襲撃とかサイボーグバトル
『じゃあ、これは※(何)?』
「※※※……※……?」(何って……水……?)
『※(水)ね? んー、おーけー』
「……何してんだ?」
しばらくの間、二人を奥の部屋に避難させて片付けをしていたのが終わり、様子を見に行くとリナが映像を見せながら何かを聞いていた。
言葉もわからないだろうに何をしているんだ。
すると、リナはこっちを見て答える。
『何って、今は言葉のサンプルを集めてるの』
「サンプル?」
『そうそう知り合いの言語学者に翻訳依頼するから言語サンプル。ある程度ワードを特定できたらそこを皮切りにして徐々に言語を把握できるようになるんだって。方法も教わってそれで実践してるの』
「……そういうもんか?」
『そういうもん、そういうもん。それでドウズ、片付けの業者は頼んだのー?』
「ああ。連絡しといたぞ」
壊れた天井から落ちてきた瓦礫の廃棄と天井の修理。流石にオレ個人でやるのはきつい。ちゃんとした業者を頼んだ。
しかし、どうするか。子供の世話をするならばまずは食事だが……
「よく考えると……久々に買うんじゃねえか? 人間用の食事なんて」
『確かにねー。全身義体になってから買うことないし。最近は高いらしいよ? ぶっちゃけいいの買ってたらお金持たないからね?』
「そうか……まあ必要経費と割り切るしかねえんだが」
割高ではあるのだが……まあ、変なもんを食わせるよりはマシか。注文リストを眺める。
……固形食と流動食パターンがあるが、流動食はどう見てもゲ……いや、やめとくか。固形食は……マジで高いな。こんなに高いのか。下手な武装よりも高いじゃねえか。銃弾よりも高い食事というと、なんというか暗い感じになるな。てかマジで高いな。
値段と見た目のバランスで唸っていると――
『うぎゃーーーーーー!!!』
「うおあっ!? どうした!?」
リナの悲鳴に何が起きたかと視線を向ける。
子供も怯えている。敵かと思ったが、リナの表情を見ると違うようだ。
『げほっ! ごほっ! ごめっ! ……あー、はぁ、本当にごめん! ちょっとスパム連絡されて情報量でバグりかけてた』
「スパム連絡? 何やったんだ」
『さっき行った言語学者。最初の方は「あー、はいはい。また暗号解読? つまらないんだよねぇ」みたいな顔してたけどサンプル送ったら一瞬私が処理落ちするレベルで情報を聞き出そうとしてきたの。そのせいでちょっとバグっただけだから安心して。くそう、アホじゃないの。電子妖精で処理落ちクラスの情報量送るって下手な機械焼ききれるじゃん』
「……ああ、なるほど。俺に直接データを送りつけたのと同じか」
『そうそう。アレのとんでもなくヤバいバージョン』
「※、※※※……※※※?」(え、えっと……大丈夫?)
心配なそうな表情でリナのことを少女が見て何かをいう。多分心配してるんだろう。
やっぱり見られていることに慣れないようで、居心地の悪そう表情をするリナ。電子妖精は基本的に現実では、自分の姿を見せるのも見せないもの自由自在だ。だというのに、義体化をしていない人間に自分の位置を把握され続けるのはホラーに近い気分だろう。
これで見ていることに悪意でもあるなら、相応の仕返しをするだろうが悪意がない子供だからな。そういう意味でも仕返しが出来なくてモヤモヤするんだろう。
『うー、まあそれでノリノリで今から解析してくれるって。長くても一週間で完全翻訳できるんじゃない?』
「早すぎねえか? いくらなんでも。未知の言語だろ?」
『電子妖精だしねー。寝なくてもいいしご飯もいらないし興味のある分野には24時間ぶっつづけて活動する存在がやる気出してるんだよ? このくらい普通普通』
「……報酬が怖えな」
『あー、いらないいらない。むしろあげたら怒られるよ』
「……ん? なんでだ?」
無報酬を疑問に思い、聞いてみる。電子妖精でも普通に依頼料を取るはずだが……
むしろこっちから礼をしないほうが不味いんじゃないだろうか。
『基本的にご飯もいらない、寝なくてもいい。興味のある分野に対してお金をかけてるだけの電子妖精だから、むしろ報酬を払ってでもこういう依頼はやりたいの。お金を取ったら依頼が報酬前提でしか来なくなるでしょ? 退屈と暇は電子妖精の大敵だからこそ、むしろタダで受けるの。どうせゴミ依頼を持ってきたら報復で廃人にするし』
「こええな……まあ、そういうもんか?」
『そういうもん。自分の生きる糧に価値をつけて来なくなる方が怖いんだよね。だから報酬無しで依頼すればオーケー。とりあえずしばらくはその子の面倒を見てたらいいかな』
「※※※……※?」(えっと……何?)
