魔法というもの、この世界の魔法
ちょっと時間がズレました
「……急に興味が出たの?」
訝しげなユーシャ。まあ、魔法が使えないと効いて興味を失ったからな。いきなり興味が出たと言っても怪しまれるだろう。
とはいえ、納得させられそうな理由は思いついている。
「まあ、廃棄地区で俺が魔力溜まりに突っ込んだ話はしたろ? その時に、この世界にこんな魔力溜まりみたいなのがゴロゴロ転がってるって気づいたら気になってな。またガキの前でぶっ倒れるような無様は晒したくねえ」
「……ふふ」
「笑うなよ。びっくりしたんだぞアレは」
実際、マクアの上に浮かんでいたフラッシュバンのような魔力の塊に尻もちを付いたのは純粋な驚きからだ。
まあ、魔力なんて言うよくわからないものを感知しているせいもあるんだろうが……義体になってから、生体の反射的な感覚はカットされてきたのでどうにも慣れないというのは事実だ。
「ごめんね、ちょっと面白かった。えっと、私も先生からの受け売りだから詳しい話はできないよ?」
「いいさ。俺も学はねえんだ。むしろユーシャのほうが頭はいいだろ」
「そんなことはないと思うけど……」
そういってから、コホンと咳払い。俺も姿勢を正す。
事務所で少女から正座で何かを教わっている全身義体。知らないやつに写真とかを取られたら相当笑われ者にされるだろうな……となんとなく思いながら話を聞く。
「まず、魔法は魔力というものを使うの」
「……それは知ってるな」
「これは私の世界の話なんだけど、生きてるものはみんな魔力を吸収してるの。例えば、木や草でも魔力を取り込んでる。空気と同じで、絶対にそこにあるもの」
「ほう、それは初耳だな。なら、木が魔法を使ったりもするのか?」
「うん。魔力が貯まると、変質するから木々が意思を持って魔法を使ったりもする。だから、定期的に森は伐採して手を入れないと人も獣も踏み込めない死の森になるの」
「……やべえな異世界」
そこまで言ってから、ネズミでハザードを起こしたりした俺達の世界も変わらないかと気づく。
まあ、いうなれば人様の住みやすい世界を作るための手段だからな。
「だから、こっちの世界に来て驚いたの。魔力が溢れてるから……えっと、なんだろう? こっちの世界で言うと、空気が綺麗で澄み切ってて空も晴れ渡ってるような状態?」
「そりゃすげえな!」
「多分だけど、こっちの世界は身体を改造したり、空気が汚れてるのに合わせて進化したせいで魔力を取り入れる能力がなくなってるんだと思う。だから消費されるはずの魔力が消費されないでドンドン溜まっていって、それが凄い濃くなってるんじゃないかなって」
「ふむ」
「魔力を感じるには、頭の中にある※※※を冴え渡らせないと駄目なの。だからそれがないんじゃないかな」
「……それは変換出来ねえか」
何かしらの異世界の言葉を言おうとして、変換出来なかったらしく聞こえなかった。
まあ、なんとなく異世界特有の器官みたいなのがあるのかもしれない。だが、それよりも前に気になる疑問があった。
「……そもそも、魔力ってのはなんだ?」
「え? ……魔力は魔力だよ?」
「いや、それがどうやって生まれたとか、何の力なのかとか、なんで俺たちの世界にも存在するのかとか……」
「…………えっと?」
「ああ、いや。すまん。なんでもない」
完全にこれは学者とかに聞く話だ。例えば俺がいきなりこの世界の成り立ちやら義体が存在するようになった経緯を聞かれても答えれない。
まあ、とりあえずはそういう物が存在すると考えておくとしよう。
「なんとなくは分かった。つまり、こっちの世界じゃ魔法を使わないからそっちから見れば異様な量の魔力が漂っているわけだ」
「私も専門家じゃないから詳しくは言えないけど、そう思ってる」
「それで、その魔力を使う魔法っていうのはどういう技術なんだ? 俺にもわかるように説明できるか?」
「うーん……魔法を使うときは※※※※で……んん? ※※※……※※※※※……」
ユーシャは悩みながら言葉を重ねているが、ほとんどが聞き取れない言語になっている。やはりというか、魔法関連はこっちの世界に該当する言葉がないらしい。
しかし、悩みながら切り口を変えたらしく
「えっと、ドウズみたいな義体の人が使ってる銃とか武器を使ってる感じ。それにも使い方があるよね? ちょっと手順が複雑になってるだけで感覚的には一緒」
「……一緒なのかねぇ?」
「うん。だってあれはドウズ達が自分たちの意思で使ってるんだよね? それと同じだと思う」
「……ああ、なるほど。確かに認証だの義体の最適化だのしてるから無意識で使ってる武器も多いな。」
そう考えれば、義体化をした上で専用の知識を持たないと使えない武器だって数多く存在している。
つまり魔法も俺たちの兵装も同じ。独自に発展した技術みたいなもんか。
