いつだって、次なる騒動は突然
忙しかったりして書き溜めが出来ず大遅刻しましたね……
ちょっと年末に向けてデスマに近くなってるので、遅れがちですがなるべく早くお出し出来るようにがんばります……!
看病経験があるかないかでいうと、実はある。とはいえ、遠い義体になるまでの子供時代だが。
リナは電子妖精になる前は相当に病弱だった。義体化手術もできず、隔離ルームで汚染大気に触れないように保護されていた。
そして、よく隔離ルームでも体調を崩して、その時は俺が看病しに来たものだ。懐かしさに浸っていると、苦しそうな声が聞こえてくる。
「せんせぇ……のどかわいたぁ……」
そう言われて、無言で立ち上がり下から水を汲んでくる。ギシギシという階段を降りて下に降りてコップに水を汲む
ここにはちゃんと浄水設備が揃っているからか、ちゃんと清潔な水が飲めている。場所によっては水も買わないといけない事を考えると、随分と快適だ。
だからこそ、ここを守るためにトッシュの奴は手を離せなくなるのだろう。
「んっ……ありがと……おいしい……」
ゆっくり飲ませるとそうお礼を言って眠りにつく。
昔とった杵柄だが、今でも再現できて良かった。流石に病人の看病で失敗すると、義体のパワーだと洒落にならないからな。
(しかし……)
部屋を見渡す。教会の室内は意外としっかりとしている。
部屋の空気汚染率を下げる清浄機に、ベッドも相当に良いものだ。病気の人間を収容するための場所と考えるなら普通かもしれないが、廃棄地区にあることを考えると立派すぎるといっていいだろう。
(そこにある、空気清浄機をバラして売れば廃棄地区でそこそこの家に住めるだろうな。ベッドなんて自分で使うだろうなぁ……)
確かに、これは不在にするのが怖い。非戦協定だの、流石に超えてはいけないラインは存在している。だが、それをあっさり超えてしまう人間もいるのが廃棄地区だ。
守るものがない人間は、いつだって怖い。かつての廃棄地区からの襲撃を思い出してそう思う。
(っと、変な方向に思考が行ってたな)
「……はぁ……うぅ……せんせぇ……熱い」
「……」
「んんっ……うぅ……せんせぇ……?」
マクアは熱でよく周囲をわかっていないようで、俺のこともトッシュだと勘違いしている。その姿を見ていると申し訳ない気持ちがある。いや、でもこういう姿を見られるのは年頃の女の子なら嫌だろう。そう思い黙っているのだが……
頭に乗せていた濡れタオルを取り、汲んできた水に浸して冷やす。そしてタオルを絞り……そういえば、こうして触れるとわかることがある。
今までと違って、俺の手には触覚がある。今までもあったが、あくまでもセンサー等を利用した擬似的な触覚であり……ううむ、説明が難しい。確か、手袋ごしに触るような感覚のようなものが、いきなり手袋を外したような感じだ。
疑似触覚では分からなかった事がわかり、たまに力加減をミスってしまう。意外と触覚は大きい感覚だったようだ。
千切らないように気をつけて絞ったタオルをマクアの額に乗せると、気持ちよさそうな顔になる。
「冷たい……気持ちいい……」
こうしていると、人間の体を失ってから色々と覚えてないことも多いもんだと気づく。
調子を崩すこともない。全身義体は肉体的な健康面でいうなら余程のことがない限りは病気にならない。まあ、メンタル面では別だが。
とはいえ、義体率が五割を超えると細菌やウイルスが原因の病気はほとんど罹患しないようだ。そのせいで医者も義体の技師に鞍替えしたりなどの話もある。
「せんせぇ……手……」
「……」
いいのか? と思いながらも差し出すとキュッと握りしめられる。
……熱いな。温度も前よりも鮮明に分かる。相当に熱が出ているからか、俺の義体に移ってきそう程の温度だ。
「せんせぇ……手がつめたい……きもちいい……」
(まあ、一応義体も機械の腕だからな)
どうやらトッシュと気づかれなかったようだ。まあ熱でぼうっとシているのも大きいんだろうが。
義体の腕は、熱の高い病人からすると冷たいタオルよりも気持ちいいのかも知れないな。しかし、このままだと動けん。
「……ネットにも繋がってねえしなぁ……」
廃棄地区のここはネットワークに繋がらないし、特に暇をつぶすものもない。うなされているマクアを見ているのも悪趣味だろう。
……本気でどうするか。さっさとトッシュに帰ってきてもらいたいところだが……
「……仕方ねえ。魔力を見る訓練やってみるか」
一応、ユーシャから魔力を感じる訓練は出来るとは聞いていた。
訓練では、意識をしてユーシャの手元を見ていた。だが、わざわざそれをしなくても空気中にある魔力が淀んだり溜まっている場所もあるとか。意識をしてそれを見つけれるようにすると良いらしい。
(見つけれるかは分からねえけどなぁ)
そうして力む。なんというのだろうか? 感覚としては脳みそに筋肉のようなものがあるとして、それを力ませるような感覚。脳の奥が熱くなるような感覚がするんだよな。
じっと周囲を見る、見る。見て……うん。駄目だな。さっぱり分からん。
