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迷える子羊への答え

遅刻しました

「よう、トッシュ」

「おや、ドウズさん。お久しぶりですね……雰囲気が変わりましたか?」


 廃棄地区にやってきたら、教会の前で掃除をしているトッシュに出くわした。

 閉口一番、そんな事を言われる。底まで変わったように見えるのだろうか?


「いや、俺は自覚してないんだが……ちょっと色々あったな。まあ、色々と忙しかった時期も終わったから悪いことは特にない。俺はまた死にかけてたが、まあ問題はなくなった」

「ははは、ドウズさんは最初からいつも死にかけてますよね」

「あー、全くだな」


 そう言って笑い合う。まあ、トッシュは俺が大げさに言ってると思っているんだろうが実際にシャレにならない回数死にかけてる。

 まこの短い期間の間に、何回夢を見ただろうな……義体で見る夢は死ぬ前にしか見ないなんて言われてるくらいのことなんだが。


「それで、今日はどうされました? 寄付はいつでも受け付けていますが」

「暇だから様子を見に来ただけだ。生憎、俺も仕事がなくて寄付をするほどの心の余裕はねえよ」


 まあ、実際に多少は寄付はできるのだが……トッシュもそういうのは望んではないだろう。


「おや、寄付でもないのに見に来たと。やっぱりいい人ですね」

「いい人なわけあるか。暇じゃなかったら来てねえし」

「そうやって突っぱねるのがいい子の証拠ですよ。それに、暇じゃなくても顔を出しに来てると思いますよ?」


 わかったような顔をして、そう言われる。そういう目線で見られるとつい反論したくなるが……そこで子供っぽく噛み付くと相手の思うつぼなんだろう。

 ……あー、なんだろうな。ふと思う。


「まあ、そうかもしれねえな」

「……おや、どうしました? いつもみたいに怒らないんですか?」

「ああ? 怒らねえが……もしかして、お前わざとそういう言動してたのか?」

「ええ、そりゃそうですよ。わざとじゃないとあんなふうにやりませんよ。もうちょっと私は安全に立ち回る人間ですし」

「ぶっ飛ばすぞお前」

「あはは」


 クソ、わざとだったのかよ。

 いやまあ、最初から飄々としているからそういう事をしてもおかしくないという信頼はある。嫌な信頼だが。


「ドウズさんはからかうと面白いですからね。前の教会前でのやり取りで確信しましたけど……背伸びしてる子供に反応そっくりですからね」

「……子供みたいか。そうなのかもしれねえな」

「ううん。その反応はちょっと面白くないんですよね。で、どうされました? 悩みがあれば聞きますよ?」


 そういって、奥から椅子を持ってくる。掃除はいいのかと思ったが、どうやら手が開いてるからやっていた程度らしい。しかし、面白がるために相談するっていうのも複雑だが……なんとなく話したい気分なので俺も椅子に座る

 教会の前で座る全身義体の男と神父もどきの二人。絵面としては面白いな。当事者じゃなければ笑っている。


「――あー、なんだ。ちょっと相棒を怒らせてな。色々とあったんだが……」

「ゆっくり説明してくれればいいですよ。話せないことは大筋でいいので」


 そう促されて、ゆっくり説明をしていく。詳しいことは話せないが、俺が命を賭けた殴り合いをしたり、それで色々と怒らせたりという今までの話をかいつまんで。

 整理しながらトッシュに話して……ああ、なんとなく理解してきた。誰かにずっと話したかったのか。俺は。

 自分勝手にやって、自分勝手に死にかけて。そして助けられて。色々と俺も悩みが溜まっていたらしい。


(怒られて、泣かれて……まあ、好き放題やったのもあるが……間違ってたのかどうか)


 だが、俺も引けなかった。あの馬鹿野郎の意思を汲んでやりたかった。

 あそこで死んでもいいと思ったのは事実だ。後悔はたくさんあった。生き残った今では生きていてよかったと思っている。それでも、あそこで死ぬことになっても納得はあっただろう。


「――そうだ。最後は意地の張り合いだったんだよ。死ぬ寸前まで行って……後悔はしてなかった。でも、これは間違ってるのかと思ってな」

「ふむ……」


 話し終える。

 リナを怒らせたのも、ユーシャに呆れられたのも。ロクヨウに説教されたのも。俺が悪いとはわかっている。でも、間違っているとは思いたくなかった。

 こんな事を親しい誰かに聞けるわけがない。だからトッシュに話をしているのだろう。それを聞いてトッシュの答えは――


「まあ、普通に馬鹿だとは思いますよ。命がけの殴り合いで死ぬなら馬鹿でしょう」

「ぐっ……そりゃ、そうだよな……」


 トッシュから軽く言われるが、予想通りだ。話していて俺も馬鹿だとは思った。

 やっぱり間違って――


「ですが、間違いではないでしょう? むしろ、そうやって考えてること自体が間違いですよ」

「……そう、なのか?」

「ええ。良い格好をしようとしすぎですよ。我を通すことなんて、多かれ少なかれ馬鹿なことで迷惑なんですよ。大きさの違いです。ドウズさんが死ぬ程度のこと、それはドウズさんの責任でしょう?」

