魔王と疑惑と決断と
ちょっと短くなりました
「ありがとうございましたドウズさん……どうされました? 何やら難しい顔をして」
「ああ、いやなんでもない。マクアに俺とお前が間違えられたのがショックでな」
「ははは、手厳しいことをいいますね」
そういいながら、他の汚れたガキ達が俺によじ登ったり叩いていくる。
しかし、マクアの件についてどうしても悩んでしまって反応できずつまらなそうな顔で……
「いっでえ! おい誰だ! 俺の頭をぶっ叩いたのは!」
「きゃー! ドウズが怒ったー!」
「逃げろー!」
きゃあきゃあいいながら逃げていくガキ共。
ああ、くそ。こういう殴られたときの痛みも無意識でカット出来なくなったので痛いんだよな。ガキ共も結構遠慮なく叩いてくるからなおさらだ。
とりあえず説教をするために追い回して捕まえて、お仕置きも兼ねて振り回してやる。楽しそうにしていたが、その後もうするなよというとはーいと納得した。
「はぁ……んで、なんだったか……」
……完全に悩んでいた内容が吹っ飛んでしまった。
いや、自分でもシンプルな頭をしていると思うが、すばしっこいガキを捕まえるのに本気を出してたら思わず熱中してしまったのが悪い。
「あはは、子供と遊んで悩みがなくなりましたか?」
「なくなったんじゃなくて忘れたんだよ。クソ、ガキ共……遠慮なしでしやがって……」
「マクアの事を見ていてくださってありがとうございます。見て分かると思いますが、そこそこにここの設備は上等なものですので、いない間に不届き者がいた場合には恐ろしいことになりますからね」
「いいさ。まあ俺も気分転換に……なってねえな」
ちょっと悩みが増えてしまったからな。ユーシャになんていうべきか……いや、というか言うべきなのか?
実際に見せてみて判断を……いや、あのユーシャの事だ。アイツはああ見えて即断即決する。魔王だと分かれば即殺しに来るだろう。
「ん? 何持ってんだ?」
「これですか? 子供たちが廃材探しをしていたのも……まあ、マクアのためにですかね。ちょっと薬などを。身内びいきですが良い子に育ってくれて嬉しいですよ」
「……そうか」
……なんだろうな。俺のイメージしている魔王と全く結びつかない。色々と聞いてみるか。
「マクアはいつからここにきたんだ?」
「……どうされました? ダメですよ? ちゃんと年齢が成熟するまでは待っていただかないと……」
「なんの話だ。マクアが馴染んでるが、結構最近やって来たと思ってな。いつから来たのかと思っただけだ」
「ああ、そういうことですか……ふむ、いい物件ではありますし……」
何かを企んでいるような表情をするが、さっさと教えてくれねえかなトッシュ。
そこで胡散臭い笑顔になりながら俺に向き直る。
「まあいいでしょう。マクアは半年ほど前ですかね。ある日、他の子供たちに保護されてきたんですよ」
「……他の子供に保護をされて?」
「ええ。何やらショックなことがあったらしくて。そのせいで喋れず、しばらくの間は色々とお世話をしなければならなかったんですよ」
……ふむ。
時期的にユーシャのやって来た日に近いか。符合はするな。とはいえ、こういう情報は相似点を結びつけて考えがちだ。
「そうなのか。大変だったな」
「実はドウズさんを見つけるまでは、ちょっとこの教会でも浮いていて大変だったんですよね。子供達はいい子でも残酷です。自分と違う子はどうしても距離を起きますから……孤独が増して、そしてまた喋らなくなりという悪循環になりかけていたんですよ」
「……ん? おい。なんで俺を見つけたら解消されたんだよ」
「あはは、教会の人気者であるドウズさんを見つけたマクアさんは一躍ヒーローですからね。そういうシンプルな出来事でいいんですよ。子供達に馴染むためには」
「……俺はそう大したもんでもねえと思うんだがなぁ」
「あはは、こうして廃棄地区の子供と仲良く遊んでくれる全身義体の人なんて子供から見たらカッコいいヒーローですよ」
……べた褒めをされると照れるんだが……止めてくれねえかな。
(……しかし、なんだろうな。話を聞く限りで魔王らしいエピソードが見えてこねえな)
情報不足もあるが……俺の内心で否定したいのもあるかも知れない。
……まあここで悩んでいても仕方ない。
「んじゃ、また来る」
「おや、もう帰りますか?」
「えー! ドウズもっと遊ぼー!」
「こっちで、かべごっこしよーよ」
「何だ、その俺が明らかに割りを食いそうな遊びは」
そんなふうに突っ込みながら帰る準備をする。
もう引き止められることもない。というのも、もっと遊びたい気持ちはあるがまた来てくれるという信頼があるのだろう……結構足繁く通っているから、否定できないが。
「またねー!」
「はやくきてねー!」
「ではドウズさん。また。マクアの事はありがとうございます」
「いいさ。俺も助けられたんだ。じゃあな」
そして廃棄地区からもどり……最初に考えるのは、魔法についてもっと理解をするということだった。
「ドウズ、なにか魔法の気配がする」
「うおっ!?」
戻って事務所に入ってから最初に、そんなふうにユーシャから言われて驚く。
「魔法の気配って……そんなのわかるのか?」
「わかる。例えば、雨に降られて濡れてビショビショの人は見ただけでわかる。そういう感じ」
「……そこまでなのか」
「どうしたの? 魔力溜まりにでも突っ込んだの?」
そんな風に聞かれて、俺はどうするべきかを考える。
ここでいきなり魔王の話を聞いてもいいだろう……だが、その瞬間に察した勇者は廃棄地区に飛んでいくだろう。
まだ時間が欲しい。
「ああ。自主訓練をしてたら魔力の強い場所をうっかり見て驚いてぶっ倒れてな。その時に魔力溜まりだったか? そこに突っ込んじまった」
「……廃棄地区にあるの?」
「ん? ああ。教会で面倒を見てる時に暇つぶしにやってたからな。まあ、恥をかいたわけだが……」
「……ふふっ」
「……笑うなよ」
楽しく会話をしながらも、俺の中でチクリと良心が痛む。
ユーシャの探している魔王かも知れないという情報を隠しているという引け目と、それでもあの教会で平和に暮らしている今の状態を崩したくはない……せめて、裏付けをとってからにしたいという気持ち。
(クソ、ガラでもねえ……)
頭をガシガシを掻きながら、俺はユーシャに魔法についての質問をする。
一番いい結末を迎えられるように。
とりあえず更新です。ちょっと時間を取れず短くなりましたが、徐々に話を動かせるようにしていきます
年末なんでこんなに忙しいの……




