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昨日の友は、今日の敵

 事務所を飛び出て走り続ける。

 そして俺は自分を罵倒する、


「クソっ! 俺は馬鹿か!」


 いいや、馬鹿というよりも愚か者だ。

 ユーシャのことを馬鹿なガキだと思ってたのか? あんな俺の情けない誤魔化し方を見て、ごまかせていたとでも思っていたのか? 見ぬ振りをしたのは、なんてことはない。ユーシャの優しさだろう。

 だが、それでも魔王が関わっているかも知れないと気づいたユーシャは止まれなかったのだろう。俺がなにかの意図を持っているとしてもだ。


「ああ! 畜生! 前に場所を伝えたのは最悪だ!」


 いずれ教会へ遊びに連れて行くかも知れないと、どこにあるかざっくりと伝えていたのが裏目に出てしまった。

 だが、急げばユーシャに追いつくはずだ。以前のユーシャなら全力で走っていたら追いつけないだろうが、今のユーシャは身体に負荷をかけないようにと激しい運動に関しては制限をかけている。


(ロクヨウに聞いたが、表面上は大丈夫そうだが本調子には程遠い)


 無理を押せば一気に体調が悪くなる。万全を期すために、魔王退治というのなら小さい場所での無理はしないはずだ。

 ――だが、それもあくまでも希望的観測でしかない。


「クソ! リナもメールだけ送って連絡はねえからっ――いや、違うな。落ち着け俺」


 頭に血が上っている。自分で言った言葉を口に出して否定する。

 リナが居たとしても、手伝わせることじゃない。これは契約外のことで、俺のエゴでしかない。ただ、偶然すれ違っただけの縁だからだ。

 もしかしたら魔王かもしれない人間を見つけて、それをユーシャに教える。これは契約内だ。

 ――そこにどんな事情があっても関係はない。だから、俺が助けられた一人で……なんてことはない普通の子供にしか見えないことも、俺以外には関係ないのだ


(だから、俺がやるべきは一つだけだ)


 市街地区から廃棄地区への出入り口にたどり着き、念の為に近くに居た検閲をしているアンドロイドを呼び止める。


「なあ、そこのあんた!」

「はい、どうされました?」

「ああ、なんだ……このくらいの背の女の子は通らなかったか? 義体率は低い子なんだが」

「――はい、通りましたよ。4分34秒前ですね。市街地区のロクヨウ様より身元の保証及びデータの提出がされていますが、なにか問題がありましたでしょうか?」

「いや、それでいい。助かる」


 検閲のアンドロイドは、ちょっとフリーズしてから返答をする。どうやら開示してもいい情報らしい。

 ロクヨウの奴か……恐らく、こういうときのために頼んでいたのだろう。ロクヨウも身元の保証だのくらいは融通してくれる。……くそ、ただの子供だと思っていた。確かに色々とぶち飛んではいるが、それでもただ実力が高いだけだと。

 ――だが、異世界での修羅場を越えて様々な苦難を前に乗り越えてきた戦士なのだ。俺の認識が甘かった。もっと向き合うべきで、もっと俺はあの子を高く見るべきだった。


「問題と言うほどじゃない。家出みたいなもんだ。じゃあ、ありがとうな。頑張ってくれ」

「いえ、それではお気をつけて」


 感謝してから検閲を通り抜け走る。廃棄地区に入ったら、後はまっすぐに走っていけばいい。

 ユーシャは教会の場所は詳しくわかっていないはずだ。だから……


「……うおっ!?」


 ドオンと、爆発音がして煙が上がり周囲の人間が何事かとそちらを見ている。

 検閲からは特にアクションはない。廃棄地区の騒動などは関与外だからだ。そういう意味では横やりがない分楽か。

 そして……爆発の方向は間違いない。教会の近くだ。そこは覚えがある。

 マクアと俺が話をしたパーツの廃棄場だ。


「クソっ! なんですぐにわかったんだ……? いや、そうだ……魔力だ」


 俺が見てもわかるレベルの魔力溜まりとかやらがマクアの上に出来ていたのだ。

 それならば、魔力を視認出来るユーシャにとっては分かりやすい程の目印になっているだろう。

 真っ直ぐに辿っていけばいいのだから、さぞかし楽な追跡劇だったのだろう。


「間に合ってくれ……!」


 最悪の想定が脳裏によぎる。だが、諦めるのは早い。俺は、最悪が起きる前に間に合うように……必死に走るのだった。



「はぁ……はぁ……けほっ……うぅ……」


 マクアは走っていた。

 最近はとてもマクアは楽しかった。ある日、よく分からないパーツみたいなものを拾ったらそれが全身義体の人間でしかも生きていたのだから。

 その人はいろいろな物をマクアに与えてくれた。教会での居場所、楽しい時間。そして、頼りになってくれるということ。どれもこれも持っていなかったもので、マクアの気持ちを暖かくしてくれた。