困惑しているが、まあいい。しばらくはペットでも飼っている気分で世話をすればいいだろう。
頭をなでて、食事の準備をするかと考える。とりあえずは無難そうな固形食で……
「……そういや、飯はどうするか。リナ、なんかツテとかあてはあるか?」
『んー、あるある。ちょっとまってて……あれ、お客さんだ』
その言葉と同時にチャイムが鳴る。客……というと、頼んでいた清掃員だろうか。
とりあえず確認に行き、扉を開ける。すると、そこにはにこやかな顔を浮かべた作業員らしき男がこちらに笑顔を向ける。
「どうも、ここがドウズ便利屋さんでよかったですかね?」
「ああ。あんたが清掃屋か?」
「はい。今回はご連絡ありがとうございます」
『じゃあ、私達はとりあえず適当に引っ込んでおくから応対お願いねー』
(了解)
リナから連絡を受けて中に通す。バラバラになった天井と散らかった床を見て、これは酷いといいたげな顔を浮かべている。
「いやー、こりゃ酷いですね。なんですか、戦争でも起きたんですか?」
「爆発事故が起きたから、あながち間違ってねえな……それで、作業はどのくらいかかりそうだ?」
「そうですね……概算で良ければ端末で見せましょうか?」
「ああ、頼む」
その言葉に、そのまま懐に手を入れて……
「じゃあ、これです」
取り出されたのは小型の大口径対戦車用ミサイル。
「は?」
「ひひっ、じゃあな!」
笑顔で、トリガーが引かれ俺に小型のミサイルが打ち込まれる。
「うおおおっ!?」
閃光。爆発。衝撃で玄関先が崩れ、俺は瓦礫の中に埋もれる。奥の私室などに通じる扉が緊急事態を察知して自動的に防護壁が降りる。
「ひゃははははははは!! いやあ、瓦礫に埋もれてるがパーツは残ってるかぁ? 跡形もなく吹っ飛んだら困るんだよなぁ。さて、証明にパーツの一つでも回収を……」
「いってえな!! このクソヤロウ!」
瓦礫の中から起き上がり、ミサイルを打ち込んできたクソ野郎の顔面を殴り飛ばす。
金属音と共にそいつはぶっ飛んでいく。見た目は義体率の低いサイボーグだったし顔は生身だ。だというのに、この金属音ということは、強化骨格か?
