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救う者、奪う者

デスマが終わりお正月も一段落したので更新です

ある程度ペースを戻していこうと思いますので、今年もよろしくお願いいたします

「――ドウズ」

「よう、ユーシャ」


 手で剣を受け止める。以前までなら両断されていたかも知れないが、今のユーシャの剣ならば俺でも受け止められる。

 おそらく、追い詰めているうちに自然と自分の身体を気遣ったのだろう。まあ、それはいい。


「なんで……そっちにいるの」

「まだマクアが魔王だと確証が取れたわけじゃねえ。なら、危害を加えさせるわけには行かねえだろ」


 剣を引いて、怒りの表情を浮かべているユーシャ。

 もしも俺が生体なら、頬に汗が滴っていただろう。なにせ、ユーシャは俺よりも強いのだ。そして、そんな少女が本気でキレているのだ。

 ここでの対応次第では……


「ならどいて。そいつは魔王の魔力を感じるの。だから殺す」

「おい、物騒だな。殺すなんて軽々しく言うな」

「殺すよ」


 その言葉とともに、怒気と殺気が放たれ俺の後ろでマクアがビクリと体を縮こまる。

 おそらく、色々と辛い目にはあってきただろう。それでも、ここまで本気の殺意を向けられる経験はそうそうない。怯えて当然だ。


「ユーシャ、怯えてるから少し落ち着いてくれ」

「私は冷静だよ?」


 そういうユーシャの目は完全に据わっている。ああいう目は見たことがある。復讐を考えている人間が、覚悟を決めた目だ。


「まあ、待ってくれ。とりあえず事情をだな……」

「ドウズ。ソレは魔王かもしれない。私の生まれ育った世界で、全てを奪った張本人なのかもしれない。なのに、どうして見逃せるの?」

「……いや、もしかしたら別人かもしれねえだろ。俺が見てる限りで魔王らしい素振りはなかった」

「そんなに濃い魔力を纏っていて? それで人違いなんてない。この世界の人間を見て誰一人して魔力を感知できないし纏っていない中で、それができる人間がいるなら魔王しかいない」


 ……もう既にユーシャは確定しているのだろう。

 だが、俺には嘘に見えない。それに何よりだ……


「この子にも、こっちの世界で居場所がある」

「そう。それで?」

「だから理不尽に奪うのは待ってほしいんだよ。時間はあるし、逃げる場所なんてないんだ。だから、ユーシャ。この子を……」

「――もういい」


 怒りも、悲しみも。あらゆる表情から感情が抜け落ち無表情になるユーシャ。

 ――ああ。


「ドウズが何を考えてるのかはわからない。そっちが正しいのかも知れない。その子はもしかしたら魔王じゃないのかもしれない」


 呼吸を整える音が聞こえる。それは、ユーシャが無理をしないようにと自ら制限していたリミッターを外しているのだろう。

 つまりここからは……


「だけども、魔王は殺す。魔王に関わるものはすべて殺す。それは私の意味で、意義。それは、私の使命。話し合いなんてものはない。沢山の人が死んだ。沢山の人が殺された」


 締まっていたはずの剣を抜く。ユーシャの周りで魔力とやらが俺でも感じるほどに濃密に渦巻いている。まるで、台風のようだ。

 ああ、これは本気なのだ。


「それがたとえドウズでも関係ない。ねえ、手加減は出来ないから――死んだらごめんね」

「――づあっ!!」


 その一言の後、目を離していないのに一瞬で魔法のように俺のすぐ目の前に移動したユーシャ。もうすでに剣を構えて抜刀する寸前だ。

 俺が対応できたのは、今まで積み重ねた時間のおかげだ。一緒に特訓をしてきて、短くない交流を重ねてきたユーシャがどう動くのか、どういう事をするのかを多少でも理解していたから動けた。

 ユーシャの動きを認識する前に予感だけでマクアを抱えて必死に地面を蹴って飛び退く。先程まで俺とマクアの居た空間は横薙ぎにされて、あと1秒でも逃げるのが遅れていたら真っ二つになっていただろう。

 ――ああ、そうだ。これが本気のユーシャだ。理不尽なまでの身体能力から繰り出される全てが必殺の、怪物。


「……ドウズ、凄いね。ちゃんと躱せるんだ。これもいっぱい特訓をしたからかな?」


 素直に感心した口調でそういうユーシャ。


「ああ、そうだろうな。先生のお前との特訓が無けりゃ、今頃真っ二つだ」

「そう」


 短い一言。地面のえぐれる音。それを聞いた瞬間に俺は恥も外聞もなく背中を向けて逃げ出す。ごちゃごちゃとした廃棄地区の建物を義体のパワーを全力にして逃げる。リミッターも解除。神経系がつながっているせいで意味のわからない激痛が走るが、それを無視する。