まあ無理かと思ってマクアに視線を向けて俺は思わずぶっ倒れた。
「うおあっ!?」
何が起きたのか? 簡単だ。俺でも見て取れるレベルで魔力が淀んで固まっていたのだ。いうなら、いきなり暗いところから光を当てられたような感覚に仰け反ってしまった。
集中が切れたので見えなくなったが……マクアが起きてしまった。
「……せんせぇ……え、あれ……? ど、ドウズ……?」
「あ、ああ。そうだ。ドウズだぞ。……悪い。起こしたか」
「え……なんで……? なんで……? せんせいは……?」
「ちょっとトッシュが用事があるから、代わりに看病をしてたんだよ……」
そういうと、一気に顔が赤くなるマクア。
……まあ、明らかに気を許してトッシュに対する対応をしてたもんな。自分が油断してる姿を部外者に見られるのは相当恥ずかしい。こういう時は触れないほうが良いだろう。
「うぅううう……」
「調子はどうだ?」
「……すごく……恥ずかしい……熱い……」
「いや、そうじゃなくて体の調子の方だ。まだ熱で辛いか?」
「ううん……ねつは……なれてるから、いつもどおり……ちょっと、つらいくらい……」
「そうか。結構多いのか?」
「うん……」
落ち着かせるためにゆっくりと話を聞いてみる。普段から熱はよく出すらしい。俺が遊びに来るときには調子が良かったのだが、最近はちょっと油断して体調を崩したのだとか。
「そうか。まあ市街地区でも多いからなぁ。身体の弱い子供ってのは」
「……そうなの?」
「おう。試験管生まれでもないとな」
意外とこれは大きい問題ではある。試験管生まれでない場合には、身体が弱く義体化手術を受けれないパターンというのもあるのだ。リナのように。
そういう場合には3パターンの対処方法ある。一つは電子妖精化させる。とはいえ、これも死亡する可能性は高いので数は少ない。もう一つは外付けで何とかする。まあ、これは二番目に多いが……相当に辛いことになる。専用の道具がなければ外に出るどころから室内で飯を食べることすら出来ないからだ。
そして最後は……まあ、安楽死だ。苦しむよりはということで、この選択肢は一番多い。
「まあ、身体が弱いといろいろと大変だろ。でも、よくマクアは頑張ってると思うぞ」
「……でも、みんなに迷惑かけてる……」
「ガキがそんなことを気にすんな。ガキの迷惑くらいで潰れるんなら元から土台が駄目ってわけだよ」
気にさせないようにそう言って頭を撫でる。すると、不思議そうな顔をするマクア。
「……ドウズ……身体、柔らかくなった……?」
「……いや、柔らかくなんてならねえぞ? 俺の身体は義体だからな? 太ったりしねえぞ」
「だって……撫でられて……痛くない……ゴツゴツしてたのに……」
……そういや、何回かマクアも撫でてたな。いや、それよりも……
「痛かったのか?」
「……けっこう……ガシガシされると……」
「……そうなのか。あー、悪かったな」
そうか……気を使ってたつもりだが……そうだよな。そんな細かい動きとか出来ないから痛いよな……
するとユーシャも痛かったのかもしれない……悪いことをしたと反省してしまう。
「いい……撫でてくれると……嬉しいから……」
「ん? トッシュは撫でないのか?」
「せんせいは……撫でたりとかはしないけど……いっぱい褒めてくれる……」
うつらうつらしながらそう答えるマクア。どうやら熱と眠気で普段よりも警戒心が下がってるようだ。
普段からここまで喋ってくれると嬉しいんだけどな……
「そうか。まあ俺の手でよけりゃ撫でてやるよ……」
「ありがと……んっ……眠い……」
「寝りゃいいぞ。しっかり寝て元気になれ」
「うん……」
そう言ってもう一度眠りにつこうとするマクア。
「ねえ……ドウズ……」
「ん? なんだ?」
「……ドウズ……なんで、ピカピカしてるの……?」
「ピカピカ? 義体に蛍光塗料でもついて光ってるのか?」
「ううん……違う……ようせいさんみたいな……あかるいひかり……」
「……ん? おい、マクア?」
衝撃的な一言。
俺の意識は完全にそれに持っていかれる。
「すぅ……すぅ……」
「マクア!? クソ、どういうことだ……!」
眠りについたマクア。だが、俺は起こさないようにと気遣うような思考ができないほどに混乱していた。
妖精みたいな明るい光? つまり、マクアは電子妖精を見ることが出来ている。義体化をしていない子供がだ。それに、電子妖精は投映する際に、身体を発光させたりはしない。
――俺は知っている。当然だ、なにせ……
「ユーシャと同じ……魔力を見れる?」
脳裏で、最悪の想像が繋がっていく。
トッシュから聞いた、数ヶ月前に保護されていた子供。あまり喋らないのも、それはこちらの言葉に馴染みきっていなかったからではないだろうか? そして、マクアに淀んでいた魔力。
そして、俺の中で一つの結論が出ようとしていた。
「……マクアが、魔王?」
幸せそうに眠るマクアの横で、俺は自分の考えをどう扱っていいのか悩むのだった。