ぶっ飛びながら空中で態勢を立て直して、襲撃者は綺麗に着地する。
「くそっ! タダでさえ散らかってたのにもう廃墟じゃねえか!」
「ぐっ、ひ、ははは!!! 嘘だろ! 小型とは言え、対戦車用ミサイルだぜ!? 特注の全身義体って噂はほんとうだったのかよ!」
「んで、何だお前。強化骨格なんて暗器を使いやがって」
バキバキと、体をほぐす。流石に無傷とは行かなかったが、致命的なダメージは受けていない。玄関は悲しいことに大打撃だが。
強化骨格というのは、骨を特殊な金属に置き換えるものだ。骨を置き換えるだけならサイボーグとしての義体率を誤魔化せるので、相手を油断させられるメリットがある。
と、そこでリナの声が届く。
『ドウズ! そいつは殺し屋! 『パレード』って名前の有名な奴! 気をつけて!』
「『パレード』!? 殺し屋でそんなアホなあだ名がつくのか!?」
『アホなのに強いからついたの!』
「なるほどな!」
「ひはははは! いいねぇ、いいねぇ! 銃火器も使わず殴り飛ばすたぁ、いいねぇ!! 全身義体者なんてのは、つまらねえ奴らばっかりだと思ってたぜ! いいねぇ! 退屈な依頼がとんだサプライズだ!」
殺し屋のパレードとかいう奴もゴキゴキと首を鳴らしている。顔面を殴り飛ばしたというのにダメージは受けていないようだ。
できるなら外に出てやり合いたいところだが……この事務所を襲撃してきた以上は、外で戦わせないということだろう。無理に場所を変えようとして事務所を破壊されるのは致命的だ。だから、ここで戦うしかない。
さて、とりあえずはやり合う前に軽口代わりに質問を投げてみる。
「――おい、なんで俺を狙っている。誰からの依頼だ?」
「ひははは! 狙う理由なんて一山幾らの殺し屋が知るわけねえだろ! まあ、お前さんはテンドウ社からの覚えが悪いみたいだけどなぁ!」
「言ってるじゃねえか。……んで、テンドウ社? なんであの大手が?」
「ひひひ、知らねえなぁ!」
やけに口の軽い殺し屋だな。まあいい。
テンドウ社は大手のパーツ会社だ。中央も無視できないレベルの総締めであり、サイボーグの半分はテンドウ社製品を使っているとまで言われている。
……俺がソニック社の信者だからか? と、冗談はさておき。裏付けは後で取ればいい。
「廃棄街で悪巧みをしてたのもの、テンドウ社なのか?」
「さぁてなぁ!」
「答える気はないってか?」
「知らねえもんを知らねえといって何が悪いってんだぁ?」
ヒヒヒと笑って質問を断ち切って殺し屋は、俺へと飛びかかってくる。ステップを踏んでの顔面への正拳。
攻撃を躱し、そのまま反撃とばかりに俺も拳を振るう。殺し屋もスウェーで俺の拳を躱す。
一瞬だったが、お互いの動きが洗練されていた。サイボーグとしての動きも完璧だ……つまりだ。
「義体術の使い手かよ。それも有段者だな」
「御名答だぜぇ! いいねぇ! 良く知ってるなぁ、便利屋さんよぉ! お前さんの噂はちょっとだけ聞いてたが、噂ってのはやっぱりだめだなぁ! 偏屈な全身義体化をしたゴロツキ崩れ!? 違うよなぁ! そんなやつなら、挨拶のミサイルでお陀仏だ! いいねぇ、悪かったなぁ! 無粋なミサイルなんて打ち込んでよぉ!!」
「謝るならやるんじゃねえ!」
「ひひひ! 全身義体者なんて火力と装備が全てと考える武装至上主義者で効率厨共だからなぁ! 格闘術の理合すら理解してるやつなんていねえから、俺としたことが大失敗だったぜぇ! ああ、戦いってのは楽しいなぁ! 便利屋ぁ! お前もそう思うだろぉ!?」
「クソ、話が通じねえ!」
会話をしているようで会話になっていない。クソ、わざわざ殺し屋をするくらいだから人格的にも破綻している異常者だよな。
思考をしながら、左側頭部への蹴りを防御する。腕で受けたが、ギシギシと俺の腕がきしみを上げる。くそ、どうやら強化骨格にして、さらにパワードスーツを装備してるようだ。この威力、殆ど義体と変わらねえだろ。そのまま、殺し屋と俺の数手の攻防が続く。
