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いつもどおりのようで、変わる日々

8:00更新で再開です

 激動の日々。ガラクとの一件。死にかけて蘇り、リナをブチ切れさせたりもした。

 その忙しすぎるほどに忙しい日々も、気づいたら既に一ヶ月も経過していた。まあ、無理をするなとロクヨウからわざわざ注意をされていたので動いてないせいもあるのだが。

 テンドウ社との和解は気づいたら終わっていた。リナがやってくれたらしく、口座に賠償金と言う名でかなりの口止め料が振り込まれていた。テンドウ社は最近体制の変更やら、人事的な移動が大きくあったと話題になっている。今まで、バランスを保っていたテンドウ社の内変は他の事業に大きく影響を……などとニュースでは報じられている。だがまあ、ここに関しては俺たちには関係ない騒動の末の結末だ。

 そんな中で俺は何をしているのかといえば――


「……暇だ」


 事務所のソファの上で暇を持て余していた。座って適当なニュースを見る日々。

 もう既にロクヨウからも普通に動いて大丈夫とお墨付きは貰った。ではなぜ暇をしているのかというと……仕事がないからだ。


「あー、くそ。まさか仕事がないとここまで暇になるとは……」


 ワーカーホリックというわけではないが、最近の激動の忙しさに比べて平穏すぎて何やら気が休まらないのだ。


「リナも居ねえしな……」


 ……あれから問題があり、本気で怒ったリナが家出をしてから一切俺にコンタクトを取っていないのだ。

 全くこういうことがなかったわけじゃないが、一ヶ月以上も俺との連絡を断つレベルは久々だ。このレベルは……俺がリナの手術費用を稼ぐために全身義体の手術をした後に、そのことについてドクターにチクられた時か。あの時以来かも知れないな。

 あの時は……確か半年か。電子妖精が連絡を断つと、本気で俺たちには捜索できない。同じ電子妖精に頼むくらいしか手段はないが、人脈の問題で手回しされているだろうし無理だろう。。


「まあ、少なくとも元気では居るんだろうが……」


 そういって仕事の依頼メールを見る……ボックスの中身は空っぽだ。しかも、迷惑メール含めて一切来ていない。実は、一ヶ月前から俺の操作を受け付けていないのだ。これもリナのせいだろう。

 多分、自分の見てない所で仕事をして巻き込まれんじゃねーよという意思表示なのかもしれない。賠償金で今まで相当に苦労していた金銭面が一切問題なく、テンドウ社との騒動も終わってユーシャからもらった物も売れる。だから問題はないのだが……


「俺はここまで無趣味だったのか……暴れられねえしなぁ……」


 ぼやいていると、扉の開く音。


「ただいま……けほっ」

「おう、おかえりユーシャ。身体は大丈夫か?」

「うん、大丈夫……ごほっ! ごめん……やっぱりちょっとつらい」

「んじゃ、こっちで座っておけ。寝ても誰も文句は言わねえからよ」

「うん……」


 起き上がりユーシャを迎える。ユーシャを座らせると、一息ついた。

 ユーシャはあれから一時的にロクヨウの事務所でのアルバイトを休んでいる。というのも、肺や臓器へのダメージがあまりにも酷かったのが原因だ。

 ロクヨウいわく、「よく分からない力で異常な速度で治ってきてるけども、ここまでダメージを受けてる肉体はそうすぐには治らない。一年は見ておくべき」とのことだ。そのせいで、普通にしているだけでもユーシャは目に見えて体力が落ちている。肺機能の低下で呼吸が上手く出来ていないことなども原因らしい。

 まあ、これに関しては俺の不徳の致すところだ。辛そうな顔をしているのを見ると、胸が痛む。


(……まあ、言うとユーシャに気遣わせるから言えねえけどな)

「ロクヨウさんから、ちゃんと安静にするようにだって。……それで、リナさんは?」

「リナか……連絡は取れねえが……ほれ、外部からメールは全部消されてる。リナしか出来ねえよこんな事。だから元気では居るんだろう。心配しなくても大丈夫だ」

「そうじゃなくて、ドウズはちゃんと謝った?」

「……ああ、いや、まあ。謝罪はしてるんだが……聞いてくれるかどうかは別だからな」


 最近、ユーシャは俺とリナについてやけに口を出す。まあ、俺も困ってはいるんだが……ユーシャはリナの味方なので俺の肩身が狭い。

 今も俺の返答に、不満そうな表情をするユーシャ。


「ちゃんと謝らないと駄目だよ。ちゃんと顔を見て――」

「いや、顔は見れねえんだが」

「今のドウズなら、探せば見えると思うよ?」

「いや、アイツは電子妖精だからどうやっても……ん? あー、そういえばお前は確か――」


 言ってから気づいたことがある。そういえば、ユーシャはリナのことを……


「うん、私は見えるよ。よくわからないけど、私の世界に居る妖精と一緒で、魔力を見る感覚で見えるの」

「そうか。それを聞いたらリナは興味を示しそうだな……それはそれとして、俺にはさっぱり見えねえんだけどな」


 忘れそうになるというか、騒動中はリナは忙しくしていたので忘れていたがユーシャはリナの姿を見ることが出来る。

 それに関しては魔力とやらが関係して、電子妖精が見えているのではないかという仮説をリナは立てていた。本人も、それに違いないとは認めている。


(まあ、つまり魔力に適応した俺が見える可能性が高いって話だったが……)