「――そうだな」


 少なくとも、周囲に迷惑はかけるだろうが。泣かれて怒られて色々と不義理をしてしまうだろう。

 だが、俺が死ぬ程度の話だった。


「ええ。ドウズさんが死ぬ程度なんですよ。迷惑でしょうけど、掛け金としては少ないほうだ。場合によっては多くの人の命を巻き込む我の通し方もある。それを考えるとドウズさんはまだ可愛い方でしょう。それに、そういう我の通し方をする人だから、ドウズさんの相棒の子も一緒に居てくれてるんでしょう? 多分、その子は理解はしてるはずです。でも、納得はできてないから受け入れる時間が必要なんですよ。謝るように言った子供には悪いですけど、そう簡単でもありませんから今の距離で正解でしょよ」

「そうか? もっと謝るべきかと思ってたんだが……」

「もう既に謝ってるんでしょう? なら、それ以上は意味がありません。顔を合わせないのは飲み込むための時間がほしいからですよ。理性と感情は別ですから、摺り合わせは必要です。その時間は誰にも居るものです。謝って「ハイ仲直り」なんて出来るなら人は喧嘩はしません。今の対応が正しいですよ」

「……そんなふうにいわれるとは思ってなかったな」


 もうちょっとお茶を濁したような答えを言われると思っていたが……なんだ、思った以上にちゃんと答えてくれた。

 俺は間違ってないか……


「その子はシンプルに考えすぎですね。いい育ちをしているんでしょうけども。正しいからといって、相手が悪いわけじゃない。どっちだって正しいこともありますし、間違っているとしても譲れないものはあります。ドウズさんもまっすぐ過ぎますよ。もうちょっと、ズルくなってもいいと思いますよ? カッコよく見せるのは大切ですけど、カッコいいばかりじゃ疲れるでしょう。ということで、あなたは間違ってない。今のままで誠実に向き合いましょう」


 そう言って締めくくる。

 そんなトッシュを見て俺は思わず呟いた。


「……すげえな。神父みたいだお前」

「まあ代理ですがね」


 そう言って笑うトッシュだが、俺としてはなんとなく心が軽くなったと感じる。

 ……まあ、色々と行っていたがシンプルだ。リナは時間が必要で、間違っていると考えることが間違いだと。

 確かにユーシャにカッコよく見せようと思って頑張っていたが……そのせいで方向性を見失ってちゃ意味がないか。


「まあ、ドウズさんはなんだかんだ言って子供ですよ。格好をつけたい子供なんです。悪いとはいいませんが、ちゃんと気の抜き方を覚えないと潰れちゃいますよ?」

「そうか……そりゃ経験談なのか?」

「はは、まあご想像におまかせします。まあ、ドウズさんが最後に選ぶことですし、好きにしていいと思いますが」


 ……まあ、ちょっとだけ自覚はしてたが子供っぽいか。

 俺の周囲にいる人間にマトモな大人が居なかったからな。どうしても、大人らしさというものが身につかなかった。

 ……いや、ロクヨウのオヤジのドクターが変人過ぎたのもあるが。俺の周囲にまず、マトモな人間がいないんじゃないか? 便利屋稼業もロクヨウの親父が死んですぐに始めたせいもあって……いや、止めておこう。考えすぎるとドツボだ。


「……っと、そういやガキ共はいないのか? やけに静かだが」

「今更ですねぇ。あの子達は廃材集めですよ」

「……行かなくていいのか?」

「マクアが熱を出して寝込んでいまして。ここにいないと不安なんですよ」

「ああ、そういうことか……おいおい、そりゃガキ共も不安じゃねえか?」

「まあ、慣れているでしょうし無理はしないようには言いつけてます。心配は心配ですが……病人を放置する方が怖いですよ?」


 そう言われてしまえば、確かにと思ってしまう。

 容態が急変するかも知れない。この廃棄地区において、弱っている人間は食い物でしかない。衛生環境も悪いここではマトモな医者に見せるにも苦労するだろう。

 ……とはいえ、ガキ共だけで廃材探しをさせるのも不安だよな……


「……よし、俺が面倒見ててやるから行って来い。説法の礼だ」

「いいんですか? てっきり廃材探しの方に行くと思ってましたが」

「病み上がりだし、あのガキ共を制御出来る気がしねえ。慣れてる奴に任せるのが一番だろ」

「なるほど。納得しました。ではお任せしてもいいですか?」


 そう言われて、任せろという。

 するとテキパキと準備をしてスグに外へ出ていくトッシュ。なんだかんだ言って心配だったのだろう。

 ……そして、見送ってからふと気づいた。


「……俺、看病なんて子供のとき以来だぞ?」


 任せと言っておきながら、不安しかないスタートを切るのだった

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