隙を見つけた俺がもう一度、蹴りを受け止める。今度は完全に捕まえた。その瞬間に、パレードはその足を軸にして曲芸のような回し蹴りを仕掛けてくる。手を離して弾き飛ばす。距離を取り、構え直すと奴も同じように構える。
「いいねぇ、わかってるなぁ。義体に覚えさせた付け焼き刃の戦闘術じゃねえ、実践で脳髄に覚えさせた生のモノだ。理合も分かっている。ひひ! いいねぇ!」
「くそ、本当に厄介だな。それと、お前は義体術にアレンジ加えすぎだろ」
「ひひひ。仕方ねえだろ? 義体に教本をインストールして戦いを分かった気になっているバカをさくっと狩れるからアレンジくらい加えるさ」
「確かに。そりゃそうだ」
「それに対応してくるお前さんのほうがよっぽどだけどなぁ……! これでも、有段者にも不意打ち出来る奴なんだぜぇ?」
「さっきから必死だっての」
義体の勝負は人間の反応速度を超える勝負だ。筋力だけでなく身体能力全てが圧倒的な義体。その比率が低ければ勝負にならないと言えるほどに絶望的なまでの差が生まれる。最初期には、人間に必要なのは反射神経だけだ言われた程に義体に比重が置かれていた。
そんな中で、理合と徹底した義体への対処を追求した戦闘術として生まれた。それが義体術だ。対サイボーグに対しては、近接戦闘では義体率など関係なく渡り合えると言われるほどで、達人であれば生身に近い状態でもサイボーグをブチのめせるという。とはいえ、サイボーグ側もデータ化した戦闘術をインストールして利用し始めたり、まず格闘戦をしないという対策もしてきた。だが、廃れずに未だに使い手が多いことがその有用性を物語っている。
そして、この殺し屋の野郎はそんな義体術の達人だ。動き方から何までに淀みがない。そして、大抵の動きに対して義体術を使う奴にとって初見殺しとも言えるような「ずらし」を入れている。正拳、手刀、蹴り、様々な攻撃がそれぞれ、義体の可動域のギリギリを狙っている。教本通りにすれば死角が生まれる。詰将棋のような戦い方。
インストールして覚えた付け焼き刃ならあっさりと死ぬし、俺みたいにキチンと習った奴でも対処するために精神をすり減らして面倒だ。数発をいなした後に、声をかける。
「なあ、そろそろ諦めねえか? 給料分は働いたろ」
「ああ? ああ、そういや仕事だったな! でもなぁ! 生憎だが、こんなに楽しいのは金を払っても味わえねえからなぁ! もっともっとやろうぜぇ!」
「ちっ! 商売意識が低すぎんだろ!」
「ひはは! 趣味が混じってなきゃ殺し屋なんてしねえよなぁ!?」
そういいながら、まっすぐと拳を打ち出してくる。俺はその腕を受け止めてそのまま捻って関節を壊しに行く。だが、一瞬で捻った方向に身体を回転させて抜け出される。そのまま、振り払うように弾き飛ばされ、仕切り直しだ。
「ひひひ! サブミッションなんざ久々に見たぜぇ! 全身義体だってのに、本当に楽しませてくれるなぁ!」
「おいおい、どんだけ対応するんだよ」
どこまでも楽しそうな殺し屋に、ゲンナリとする。
クソ、下手に時間を伸ばしても意味がないか。商売意識の強いやつなら報酬外になれば撤退するんだが。
『ちょっとドウズ~! そろそろ終わらせないと、こっちまで被害くるから! あと、この子が興味持ってそっち行っちゃうよ!』
「ああ、終わらせるしかねえか」
まあ、仕方ない。覚悟を決めて構えを変える。それは一撃を当てるために力を入れやすくした、最大火力でぶち抜くための正拳の構え。
「おー! いいねぇ! 一撃にかけるってのか!? ロマンだねぇ! 嫌いじゃねえなぁ!」
「おう、乗ってくれて助かるぜ」
「いいぜぇ! その代わり、アンタをぶち殺して代金代わりにしておくぜぇ!」
やはり乗るか。享楽主義な人間なら、あからさまな一撃狙いであっても受けるとは思っていた。
相手も受けるために俺の一挙一動を観察する。沈黙。パイプから鳴り響く音も、外に流れる広告の音も、全てが遠くなる。
――そして、ガタッと天上から残りクズのような瓦礫が落ちてきて、それが合図になる。
「うおおおおおおおおおおおおおお!」
「ひはははははははははははははは!」
全力で突進する。正面からの一撃を、殺し屋は正面から受け止める。ぶち抜け……ぶち抜け!