「そう考えると、俺が魔法を使えないのも納得できるな」
「魔力がわかるなら使えるんだけど……言葉の違いもあるし、感覚的な使い方なら出来るかも知れないけど私達みたいにちゃんと魔法として使うのは難しいと思う」
「そうか。まあ、使ってみたかったが……」
それに関しては諦めるとするか。
いや、それよりもだ。
「まあ、魔法についてはわかった。こっちの世界の人間は魔力を感じることが出来ない。だから、魔法を見ることも知ることもないってことだよな」
「うん。ただ、ドウズの場合は私が回復魔法を使っちゃったから……多分、私の世界の人と同じ身体になったんだと思う。だから、魔力を感じれる体質になったのかも」
「あー、まあそうかもな。レントゲンで見たら俺の体の中は相当ヤバかったし」
神経が張り巡らされて蜘蛛の巣みたいになってたしな。どうもナノマシンが再生する俺の身体に適合してたとかロクヨウは言っていたが……技師でも医者でもない俺に詳しいことはわからない。
と、申し訳無さそうな表情になっているユーシャに気づいた。
「あー、なんだ。気にするな。元は俺が悪いんだし、治してくれた気持ちは嬉しいからな。それよりも魔力とやらについてだ」
「ん? 何か聞きたいことがあるの?」
「魔力が集まりやすい。集まりにくい条件ってあるのか?」
この疑問の答え次第では、少々話が変わるかも知れない。
なにせ魔力溜まりとやらが頻発するのだ。偶然の産物……なんてこともあるだろう。
「えっとね。人がいると魔力溜まりは出来にくいの」
「……そうなのか?」
「うん。人は魔力を吸収してるんから、溜まらないの。こっちの世界の人でもね、なんだろう……障害物にぶつかるみたいな感じで魔力が散らばっていってる」
「……魔力の絶縁体みたいになってるのか」
「ぜつえんたい?」
電気を通しにくい物体のことをそういうのだと教えて、魔力に対して通りにくいから散っていくんじゃないかというとユーシャは同意した。
「うん、そんな感じ。本当に魔力に対する適正みたいなのがこっちの世界の人にはないし、生きて動くから溜まらないんだと思う」
「……ああ、だから部屋の隅とかにあるのか」
「そうそう。もしも人の上に魔力溜まりができてるならそれは誰かが魔法を使った形跡か……」
そして、スッと表情を消す。
積年の恨みを持つ敵を見る目で、その言葉をつぶやく。
「私以外の魔法を使える存在。魔王」
「……なるほど、ありがとうな」
「ううん、これで良かった?」
「ああ、知りたいことはわかった。どうする? もう遅いし飯にでもするか?」
「うん」
感謝を伝えてから、一緒に飯を食べる。
ネズミ肉を食べているユーシャは、先程までの寒気のするような表情は鳴りを潜めて年相応の子供らしい表情になる。
食事を終えて、眠りにつく前に考えることがある。
――魔力溜まりは人の上には出来ない……か。
(つまりだ……あのマクアの上にあった魔力溜まり。アレは間違いなく……)
魔法に関係している。魔王であるのかもしれない。
……その事実が重くのしかかる。
(契約的には、この事をちゃんとユーシャに伝えて……その上で判断すべきなんだろうが)
ただ、それでも俺はあの表情を見てしまった。
冷たい、復讐者としての目。俺たちと楽しくしていたときとは全く違う、勇者としての目。
魔王を目の前にして事情を鑑みて、止まれるだろうか? 俺は止まれないだろうと思っている。
(俺が結論を出せるまで秘密にしておくかね……)
ユーシャには悪いと思う。だが、しばらくは争いだの殺し合いだのは散々だ。知ってる奴らが殺し合うなんてのは考えたくもない。
そうして俺も意識を落とす。以前よりも眠気などを感じることが多くなった。恐らく生体に近くなっているからなのだろう。
――ああ、隠し事ってのはいつだって嫌なもんだな。
「うごあっ!?」
――いきなり、頭痛が走って跳ね起きる。
何だ!? 敵襲か!? ガラクのアホが蘇って襲ってきたか!? 脳内が混乱していると、メールが来ていた。
「なんだ? ショートメール?」
メールボックスを介さない、親しい人間にだけ送れるメールで……
いや、この悪戯は……思い出した! リナが昔作ったスタンガンメールだ! 独自のプログラムで意図的に義体を誤作動させて、まるでスタンガンを使われたかのような痛みを与えるイタズラだ。
ショートとスタンガンを掛けてるなんてくだらないことを言ってたな……と思い内容を見て、今度は本気で跳ね起きた。
「――ユーシャが、廃棄地区に行っただと!?」
喧嘩をして連絡を絶っているリナがそれでも伝えてきてくれた事は、俺の平和を願う気持ちと相反するように非情な現実だった。
忙しさで書く余裕もなくて遅れて申し訳ありません
とはいえ、書ける余裕が出ればガリガリと書けますので、見捨てずに読んでくだされば幸いです




