表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

40/44

意外な出会い

「マクア! しっかり捕まってろよ!」

「う、うん!」


 俺とマクアはまたしても必死に逃げていた。とはいえ、義体を全力稼働させているわけではないが。

 何故こんな羽目になっているのかといえば……


「どうなってんだ! あの廃棄地区の奴らは!」

「……こわい……」


 あの後、全員が死なない程度に痛めつけて聞き出そうとしたのだが……

 ボコボコにしたのに、何故か諦めずにすがりついてくる。ワラワラとやってくる増援。そして何よりも驚いたのは、俺がぶっ飛ばした奴らを他のレッドが追い剥ぎして最終的にどこかに連れ去られていったことだ。

「クソ! 昔見たゾンビパニック映画かよ!」


 痛みを感じてなさそうな様子に、おそらく違法薬物の服用をしているのだろうと当たりを付ける。電子ドラッグは中央に規制されているが、違法薬物に関しては規制されていない。

 というのも、義体率の高い人間は違法ドラッグを義体が毒物であると判断して解毒やらをしてしまうし、場合によっては経口摂取出来ない人間も多い。だからこそ、中央としては取り締まる必要がない。わざわざ義体率を下げてまで服用するような末期な人間は、中央からすぐに居なくなるしな。

 なるほど、レッドは薬物によるブーストを掛けた無法集団というわけか。


「クソ、どこまで逃げりゃいいんだ!」

「……うぅ」


 徐々に周囲が闇に染まっていく。夜の時間が来る。

 暗視機能は義体に付いているとはいえ、それでも土地勘のない場所で暗視機能だけで移動するというのはリスクがある。マクアも、夜の闇の中で逃げることは相当なストレスになるだろう。

 だが、引き返す事もできず、市街地区に戻る事もできない。さて、どうするべきか。おそらく疲労も飛んでいるだろうしこの様子であれば光に群がる虫のように他のジャンキー共が一緒に群がってくるだろう。


(全員ぶっ倒す……ってのはマクアが居なければだな。流石に守りながらってのは物量で挑まれると難しい)


 ああ、くそ。こういう時に魔法でも使えて一気に吹き飛ばせれば……と思ってしまうのも無理はない。

 ……いや、でも吹き飛ばされてもすぐに戻ってくるか。さっきのは無しだ。


「マクア! 大丈夫か!」

「う、うん……大丈夫……」


 必死に走る。走る。レッドとやらの縄張りは粗末なテントが並んでいるキャンプのようだ。ブルーに比べて文明力が低い。

 例えば、使っている道具はやけに新しいが、壊れたりしているものはそのまま使われている。来ている物もボロボロであり、身なりも薄汚れている。ブルーの縄張りは確かに廃棄地区だが、それでもまだ住人は市街地区に紛れてもごまかせる程度だ。しかしレッドはまさしく暴徒でしかない。

 市街地区の人間が想像する、獣に近いような廃棄地区の住人のイメージそのままだろう。


「まったく、ちょっと移動しただけでここまで変わるのか!」

「……レッドの中には入っちゃ駄目って……先生が行ってた」

「トッシュの奴がか? そりゃ、相当だな!」


 しかし、いつまで逃げればいいんだ。出口の見えない逃走劇ほど精神的にきついものはない。

 背後を見れば、土煙を上げながら大量のゾンビ……いや、レッドの住人共が追いかけてきている。うお、転けた奴がいても気にせず踏み潰しながら追いかけてくる。視覚的にも物理的にもインパクトが強すぎるだろ。



 ――走り続けて、そろそろ一時間近く経過するか。義体も負荷を超えないように制御しているが、既に警告が脳内に響いている。


「はぁ、マクア。調子はどうだ?」

「……大丈夫」


 そういうが、マクアの顔色は青くなっている。

 当たり前だ。抱えられて一時間以上義体に揺られながら走っているのだ。追われていることも相まって、調子を崩すに決まっている。

 身体の弱いマクアにこれ以上無理をさせるわけにはいかない。


「……ん?」


 背後を向くと、何故か追いかけてきていたはずのレッドが足を止めてぞろぞろと帰っていく。

 ……何だ? あそこまで執拗に追いかけてきて、そこで逃げ出す理由というのは……


「止まれ!」

「ん?」


 と、正面から声が聞こえる。足を止めると、目の前には巨大な城砦のような壁。廃棄地区にそんな壁があるとは知らなかったので思わず驚いて見上げる。

 すると、誰かがこちらへと歩いて来る。その姿が目視できる距離になり俺は思わず驚いて声を上げた。


「なに? 義体だと?」

「誰が口を開いていいと言った! そこに止まれ! 指示があるまで動くな!」


 威圧的に持っている銃をこちらへ構えてそう告げる。まあ乱暴だが中央に入る検閲に比べれば随分と紳士的だ。選民意識と警戒心の塊みたいな奴らだからな。

 脚を止めて観察する。目の前の義体の男が持っている銃は……見覚えがあるな。市街地区でもそこそこ流行っている安価で丈夫な銃だが……廃棄地区でまで流行っているとは聞いた覚えはないな。

 つまり、コイツは市外地区から廃棄地区に持ち込んでいると。……色々と考えられる。同業者だの、密輸業者だの、場合によっては中央から廃棄地区の実地調査という名の監視員という可能性もある。

 まあ、つまりは一旦は大人しくしておくべきだろう。


「……」

(大丈夫だマクア。大人しくしとけ。俺が守ってやるから)

「……ん」


 そういうと俺にしがみついて大人しくなる。男が懐から取り出したのは……小型の探査装置か。

 ほんの数十秒でボディチェックまで済ますことの出来るらしい。とはいえ、戦闘などでは時間がかかりすぎるおまけに一般では高価なわりに使うことはないので普及していない。

 ……尚更わからん。なんでそんな装備を廃棄地区の奴が? 冗談であげた中央からの実地調査なのか?