「――ひはっ、悪いな!」
だが、俺の手に衝撃が走り、止まる。
視線を向ければ、そこには極小のシールド。義体ではない、外部に装着していた拡張兵器か。
一瞬だけ、気を取られる。
「テンドウ社の新作らしくてねぇ!! ミサイルですら防げる優れもんってわけだ! 悪いなぁ! 騙し討ちも殺し合いの華ってわけでなぁ!」
正面から受け止めるというのはブラフで、テンドウ社の新作のシールドで受け止める算段だったのか。
この野郎。してやられた。
「ひはは! じゃあな!」
そのまま反撃のために体制を変え、ヤツの腕が俺の頭部を破壊しようと振りかぶられ――
「ああ、お前がな」
受け止められた右腕の手の平を開く。
コンマ一秒の間、ガキンと俺の腕でギミックが起動する。熱量が上がり、俺の腕で準備が完了する。
「ぶっ飛べ」
「あ?」
轟音、衝撃。
俺の右腕が引きちぎれそうなほどの勢いで発射されたソレは、シールドをぶち抜いて振りかぶっていた殺し屋の野郎の胴体を貫き吹き飛ばす。
右腕から発射されたのは、人間の腕の大きさと同等の杭だ。それが、レールガンと同じような勢いで射出されたのだ。小型のシールドで受け止めれる威力ではないだろうという予想は大正解だったわけだ。
そして、殺し屋は壁にピン留めされた昆虫のように貼り付けになっている。胴体を杭で貫かれ、血とオイルの混じった液体が流れている。口から血を吐きながらも、笑みを崩していない。
「ひ、ひひ……おいおい、何だそのギミック……」
「ソニック社製、仕込みパイルバンカーだ。仕込んでも違和感はなし。威力は対戦車ミサイル超え。さらに値段もお手頃価格だ」
そこまで聞けば、とてつもなく有用装備に聞こえるだろう。
まあ、実際は……
「便利屋ぁ……お前の腕、ボロボロじゃねえかぁ……! ひひっ、おいおい……意味がわからねぇ……そんなバカ兵器を仕込むくらいなら……重火器の一発でも仕込んでる方が……余程使えるだろうによぉ……」
殺し屋の言う通り、反動で右腕に多大な負荷がかかる。人間で言うなら骨を発射して打ち込んでいるようなものだ。撃った後には右腕は使い物にならなくなり、確実に工房送りだ。
だが、威力は折り紙付き。右腕を犠牲にして杭をぶっ刺す兵器だからこそ、下手なバリアでも防御壁でも貫通する。だが、何よりも……
「ああ? うるせえな。ちゃんと理由はあるんだよ」
「理由……? なんだぁ……?」
わざわざこんなに、リスクとリターンが見合っていない兵装を使っている理由。それは――
「こっちのほうが、最高に格好いいだろうが」
「は……?」
「ロマンがなけりゃ、戦いなんてしねえよ」
そう、シンプルな理由だ。最高に格好がいい。
負けたくはない。だが、それ以上に求めたいロマンがある。だからバカ兵器メーカーとして有名なソニック社に傾倒しているわけだが。
「……………………」
呆れたのか、流石に殺し屋も黙って――
「ひ、ひひ! はははははは!!! 最高だ! さいっこうだぁ! おもしれえ、おもしれえ! 惚れたぜぇ便利屋ぁ!」
「うお、何だ!?」
こちらを見つめる視線が不気味だ。まるで、欲しい玩具を買ってもらった子供のような純心無垢で、真っ直ぐに見つめるキラキラとした目だ。