 あの時、魔力酔いという現象が俺に起きてると言われたのだが……それは、魔力に慣れてない人間が高濃度の魔力のある場所に行くと気分が悪くなる現象だという。場合によっては昏倒することもあるらしい。

 こっちの世界で言うなら、高山病とかに近いのだろう。薄いか濃いかの差くらいで症状も似ていた。


「本当に見えるのか? 俺にはさっぱり出来る気がしねえんだが」

「この世界は魔力が多いから、多分出来る。私の世界だと才能がないと使えないくらいに大気にある魔力は薄かったけど」

「そうなのか?」

「うん。こっちに比べると雲泥の差。最初来たときも、ちょっと酔いそうになったんだよね」


 そこまでの違いがあるのか……とはいえ、俺が魔法を使える夢は絶たれたが魔法を感知できる可能性はあるらしい。

 ということで、やることのない俺と動けないユーシャは……


「じゃあ、今日も特訓しようね」

「まあ……暇だしいいんけどな……それって本当に効果あるのか? 未だに見えねえぞ?」


 魔力を見るための訓練をしているわけだ。

 ユーシャもこっちの空気に馴染んだからか、最初みたいに爆発させることはなく操れるらしい。

 しかし、俺は未だに魔力とやらが見えないのでそう聞いてしまう。


「根気が必要だし、多分出来るようになる。もし魔力を見れるようになったら、ドウズも一緒に魔王探しが出来るし……魔法の話をできる人が増えたらちょっと嬉しいから……」


 恥ずかしそうにしながらも、そう言われると俺としては断れない。

 ……やっぱりズルいよな。子供のおねだりってのは。



 じっと俺はユーシャを見つめる。それはもう穴を見るほど。

 ユーシャは、手元で何かをしていて……ボヤッと歪んで見る。


「ドウズ、これはどう?」

「……………………分からん」

「んー、一つでも駄目?」

「うっすらとは見えるんだが……」


 何をしてるのかといえば、何でも魔力をユーシャが練り上げて塊にしているらしい。手に持ってる魔力のボールは何個あるか? という訓練だ。

 当てずっぽうで答えても意味がないのでしっかり見ているのだが……俺には上手く認知出来ない。ユーシャ曰く、加工した魔力を見れるようになれればいいらしいのだが。


「本当に見えてんのか?」

「見えてるよ? 向こうの世界では必要な訓練だし、皆出来る。これが出来ないと、いきなり魔法に巻き込まれて死ぬこともあるから」

「ああ、そりゃそうだよな……てか、そんなふうに可視化して見えるもんなんだな。てっきり魔力による攻撃なんて見えないもんだと思ってたわ」

「それは、こっちの世界の人が魔力を使えないからそう感じるだけだと思う。そうじゃないと、すごい理不尽な力になって魔王にも勝てなかったよ?」

「まあ、そりゃそうか。」


 まあ、魔法自体は「すごい理不尽な力」だとは思うが。それを言うのは不粋だろう。

 だが、見方次第ではこっちの世界のステルス迷彩やら、義体による戦闘力やら不可視の毒ガス。生身の人間には対抗できない理不尽な力だろう。

 魔法とやらも、相手が人間なら対処はできる。向こうの世界でも相当な実力者のユーシャですら回収屋にしてやられたのだ。だからお互い様なのかも知れないな。


「――ねえ、ドウズ? 聞いてる?」

「ん!? おお、なんだ?」

「今は何個あるでしょう?」

「……分からん。でかくボヤッとしてる」

「んー、感知は出来てる。だけど、意識してみることは出来ないのかな……? そういう時はもっと訓練方法を変えて……」


 考え込んでいるユーシャ。手慣れている事が気になって聞いてみる。


「そういう、教えるのに慣れてるのか?」

「え? うん。さっきも言ったけど、魔力が見えないと魔獣の使う魔法に当たったり、人の使う魔法に当たるから。ちゃんと教えれるように皆教わる。魔力を見づらい体質の子もいるから」

「ほう、ユーシャも教えてたのか?」

「うん。たまに魔王を倒す勉強と訓練の合間に。親のいなくなった子に教えてあげてたの。意外と頼られてたよ」

「……いいことだな」

「だって、誰かがやらないといけないことだから」


 なんてことはなくそういうユーシャだが……この、どこか子供っぽい少女が誰にも甘えられなかった理由を察することが出来た。

 だからこそ、最初のユーシャの言動か……まあ、このユーシャが子供っぽく居られるようにもっと俺がしっかりすればいいか。


「うーん、特訓メニューは見直してみる。なるべく休むようにロクヨウさんから言われてるし」

「そうか。留守番でいいか? ちょっとでかけてこようと思ってな」

「ドウズ、どこに行くの?」

「ああ、廃棄地区に行こうと思ってな」


 先程のリナとの会話で、しばらく顔を出していない事に気づいた。別に約束をしているわけでもないが……


「廃棄地区だと……教会?」

「ああ。ガキの話をしたら、顔を出さないとマクアとかはまだ心配掛けてんじゃねえかと思ってな」


 俺が寝ている間に世間の動向は調べたが、廃棄地区の動向は入ってこないので自分で調べるしかない。

 そういうわけで、廃棄地区に顔を出そう。


「……リナさんにちゃんと謝ってないのに?」

「ぐっ……! ちゃんと謝罪する機会を貰えるように連絡しておくよ」

「忘れたら駄目だからね?」


 まるで親か何かのように注意されて見送られた。

 ……弱みを握られてると、最後まで締まらねえなぁ。

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