 自分はとても恵まれていると思った。こちらに来て、先生に助けられてから幸運など存在しないと思ったからだ。

 上手く喋ることができなくなり、教会でも馴染むことが出来ず、一人で必死に捨てられないようにパーツを探すだけ。身体の弱い自分はそれしか出来なかった。だけども、見つけた全身義体の人のおかげでマクアは居場所ができて、楽しいと思える日が増えていった。


(だから……駄目だったのかな……)


 自分は幸運になってはいけなかったんじゃないか。そんな風に考えながら、必死に走る。

 近くで爆発が起きて吹き飛ばされる。なんで爆発したのかはマクアには理解できないが、それが追いかけてきている彼女のせいだと理解はできた。

 何故、追われているのかは分からない。いつものように教会から出て、廃棄パーツを探すために廃棄場を見て回りながら自分でも持って帰れそうな物を集めていた。

 その時、いきなり息を切らせた女の子が走ってきたのだ。マクアには見覚えのない子だったので、まさか迷子かと思い声をかけようとした。

 しかし――


「……※※※」


 マクアの目の前に居た女の子は、そう一言いうと手をかざし……何かを感じて下がったときにマクアは衝撃とともに吹き飛ばされてしまった。

 混乱するマクアは、理解できないままにその爆発を引き起こしたのが目の前の女の子だと気づいて慌てて逃げた。痛みは感じていたが、命の危機を前にはそれを気にする余裕はない。

 そこからずっとずっと追いかけられ続けていた。

 必死に逃げ続けるが、追跡は止まらず爆発を必死に回避する。避けると言うよりも、必死に逃げているから偶然当たっていないだけだ。

 クズ山が崩れ落ち、逃げ込んだ細い路地は破壊されていく。徐々に爆発や衝撃音は減っていくが、それでも逃げ切れない。

 恐怖に泣きそうになりながら必死にマクアは逃げる。


「※※※……※※※」


 理解できない言葉に、尚更恐怖を掻き立てられる。

 マクアは、既に自分が配置地区のどの場所に居るかも分からない。

 誰かに助けを求めることも出来ずに、泣きそうになりながら走り続ける。喋ることが苦手で、誰かに頼る事が出来ないマクアにとっては地獄のような逃走劇。

 徐々に逃げ道がなくなっていき、袋小路になっていく。ゆっくりと歩きながら追いかけてくる女の子は、もはやマクアからは悪魔や魔王にすら見える。

 そこで、足がもつれ転けてしまう。ここまで保っていたのが奇跡的なのだ。振り向くと、悪鬼のような女の子が


「……たす……けて」


 息も切れぎれになりながら、小さく女の子へと懇願する。

 しかし、その恨みの籠もった目を向ける彼女には決して届かない。自分が何をしたのだろうかという気持ちを抱え、逃げようと見渡して袋小路になっていることに気づく。


「※※※※※、※※※※※※※※※※」


 ああ、わたしはここで殺されるんだ。

 その少女が剣を抜いて振りかぶった時に理解をする。だから――


「うぅ……うううう……」


 少女に、頼れるものは……一つだけだった。


「……た……けて……」


 マクアは理解していた。呼んでも助けになんて来てくれない。頼っていいなんて行ってくれた。優しくしてくれた。それでも、ここにまで助けに来てくれるとは思えなかった

 それでも――それでも、頼るものはそれしかなくて。

 あの風邪を引いた時に、看病をしてくれた優しさを思い出して叫んだ。


「――たすけてっ! ドウズ!」


 ずっと、ずっと出せなかった大きな声を振り絞って。

 だが、無情に振りかぶった少女の剣がマクアに振り下ろされて。

 ああ、駄目だと怖くて目を瞑って……


「――ああ、分かった」


 ――目を閉じた真っ黒な闇の中で、マクアの耳にここに居るはずのない……聞き覚えのある声が聞こえた。

 居るはずのない人の声。目を開ける……そこには。


「あ……ああ……」


 前に来たときと見た目は全然変わらない。

 全身義体の、優しくて、ちょっとうっかり屋なところのある彼が――


「よう、間に合ったか?」

「――うん」


 そこに――ドウズが剣を受け止めていた。

年末に向けてデスマーチ中!

頑張って書きます! 投下時間は未定ですね!


実家に帰省の準備やら色々あるので本当に見通しがたたず……申し訳ありません

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