「ひひ、便利屋ぁ! お前は運命だ! 俺は、お前と出会うためにここに来たんだなぁ! ひひ、ひははは!! ああ、次の殺し合いが楽しみだなぁ!」
「……おい、殺していいか?」
『うん。良いと思う。イカれてる奴から手に入れた情報とか信憑性ないし』
「じゃあ、ぶっ殺すか」
流石に頭を潰せば死ぬだろう。
そして、気だるく動きながら頭を潰すためにピン留めされた虫みたいになってる殺し屋の頭部を破壊するために左腕を振りかぶり。
だが、急に伸びてきた巨大な義体の腕に受け止められた。
「――お前は」
目線を向ければ、黒いコートにガスマスク。まるで葬儀屋のように辛気臭い男。
だが、知っている。コイツは……
「なんでお前が割り込むんだ、回収屋」
「悪イガ、仕事デナ」
回収屋。俺と同じ全身義体の珍しい存在であり、依頼があればどんな物でも回収をしてくるという仕事をするサイボーグだ。
普通ならば、どこぞの忘れ物だの、危険地帯にある物品の回収を請け負っているはずだが……
「ソコノ『パレード』カラノ前依頼ダ。死ニカケタラ、回収ヲスル契約ニナッテイル」
「……ちっ、なあ? そこは譲ってくれねえか? これを残してたら面倒そうなんだよ」
「無理ダナ」
「だよな」
仕事意識の強いコイツから、交渉をしてもその殺し屋を引き取るのは無理そうだ。
……クソ、この殺し屋野郎を逃すのも面倒そうだ。
「……」
杭を抜いて担いでいる回収屋を見る。右腕は動かず、先程の戦闘から爆発からかばったダメージ。複合しても相当に分が悪い。
「無理矢理、奪ウナラ辞メテオケ。無駄死ニダ」
――事実だが、イラッとした。
「へえ、無駄死に? 俺が死ぬってか? お前に負けて?」
「アア。ソウダ」
「――試してみるか?」
「ホウ、自殺願望ガアルノカ」
空気が凍る。お互いにピリピリとして、キッカケさえあれば殴り合いに……
「おおい! だめだぜ回収屋! 便利屋は俺の獲物だ! さっさと連れてっていてくれよな!」
「――ソウダッタナ。デハ、命拾イシタナ。便利屋」
「待て――」
「ひはは! またな便利屋ぁ!! ああ、そうそう! テンドウ社に頼まれてお前さんの事務所に襲撃したぜぇ! どうにも、お前さんたちのせいで確保してた何かが潰れたらしいからなぁ! ひはは! これが勝利のご褒美だぜぇ! それで、俺の名前はガラクだ! ガラクだぜぇ! 覚えてろよなぁ!」
最後に言い残して、回収屋と共にガラクは消えていった。
……最後に回収屋がこちらを見て、フンと笑っていたのが見えた。同情の視線だ。
それのせいで、俺に甚大なダメージが残った。プライドに対するダメージが。
「ぐうおうううううう! あの野郎……! 次あったらぶっ殺す……!」
『ドウズ、そんなことよりさっさと、工房送りだからね! 後、あのバカ兵器本当に仕込んでたの!? あの時私はちゃんと内蔵の大口径銃の方をおすすめしたよね!?』
「……あ、ヤベ」
内緒で装備したんだった。
シャットダウンできないリナの声がひたすらに俺に説教をしてくる。
説教をする声を聞き流しながら、この惨状にもう一度業者に連絡しねえとなと思うのだった。
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