 背後からは轟音。しかし、それに意識を向ける余裕はない。ユーシャは、俺よりも遥かに格上の実力者なのだ。

 油断すれば死ぬ。油断しなくても死ぬ。一対一で、なんとかやり過ごせるレベルだというのに、マクアを連れている状態では無理だ。

 だからこそ、俺に出来ることは逃げること。幸いにも、ユーシャには時間制限がある。それは、俺を助ける時に負った傷だ。心が痛いが、今だけはこの状況に感謝するしかない。


「――シッ」

「うおおっ!?」


 脚の装甲が切られて、飛んでいく。ギリギリだった。あと一歩踏み込まれていたら間違いなく脚が切り飛ばされていた。


「……?」

「クソ! もうちょっと優しくしてくれ!」

「それは無理」


 そう答えて、更に追撃をされる。

 ユーシャは戦闘において分かりやすいタイプだ。実力に裏打ちされた、シンプルな戦い方であり小手先の技術などに頼らない。

 だからこそ、生半可な方法では切り崩せない。俺が少しでも気を抜けば戦闘不能にされるのは分かりきっている。

 だから走る。走る。走る。


「けほっ……待て」

「待たねえよ!」

「……ど、ドウズ」

「マクア! 舌を噛むから黙ってろ! 」


 そういいながら追撃の手は止まらず背後では、剣戟によって破壊される音や

 生死の境で、感覚が鋭敏になる。

 魔力というものを感じる。空気が動くと、魔力も動く。ユーシャはおそらく、魔力を取り入れて動く事を呼吸同然のようにしている。それが俺をギリギリで回避させてくれる。

 思わず苦笑しそうになる。命がけの状況になって、ようやく魔力を感じることが出来始めているのだから。まあ、当然ながらそんな余裕はない。


「……ごほっ、ゼェ……」

(ぐっ……くぅ!)


 思わず足を止めて心配したくなる咳が聞こえてくる。

 だが、今のユーシャは間違いなく俺が足を止めれば自分の体を気遣う事なくこちらに攻撃してくるだろう。

 だから、俺はそのまま廃棄地区の薄汚れた町並みをひたすらにかけていく。現在地など分かっては居ないが、それでも足を止めてユーシャが背後にいるかも知れないという恐怖がある。だから必死に気配がなくなるまで走り続けた。



 ――警告音で頭痛がするほど走って、ようやく足を止める。背後からユーシャの追いかけてくる気配はない。


(……まあ、流石にまだ長い時間の戦闘やら激しい運動は無理だからな)


 無理をするように見えて、しっかりと判断が出来るユーシャのことだ。俺たちの追跡で無理をしては本末転倒だと諦めて出直すだろう。

 息を吐いてから、周囲を見渡す……ここも廃棄地区だろうが見覚えはないな。


「……なあ、マクア。ここはどこだかわかるか?」

「えっと……その……ご、ごめんなさい。わからない……」


 まあ、それはそうか。この子も保護されて庇護の中で生きてきた。こうして廃棄地区を走り回るような子でもないだろう。


「ああ、いい。俺もわからないから聞いただけだ。俺たちは迷子だな」


 そう言って乱暴に頭を撫でる。

 ……ふと、背後から気配を感じる。だが、それはユーシャとは違うものだ。とはいえ、友好的な気配はない。周囲も徐々に日が落ちてきているのに、声もかけない不躾なやつなら乱暴な対応でもいいだろう。


「――ふん」

「あぎゃっ!」

「おっと、悪いな。手があたった」


 軽く背後に拳を振るうと悲鳴を上げて鉄パイプを持った男が吹き飛ばされる。廃棄地区に住んでいる住人ようだが、手に持っている物騒なものは穏便な挨拶に来たようには見えない。


「ど、ドウズ……あれ……」

「ん? ……ああ、なるほど」


 見ればその男は赤いスカーフのようなものを巻いている。

 つまり移動するうちに……レッドの縄張りに張り込んでしまったというわけか。確か、トッシュから聞いた感じでは奪い合い、弱肉強食なのが特徴だったはずだ。

 そう思考を向けているとぞろぞろと周囲から、赤い目印を身に着けた廃棄地区の住人たちが手に粗末な武器を持って集まってくる。

 ――まあ、迷子になった子供連れの義体を見たらこうもなるか。


「まあ、ユーシャと戦うよりはよっぽどマシだな。マクア、ちょっとだけ大人しくしてろよ?」

「……うん」


 そして、俺は肩を慣らして身の程知らずに挑んでくるバカ共を蹴散らすために一歩踏み出すのだった。

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