、実況をする声が聞こえてくる。


『さあ、地下コロシアムに飛び入りだ~! 過去に三度の飛び入りが参加しましたが、その結果は知ってのとおりでしょう! 慣れない殴り合いに勝てずに哀れ倒れ伏した者! ルールを犯して武器を使い袋叩きになった者! ノックアウトされて再起不能になったもの! 見どころはあれど、我々の期待を満たすようなファイターではありませんでした……飛び入りにはこのコロシアムに見合うファイターはいないのではないかとすら思っています。ですが、今回の飛び入りはひと味違います! なんと、全身義体です!』


 その言葉とともにリングが照らされ、周囲の観客からのブーイングが起きる。

 「引っ込め」「アンドロイド野郎」などと言われるが、まあその程度の野次だ。視線を向けると奥にはマクアをちゃんとデュエット兄が守っている。不安そうな表情をマクアはしているが、大丈夫だと伝えるために手を上げてアピールをする。


『おおっと!? 罵声にも余裕のアピールだ! 全身義体といえば、当然ながら冷血であり不合理を嫌う奴が多いですが……今回の飛び入りはどうやら面白そうです! 対するは、すでに三連勝をしているスモーキング選手! まとわりつくように戦うスタイルに、数々のファイターが苦しめられこのコロシアムの上位を陣取る人気選手! さあ、全身義体の挑戦者にスモーキングはどんなマジックを見せてくれるのか!?』

「……まあ、当然アウェーか」


 どこが文句は出ねえだよ。ブーイングの嵐じゃねえか。

 目の前には……ああ、格闘術を使うタイプの義体者だ。格闘術を使う奴はぱっと見てわかりやすい。義体と生体のバランスが独特なのだ。

 具体的に言えば、柔軟性の必要な関節部分だけを生体にしていたり普通ならば後回しにするような手の甲や、脛、人体の急所などを義体にしている。生物として弱い場所をカバーするやり方が多い。


「へえ、全身義体なんて始めてみたぜ」

「……まあ、よろしく頼む」

「ああ。俺はスモーキングだ。まあ、ぶっ壊れても恨まないでくれよ」


 そう言うと爽やかな笑みを浮かべて、リングの端へと下がっていく。

 俺もコーナーに下がる。円形状のリングを金網で囲っているだけに見えるが、触れた感じ金網は特殊な金属でできている。多分中央かどこかの企業の作った特注品だな。軽く握ってみたが俺の握力でもびくともしなかった。

 つまりは周囲に気を使う必要はないと。


『さて、武器の使用は禁止。義体を利用した兵装も不可です。ルールはシンプルに動けなくなるまで殴り合いです! さあ、それでは試合……開始!』


 その言葉とともに、スモーキングとやらは一瞬で距離を詰めていた。

 そして、握った拳を俺に叩きこむ。ガチンという、いい音がして上体が仰け反る。油断をしていた。拳闘か? 想像していたよりも数段上の足さばきだ。


『おおっと、クリーンヒットだぁ!! さすがスモーキング! 一瞬にして追い詰めていくぅ!』

「さあ、どうした全身義体くん! 鉄くずになっちまうぜ!」


 ――ああ。そうだ。


『さあ、全身義体の挑戦者は反撃できない! このままあっさりと終わってしまうのかー!?』


 ……忘れていた。

 ごちゃごちゃと、色々と積み重なって悩んでいたが……そうだ。俺は――


「ははっ、さあ、俺の――」

「うるせぇ! こっちは考え事をしてんだろうが!」


 本気の腰を入れたパンチを胴体に打ち込む。スモーキングというやつの身体が浮いて吹き飛んで天井の金網にぶち当たり、そのまま落下する。

 ああ、そうだ俺は考えて動くタイプなんかじゃねえ。ガラにもないことをして迷走していた。


「よし、次のやつ来いや!」

『な、なんということだあああああ! スモーキングがまさかの一発KO! まさか、このカウンターを狙っていたのか!? 想定外の番狂わせだあああああ!!』


 驚きと歓声で場内がざわつくが、俺には関係ない。

 ユーシャは強い。そして、ユーシャに不義理を重ねているかもしれない。そういう気持ちが、俺を鈍らせていた。

 だが、俺を助けた恩人を殺させるわけには行かない。なら俺がやることは、ユーシャに殺させないようにした上で殴り合えばいい。それだけだ。


(……我ながら単純だが、まあそれが俺だ)


 吹っ切れた俺は、ごちゃごちゃと面倒くさい考えを全て捨てて次の相手を待つのだった。

気づいたら、勇者娘はアンドロイドの夢を見るか? ~ファンタジー勇者がSF世界に異世界転移してきた話~が100ptになってました。嬉しい! ありがとうございます!


地獄のようなメンタルを削る忙しさに帰って寝る時間が増えてるので更新ペースなどが落ちていますが、ちゃんと書いていきますのでどうぞよろしくお願いいたします。

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