「……ふむ。全身義体? まあいい。確認したが、違法物資は持っていないようだな。レッドの領地からやって来たということは、亡命か? それとも何かしらのトラブルか? だが、分かっているのか?」

「……?」

「何だその顔は……まさか本当に分かってないのか? ここからは市外地区の管理下に置かれている廃棄地区の特区であり、レッドからの亡命者、逃亡者の受け入れは拒否している。本来であればレッドの地区からやって来た人間は問答無用で射殺してもいいことになっている」

「なら、何で警告してくれたんだ?」


 思わず聞いてしまうが、その質問に少し悩んだような表情をして答える男。


「……レッドからやって来たにしては身なりはマシで、子供を連れているからな。流石にお前一人なら問答無用で対処しているが子供がいるのであれば話は別だ」

「そりゃすまねえな。ありがとうよ」

「それよりも、何でレッドからやって来た。こちらは大騒ぎだったぞ。ついにレッドの愚か者共が戦力差も理解できずに乗り込んでこようとしたんじゃないかとな。おかげでイエローに住んでいるハンターまで総出だ」

「……イエロー? ここがイエローの縄張りなのか?」


 その言葉に、本気でため息を吐いて空を仰ぐ警備の男。


「……ソレすらも理解してないのか? 何なんだお前は」

「ちょっとトラブルでな。追いかけられて逃げてきたんだよ」

「全身義体の人間がか? どんなトラブルだ。中央と揉めてるんじゃないだろうな」

「いいや、ハンターの『オーガ』にサシで勝てる化け物に追いかけられてるだけだ」

「……冗談にしては面白いな。ああ、いうなよ。本気でも嘘でも面倒事はゴメンだ」


 至極真っ当な事を言いながら銃口をこちらに向ける。

 ……まあ、撃つ気はないのだろうが。背後の壁からは他の住人らしき奴らも出てくる。


「さて、ここでお前たちには選択肢がある。このまま真っ直ぐ回れ右をしてレッドの領地に戻る」

「悪いがそりゃ無理だな」


 背後を見ると、息を潜めているだけでまだハイエナのようなレッドの住人が隠れているのがセンサーでわかる。

 ……本当にしつこいな。


「……次の選択肢は、ここで射殺されること。ルールはルールでありそれを曲げることは出来ない」

「他には?」

「最後の選択肢だが……ここであらゆる権利、私財を譲渡した上でイエローの管理化になることで保護をすること」

「はぁ?」

「つまりだ。すべてを投げ捨ててイエローの人間になれば受け入れるというわけだ」


 そういう男だが、どの選択肢でもいいという顔をしている。

 ……なるほど。イエローの領地とやらは、すでに中央か……もしくは企業から色々と手を回されているらしいな。

 イエローの領地というが、どこぞの誰かによって管理される家畜になれということだろう。


(……さて、どうするか)


 最後の選択肢はない。当然ながら武力も没収されるだろう。劣悪な義体に換装されるのがオチだ。

 戻った所で意味はないだろう。ユーシャに感知されれば終わりだ。……ユーシャは大丈夫だろうか。ふとそんな心配をしてしまう。

 最後の抵抗に大暴れ……というのは……


「……あー、ソッチのほうがいいか?」


 ゴキゴキと肩を鳴らすと、目の前の男は怯んだように下がる。


「変な動きをするな! これが最後の警告だぞ!」

(さて、どの程度行けるか……マクアを守りながらだからな)

 

 案はある。まあ、リスキーだが。

 おそらくここには廃棄地区の人間だけでなく、市街地区か中央から出向している人間が居るはずだ。ソイツを人質にすれば光明は見える。

 こんな場所で死にたいと思う奴は居ないだろう。どの道詰んでいるのならば、1%でも生存率の上がる選択肢を取るしかない。

 そして、俺は義体を起動。全身の感覚が沸き立つ。俺の気配を感じて男も引き金を引こうと――


「おーい! 待ってくれー!!」

「なっ、なんだ!?」

「あ?」


 いきなり止める声。

 そちらを見て……思わず驚いた。ああ、そういえば居たな。


「……よう、久しぶりだな」

「ああ! 久々だな! まあ、とりあえずここは俺に免じて銃をおろして……あんたも、頼むから大人しくしてくれ」


 そうやって諌めるのは……かつて俺を襲撃してきた賞金首ハンター。デュエットの片割れの……兄の方だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